第3話:作戦会議

「ちょっとこれ、どういうことですか?」


 俺達はまた校舎屋上で話をしていた。いずながキレてるけど、その理由が俺には皆目検討がつかない。


「どういうことって、お前を助ける作戦じゃん」

「だから、どんな作戦なんですか!? 私、教室に戻ったら悪目立ちして、益々いじめられそうな勢いなんですけど……」


 いずなが不安そうに口元に手を当てて言った。


「だから、リア充な俺がどーんと言ってやったから、あいつらも手を出せないだろ?」

「……」


 今度は、いずなが頭を抱えている。どうした、頭痛か?


「そっちではどうか知らないけど、うちのクラスでは山田くんは無名です。そんな人がどーんと言ってくれてもほとんど効果ないと思います」

「そうなのか!?」


 あ、いずながその場で座り込んでしまった。益々頭を抱えているし。


「そう落ち込むな。無名なのが悪いんだろ?ほら、5時間目は……」

「5時間目がどうかしたんですか!?」

「ほら、今日の5時間目は合同体育だ!」

「ほらとか言われても、そっちはたしか校庭でサッカーですよね。うちは体育館でバスケです」


 よく他のクラスの授業の内容まで知ってたなぁ。


「まぁ見てろって」


 ***


「……なんで?」


 いずなが体育館で難しい顔をして俺に訊いた。その疑問は当然だろう。さっきまで晴れていた空が5時間目になる10分前には大雨になっていたのだから。


 疑問はそこじゃない。今日の天気予報は晴れだったのだ。


「今日の天気予報って晴れじゃありませんでしたか!?」

「かもな。知らんけど」

「何をしたんですか!? どうしたらあんなに晴れてたのにこんなに大雨に!?」

「ほら、色々あるじゃない」

「色々ってなんですか!?」

「まあ、いいじゃないか。それよりバスケバスケ」


 納得いかない様子だったけど、とりあえず、一緒に体育館で体育ができるんだからいいじゃないか。問題はそこじゃないんだ。こいつのいじめの方が問題なのだ。


 案の定ハブられてひとりで過ごしてやがる。


 体育館は広く、4クラスの男女がそれぞれバスケットをするくらいの広さがある。コートで言うと4面あるのだ。それぞれのコートごとにネットが張ってあるので、一応クラスごとに別々になっている。


 それでも、バスケの試合をしているのは5人5人の2チームで10人。数人はその試合がしている間、他の人間は脇で待機だ。


 先日のなんとかいうやつは当然のようにたむろしてだらけてる。そして、いずなはひとりポツンと座っていたのだ。


 それで、俺はいずなとはネット越しに話している。


(ボンっ)「あいたっ!」


 いずなと話していたら、彼女の後頭部にバスケットボールが飛んできた。


「ごめんごめん。手が滑っちゃって」

「そ、それなら……」


 許そうとするいずな。そういうのがいじめを助長させるのではないだろうか。


 実際、昨日のヤツは片方の口角を上げて、見下すような目でいずなを見ている。もし、自分でその顔を鏡で見たらどう感じるのだろうか。


「ちょっと見てろ」


 ちょうど俺の番が回ってきたみたいなので、いずなにそう言って自分のクラスのコートに入る。


「なぁ、彼女にいいとこ見せたいんだ。協力してくんないか?」


 俺は同じクラスの河村に頼んでみた。


「あ、えっと……山田? だっけ? 彼女って?」

「ほら、あそこ。ネット際でこっち見てる」

「うわ! かわいいじゃん! 分かった。協力するよ。何したらいい?」

「じゃあ……」


 俺は、近くにいた同じチームの河村の他に、比江や渡邊、馬場にも声をかけ、協力の約束を取り付けた。


(バスバスバスバス)バスケでかっこいいのは、ドリブルで相手をかわしてゴールする様子だ。俺はみんなからパスを集めてもらい、相手チームをかわして進んでいく。


 ゴール下では、ついっとジャンプして置いてきたボールが、俺がコートに着地した後、少しタイミングをおいてリングにボールが吸い込まれるように入る。


「おー! やるじゃん!」

「ナイッシュー!」


 同じチームのヤツらが声をかけてくれ、肩を叩いていく。


 いずなの方をちらりと見たら、驚いてた。俺のかっこよさは伝わっただろうか。


 いずなをいじめてる3人組もこちらを見ていたが、明らかに面白くない顔をしていた。


 俺たちの相手チームも当然同じクラスなのだが、彼らも俺の動きに目を丸くしていた。普段の俺はどんなだっけ……。そんなことは気にせず、次の攻撃だ!


 相手チームは俺の動きに警戒し始めて、マークがきつくなった。途端に攻撃がしにくくなった。


 だが、相手チームが近づいてきたら、くるりと身体を1回転させてかわす。ドリブル中ボールを取りに来たら、逆の手でのドリブルに切り替える。前方を遮られたら、少し離れたところで待ち構えてくれているチームメイトにパスを渡して、目の前のヤツをクリアした後、すぐにパスを返してもらう。


 単純だけど、授業のバスケ程度ならこれだけの作戦で面白いように点が入る。一方的な俺たちの活躍は、体育館内にも注目され始め、他のクラスのヤツらもこのコートを見始めてきた。


 期待されたら、それに応えるのが人のこと言うもの。調子に乗ってスリーポイントのシュートを打ってみた。


 ところが、リングに弾かれてボールは宙を舞う。それでも、ゴール下にいた河村がジャンプを合わせてボールをキャッチ。そして、着地しないまますぐさまリングにボールを叩き込んだ。


「ナイシュッ!」


 俺の声に河村が人差し指と中指だけ立てた敬礼の様なポーズで返事をしてきた。


「山田ドンマイ! 河村ナイシュ!」


 みんなで声を掛け合い、次の点を取りに行く。どうも俺のチームはバスケ部が多いチームだったらしく、そして、相手チームはあんまり運動が得意じゃないヤツらのチームだったらしく、50対4

 とか他で見たことがないような結果になった。


「山田やるじゃん!」

「なんだよ、バスケ経験者!? 今度うちの部を覗きに来いよ!」

「サンキュ」


 即興で組んだチームで、即興で考えた作戦だったけど、うまく行ってバスケは最高の結果で終わった。


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