妖怪退治屋が現代に転移してきたら(仮)

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

第1話:屋上での出会い

 学校の屋上というのは普通、生徒は立入禁止ではないだろうか。中学だろうが高校生だろうが、色々ある年頃の年齢だ。ちょっと友達との関係なんかを踏み外しただけで屋上から飛び降りたりするかもしれないじゃないか。


 建物の屋上からも踏み外すからダブルミーニングで。そう、目の前のあの子の様に。


 ここは私立六本松高等学校。福岡市内の普通の高校だ。当然屋上は生徒立入禁止。


 しかし、屋上にいる俺の目の前には一人の女生徒が立っている。しかも、よりによって屋上の縁に立ってる。


 元々人が立ち入る場所ではないから柵はない。膝くらいまでの高さの立ち上がりの壁は、たしかパラペットとか言ったか。その上にその女性とは立っている。


 つまり、1歩踏み出すだけで彼女は地面まで一直線の場所にいるということ。


「あの……見られてると、その……ちょっと飛び降りにくいんですが……」


 件の女子生徒から話しかけられた。顔をチラッと見たけど、かなりかわいい感じ。


 あの娘が死ぬとかもったいないな。死ぬくらいなら俺の彼女になってくれないだろうか。なんか、そんなラノベもあったな。


「飛び降りる気なの? ここ4階建ての屋上だよ? 地上から12メートルくらい。落ちたらケガはするけど、死なないんじゃない?」

「え?」


 飛び降り少女がピタリと止まった。


「飛び降り自殺なら、下に植え込みがなくて高さも20メートル以上必要って何かの本で読んだなぁ。ここ、下にびっちり植え込みがあるし! あれがクッションになるな」

「ええ!?」


 彼女の表情が歪んだ。


「足は折れるかなぁ。痛くて動けないのに、周囲から人が集まってきて、めちゃくちゃ画像撮られまくるよ?」

「うぅ……」


 想像したのか、少女が悲しそうな顔をした。


「血もいっぱい出るし、痛いよぉ? 骨は出るかも!」

「……」


 うつむいてしまってその表情は見えない。それでも、少女は屋上のパラペットに座り込んでしまっていた。


「ほら、こっちこいよ。そんなとこいたら危ないだろ」


 俺はその飛び降り少女に手を差し出した。恐る恐る手を伸ばす少女。俺は彼女の指が俺の指先に触れた瞬間彼女の腕を掴んでグイッと引き寄せた。


「きゃっ!」


 有無を言わせず引き寄せ、彼女を抱きしめた。


「ちょっ!」

「ここが大事なんだって!うっかり転んで落ちちゃったら1巻の終わりなんだから」

「……」


 彼女はかなり細くて、緊張からか冷たかった。


「話くらい聞くよ」


 俺は最高にカッコつけて言った。


「その前に、この体勢をなんとかしたいんですけど……」


 俺は屋上の床に体操座りで、股に彼女を挟む形で抱きしめている。彼女は体勢的に俺に抱きつかざるを得ない状態で、傍から見たら恋人同士が屋上で抱き合っている様に見えるかもしれない。


「しょうがないなぁ」

「私がおかしいみたいに言わないでもらえますか!?」

「今知り合った男女が屋上で抱き合ってたっていいじゃないか。法律には禁止されてないし」

「そんなのわざわざ禁止なんかしません」


 ちゃんとツッコんでくれるあたり良い子なのだろう。


「じゃあ、まず自己紹介から」


 俺は少し離れて適当な段差に腰掛けた。ここは人が上がってくることを想定していない屋上。ベンチなんてものはない。座ったのは避雷針を取り付けるための台座みたいだ。


「絆いずな……1年2組です。趣味はお散歩。よろしくお願いします」


 彼女は床の防水シートの上に体操座りのまま言った。ペコリと頭を下げる分、育ちがいいのかもしれない。


「いずなはいじめられてるのか?」

「そういうナーバスな問題をさらっと言わないでください!」

「だーって、お前くらいの歳の女が死ぬとしたら、いじめか失恋だろ」

「世の10代少女の多くを敵に回しましたね」


 こいつはいつから10代少女の代表になったのか。


「まあ、そのいじめは俺が明日にも解決してやるから、心配すんな」

「え!?いじめって解決できるものなのですか!?」

「まあ、俺ほどの陽キャなら……な」

「いやいやいや、無理ですって! 私なんか思い詰めて飛び降りようとしてましたからね!?」


 飛び降り少女が力説する。そんなに胸を張って言うことではないはずだが……。


「ところで、あなたは?」


 思い出したように聞かれた。そう言えば、俺の方は自己紹介がまだだったか。


「俺の名前は……あー……山田……太郎?1年……4組?」

「絶対嘘でしょ!」


 俺のたどたどしい自己紹介に彼女が間髪入れずツッコんだ。


「いや、大変申し上げにくいんだが、お前に話しかける一瞬前に他の人格が異世界転移してきやがった。記憶がちょっと混乱気味だ」


 ちょっと眉間に指を当てつつ、小さな頭痛を堪えつつ答えた。


「もうっ!バカにしてっ!こっちは真剣に悩んでるんですっ!」


 飛び降り少女がガバッと立ち上がると怒って行ってしまった。ちなみに、もう一度言うが、ここは人が上がってくることを想定していない学校の屋上。


 ここに来るためには、4階の階段の踊り場からマンホールと呼ばれる穴の中にあるハシゴを上ってくる必要がある。


 当然降りるときもそのハシゴが必要なわけで……。


「ちょっと! 下りるところをマジマジと見ないでもらえますか!?」

「いや、勢いよく立ち去ったけど、ここでもたもたしてるから……」

「しょうがないじゃないですか! マンホールが狭いんですから!ハシゴ怖いんですから!」


 それなのによく来たな、ここまで。そう言って、少女はマンホールのフタを閉めて下りていってしまった。


(ガチャン)


 ん!?


「まさか、お前内側からカギかけたのか!?」


 マンホールには当然フタがあり、跳ね上げ式になってる。それがないと雨のとき建物内に雨が降り込むから。


 そして、そのフタは風で開いたりしないようにと、安全性の意味でも内側からチェーンをかけて、南京錠でロックするようになっている。


「こらっ! 締め出しとかシャレになんねぇぞ! こら! 開けろ!」


 ガチャガチャとフタを開けようとするが、完全にロックされているようだった。


 ……これが、俺と飛び降り少女との出会いだった。いや、どうすんだよ、これ。


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