第44話:お祓い
「なんか嫌な予感しかしないんですけど……」
山田はもちろん、いずな、屑村、そして佐々木咲というまとまりのない4人が放課後の教室にそろった。
教室の脇に椅子を3脚集め、その周囲に机でバリケードを作った。椅子は背中合わせに120度の位置に置かれたので、ちょうどアルファベットの「Y」の字になっていた。
「なにが始まるんですか!?」
いずなが訝しさ満載で訊いた。
「よし、3人ともこの椅子に座ってくれ。座ったら背筋を伸ばして手は後ろに」
三人とも疑うことを知らないのか、三人とも言われた通りに背筋を伸ばして座り、両腕を背もたれの後ろにかけた。
次の瞬間、三人の腕同士を大きめのインシュロックで止めてしまった。インシュロック、別名結束バンド。
アメリカでは手錠の代わりに使われることもあるのだとか。ただ、山田が使ったのはかなり大きなサイズで動けなくするというよりは、動けないと思わせて動かなくさせるためのものだった。
ギチギチに止めていないものの二の腕の辺りを他人と一緒に縛られている。じたばたしても取れない上に、椅子に座っているのでじたばたすらできないでいた。
「ちょっと!」
「なんですかこれ!?」
屑村と佐々木咲だけが大騒ぎしていたが、いずなは『またか……』と諦めていた。
「しばらく動かないでくれ。終わり次第ほどくから。『絶対動くなよ』とか言うと、お約束とばかりに絶対動くから少々手荒に固定させてもらった」
そう説明しながらバリケードにした机に白い紙テープを貼って行く。
みるみる簡易的な『結界』ができた。
「その結界の中にいたら安全だから。なにがあっても絶対に出ないように」
山田はできるだけ落ち着いて言った。
女子たちも腕を縛られているものの、3人もいるので少し危機感は薄らいでいた。
その上、目の前にいるのは少し頼りなさそうな山田だ。1組では体育の時間にバスケットで活躍するなどスポーツの万能さを見せつけた彼だったが、自分の教室では『陰キャボッチ』の座をほしいままにしていたので、そのイメージをまだまだ払しょくできていない。
次に、山田はポケットからキャラメルの箱程度の大きさの神殿を取り出し、空いている机の上に置いた。
そして、ちいさなろうそくを取り出し火をつけた。ろうを数滴祭壇の前に垂らしたら、そこにろうそくを立てた。
「山田くん、それは……?」
「一応、神殿。まあ、昼休みまではチョコが入ってたんだけど……」
それは、もうゴミでは……と思ったけれど、口に出すと他の二人が心配し始めるので、いずなはツッコミをガマンした。
しばらく呪文を唱えたと思ったら、山田は誰もいない空間に話しかけ始めた。
いずなだけがその状況を理解していた。山田が話しかけているすぐ先にはキバが立っているのだ。
現在、キバが見えているのは山田といずなのみ。佐々木咲は多少霊感があったので、そこに何かしらの存在を感じていた。目視で言うならば、黒い靄。
ただ、動いた時だけ見える程度の薄い靄なので気のせいと思ってしまえば気のせいかもしれない。コンタクトの調子が悪いのだと思ってしまえばそれかも知れない。その程度の靄だった。
キバは黙って教室の掃除道具入れの方に歩いていく。いずなはそれを目で追う。
その様子を屑村は見ているので何かしらがそこにいる様な気になって来ていた。
佐々木咲は全く身動きをせず、ただぼーっと教室内を見ているようだった。
キバは歩きながら低級の例や小さな妖怪をおやつ感覚でつまみ食いしている。ただ、これが人間の陰陽師だったら、数人がかりで数日かけて祝詞を上げての大騒ぎをして実現できるかどうかの事象。
キバが教室の同時道具入れの扉を開けて、中に手を突っ込んだ。引っ張り出した時には制服を着た女生徒の胸ぐらを掴んでいて、そこからヒト一人を引きずり出していた。
女生徒は意識が無いようで、教室の床に寝かされている。
念のため山田は首筋を触って脈を確認したが、『大丈夫』と誰に見せるでもなく1回頷いた。
「鶏巻さん!」
屑村が叫んだが動けない。いずなと佐々木咲と三人でつながれてインシュロックで縛られているからだ。
山田が縛っていなかったら、この時点で屑村は掃除道具入れのところに駆けて行って、結界は壊れていただろう。どうなっていたかは誰にも分からない。
次は、キバは教卓の方に歩いて行った。
いずなは目で追う。その様子を屑村は見て、もう一人が帰って来るのを期待した。
教卓の視界に入ったと思ったら、もう一人の女生徒を見事引っ張り出した。同様に意識はないが、こちらも山田が脈を計って生きていることを確認した。
山田は再度、祭壇に呪文のようなものを唱えたらろうそくの火が静かに消えた。ろうそくはまだ半分以上残っているので、急に火が消えた状態だった。
「終わった」
そう言って、山田は三人を縛っていたインシュロックを取り外した。ハサミなど刃物を使わなくても、タブを押せばロックが解除できるタイプでスルリと外れた。
その後、二人を介抱するとすぐに目を覚ました。目が覚めた直後は、多少混乱していたが最後は自力で立って歩いて帰れるほどに回復した。
最後まで屑村は『すごいすごい』と山田を褒め称えていた。
急遽、屑村の家から高級車で人が来て取り巻き二人を送って行った。
実に円滑に終わった様に見えた。
「で?」
屑村とその取り巻き二人が帰ったあと、山田と絆いずな、佐々木咲、それとキバが残された時にいずなが訊いた。
「『で?』とは?」
山田が聞き返したが、顔は既に引きつっていた。自らの失敗を既に自覚しているようだった。
「どこを失敗したんですか?」
「……実は」
視線を逸らす山田。いずなの予感は確実なものとなった。
□
先週更新ができてなかったみたいです(汗)
楽しみにしてくださっていた方すいません。
旅行に行ってたから気が緩んでたっぽいです。
嘘でも新刊の作業が忙しかったと言ったほうがよかったか……(汗)
時間を見つけてペースアップしていきます!
よろしくお願いします。
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