第43話:祓いたい理由

「その前に、お前は最近無意味に狐を殺したか? それも結構な数」

「とんでもない! 狐なんて本物を見た事もありません!」 


 放課後の学校の屋上で女子高生相手に実に間抜けな質問だった。


 それでも、山田が見たものはわざわざ確認したくなる程のものが見えたのだろう。


「まずは、原因はエンジェル様でもこっくりさんでもなく、狐ってこと」

「狐……」


 屑村はつい口に出してしまった。あまりにも予想と違った事でショックを受けたのだ。


「私、そんな事していませんっ! 信じてください!」

「さっき聞いたのは、信じられなかったからじゃないんだ。そんな事をする様には思えなくて……」


 半分涙声で身の潔白を主張しようとした屑村だったが、その反応から全ては悟っていた。


「ただ、現状教室を祓わなければ、二人は返ってこない」


 山田はそこらで小さな妖怪をおやつ感覚で摘んでいるキバに視線を送った。大小合わせるとかなりの数がいるらしい。


 普通の高校生が動物を殺したからといって現状の様な状態までひどい事になるのか……。もっと他の嫌な予感がビリビリと伝わってきているのだった。


「とりあえず、教室のお祓いだな」

「……学校を燃やさないでくださいね。うちにも火をつけようとしたんですから」


 嫌な予感がして、いずなが先に釘を刺した。


「お二人は今までどこで、どんな事をしてきたんですかっ!?」


 屑村は焦って訊いた。


「家を燃やしたり……」

「家の中を泥だらけにしたり……」


 山田といずなが言うのを聞いた屑村の口がポカーンと開いていた。


「ちょ、ちょっと待ってください。私たちを助けてくださるというのは、つまり全部燃やしてなかったことに……ということですか?」


「全然違う!」

「場合のよってはそう言うことに……」


「「「……」」」


 三人の中に小さな静寂が生まれた。


「や、山田くん、私は独自にお友だちを救いたいと……」


 屑村が山田に頼るのをやめた瞬間だった。


「待て! この件は素人が下手なことをすると大変なことに……」

「プロの放火魔……!?」


 話はどんどん変な方向に向かっていた。


「待て! 焼かない! 一切建物に火をつけないから! ちょっとだけ話を聞いてくれ!」


 珍しく山田が慌てていた。


「話だけでも!」

「……分かりました。話だけなら……」


 屑村としても藁をもつかむ状況なのだ。ちゃんとした計画があれば頼りたいと思っていた。ただ、学校に火をつけると聞いたら話は別なのだが。


「ちょっとちょっとちょっと!」


 山田がいずなに腕を引かれて屋上の端まで連れて来られた。


「なになになに! 俺は飛び降りないよ!?」

「私だって飛び降りません!」


「でも、ほら、第1話を思い出したら……」

「そう言うメタ発言は読者さんが一番嫌うヤツです!」


 ごちゃごちゃいいながらも、屋上の端まで来た。


「いや、結構高いな! 5階だから15メートルくらい? ケガじゃ済まないかも……」

「不老不死の超再生の人が15メートルくらいで怖がらないでください!」


「全然話が進まない!」

「それは、山田くんが……」


 ここで二人ともこのままではいけないと心に思った。


「どういう風の吹き回しですか?」

「どういうこと?」


 ずいっといずなが山田に顔を寄せた。山田は半歩後ろに仰け反った。


「山田くんが助けるのに前向きです。やっぱり、屑村さんのことを気に入りましたか?」

「やっぱりってなんだよ。やっぱりって。俺は別に……」


 ここでいずなは気付いた。


「なにか後ろめたいものを持っていますね!?」


 山田は音のない口笛を拭きながら明後日の方を見ていた。


「なんですか!? 吐きなさい! 吐かないと絞め殺しますよ!」


 いずなが山田の首を絞める。


「不死身でも苦しいんだから!」


 わちゃわちゃは止まらない。再び、これではいけない、と思った二人は強引に脱線状態から線路に戻ってきた。


「相手は狐の妖怪なんだよ」

「それは聞きました! だからなんですか!?」


「狐はめちゃくちゃ強いんだよ。下手なことをしたら、学校全体が呪われる」

「猫とかイタチより強いですか?」


 山田は以前、猫とイタチに呪われている。


「猫とイタチとは格が違う。食べ物の眷属にもなるほどだ。ほとんど神様といってもいいレベル」

「なんでそんなのに普通の高校生が呪われるんですか」


 その問いに答えを無視して屋上からおり始める山田。


「ちょっと待ってくださいって!」


 お金にもならないのにお払いに前向きな山田を訝しく思ういずなだった。


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