第2話:絆いずな
はぁ、昨日のあれはなんだったのか……。知らない人がなんとかしてくれるとか、少しでも期待した私が馬鹿だった。
今朝も朝から上靴は隠されていたし、下駄箱の中にはゴミが入れられていた。教室にはホームルームが始まる直前に来てできるだけ教室にはいないようにしている。
1時間目の休み時間は教室外に逃げてたら、戻ったときにはお弁当箱が開けられた形跡があった。きっとまた消しゴムのカスか何かを入れたのだろう。
こういう尊厳を踏みにじる系のいじめは心に来るんですよねぇ。多分、お弁当が食べられなくなっちゃったなぁ。あぁ、お昼どうしよう。
SNSも最悪。クラスの掲示板は全く誰も書き込まない。まるで何も問題がないみたいに。裏掲示板の方は大荒れ。私は黒い下着を持っていて、パパ活して援助交際してることになってる。そんなの1枚も持っていないのだけれど。その上、万引きで補導歴があることになってる。
相手は分かっていた。屑村雪枝さん。それと取り巻き二人の合計3人。クラスのみんなはいじめのことを知っているけど、見てみぬふり。先生はいじめの存在も知らないかもしれない。助けてくれそうな人はおらず、いじめは日々エスカレートしていて最悪な状況だった。
あぁ、あと5分で昼休み。早く教室から逃げないと!
(キーンコーンカーンコーン)
(ガタン)鐘と同時に私は立ち上がった。
「あら、絆さんどちらに?」
……出遅れた。目の前に屑村さんが立った。取巻き二人もその後ろに控えている。
「手を……洗ってこようかと」
「そう?いいものを手に入れたから、絆さんにも分けてあげようと思ったのに」
見下げるような視線と嘲笑するような口元。ダメだ。失敗した。今日の昼休みは捕まってしまった。
「ほら、お弁当出して!私たちが味付けを手伝ってあげたんだから!」
やっぱり、お弁当に何かしたみたい。目の前で食べろとか言われたら……。
(ガラッ)昼休みだというのに静かだった教室に空気を読まない誰かが大きな音を立てて教室のドアを開けた。
……と、そこにいたのは山田くん。もうやめて。これ以上、場の空気を悪くしないで!
「いずな、行こうぜ」
「え?」
山田くんはするりと教室の中に入ってきていた。そして、気づけば腕を掴まれていた。
「ちょっ、ちょっと、あんたなによ!」
案の定、屑村さんが噛み付いた。
「俺? 俺は、こいつの彼氏♪」
「「はあっ!?」」
私と屑村さんの声がシンクロした。
「ほら! 絆さんも驚いてるじゃない!」
まあ、当然です。そんな話は全く聞いてないのだから。
「お前には関係ない」
山田くんがそう言って屑村さんの頬をふいっと片手で摘んだ。彼女の唇は鳥のくちばしみたいになった。
「にゃにしゅんのよっ!(なにすんのよっ!)」
屑村さんが山田くんの手を払った。当然の対応だろう。どんな意図があったのか知らないけれど、女子にそんな事をしたら起こるのは当たり前だ。
はっ! もしかして、私から目を逸らして、山田くんに目が向くようにしてくれてた!?
「なぁ、いずな。なに怒ってるんだろうな」
山田くんは私の肩に馴れ馴れしく手を置いた。違う。絶対違う。山田くんは、そんな高度なことは絶対に考えてない。この人!
「ほら、昨日屋上で話しただろ?」
「え、あ、はい」
「そんとき、お前のことかわいいなって思ったし。彼女にしたいなって思ったじゃん!」
「ちょっと待ってください。それって、山田くんが思っただけでは……!?」
既に私は頭痛がし始めていた。
「あ、そうかも。でも、いいじゃん。もったいないし。」
なにそれ。ワンガリ・マータイさんもびっくりの超絶謎理論! 私が屋上から飛び降りようとしてたから、再利用しよってことですか!? リデュース・リユース・リサイクルの3アールの精神!
「あの、私、馬鹿なことをしたとは思ってますけど、山田くんとは……」
「まあ、まあ、まあ。とにかく行こうぜ」
「ちょっ!」
ここで山田くんが、一旦ピタリと止まった。
「あ、あとな。こいつは俺のだから、色々手出すんじゃないぞ」
山田くんは、屑村さんの方を振り向いて、彼女の目を見て言った。その視線がまっすぐすぎて、勢いに押されているようだった。
そして、私は山田くんに引きずられるようにして教室から連れ出されてしまった。
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