第45話:お払いの代償

 行方不明になっていたクラスメイト2人を救出して、クラスの女の子のお願いも聞いた。


 エンジェル様だか、こっくりさんだか、よく分からないけれど、それの呪いと思われた事象も取り除いた。それどころか、実は狐の妖怪の仕業だったというどんでん返しも大きく騒ぐことなく、ひっそりと解決して見せた。


 これ以上の成功があるだろうか。


 テストで言えば100点だったのではないだろうか。


 ところが、あの『お祓い』の後、学校の屋上ではいずなが山田を責めていた。


「だから、成功したって言ってるだろ!」


 屋上の隅にある膝くらいまでの立ち上がりの壁、パラペットに腰かけて校庭を見下ろす山田。


「山田くんがお祓いを成功したのにも驚きますけど、成功したのに大騒ぎしないなんてあり得ないです! 絶対に致命的な失敗をしているはずです!」

「そんな訳ないだろう……」


 そんな事を言いながら右手の小指で耳の穴をほじる。伸びすぎた髪の毛の先が耳の穴に入ってしまってかゆいのかもしれない。


「どんな失敗をしたんですか? 言ってください。言わないと私はうっかり手を滑らせて山田くんの背中を押してしまうかもしれません」

「いや、屋上だから。シャレにならないから!」


 山田が座っているのは屋上の隅っこ。仮に後ろから故意だろうと、そうでなかろうと、押されてしまえば屋上から地面に真っ逆さまだ。


 そんなカッコ悪い状態になったのをキバが助けるとも思えない。手を汚さず始末できるからとわざと傍観する可能性すらあった。


「だから、危ないから! 既に背中に両手が当たってるから!」


 いずなは本気だった。それだけに既に両手のひらは山田の背中を触れていた。ちょっと力を入れたら……。


「分かった! 分かったから! まず、その手を離そう!」


 山田は振り返ることすら許されない状態であることに危機感を持った。逆マンガの様にいずながいまくしゃみをしただけで、自分は地面まで真っ逆さまなのだ。


「じゃあ、すぐに言ってください」

「手をどけた後に、足で押さえるのもやめてくれ」


 いずなは2~3歩後ろに下がった。


「実は……呪いを浴びた」

「は!?」


 いずなの口から間抜けな声が出た。


「生徒は助けた。ミッションはクリアしたと思う。でも、相手が狐だったから……油断してた」

「どういうことですか?」


 訝し気な表情で問いただす彼女。


「狐は……昔から狐憑きとか言って病気のイメージもあった」

「……はい」


 何が続くのかという探るような「はい」だった。


「それをすっかり忘れてた」

「はい!?」


 妖怪退治屋が何を言っているんだという様な「はい」だった。


「体調不良とか、正気を失った精神的な不調とかが狐憑きの特徴なんだけど……」

「はい」


 それくらい私でも知ってます、という様な押さえつける様な「はい」だった。


「忘れてた」

「バカじゃないんですか!? 水泳選手が泳げないのと同じでしょう!?」

「うまいこと言うなぁ……」


 皮肉が通じず、感心した山田。呆れるいずな。


「多分、身体の中に疾患ができた。多分、取れないような微妙というか、絶妙というか……」

「え!? それって……」

「いわゆる、ガン的なものだろう。時間経過と共に大きくなって取り返しがつかなくなると思う……」

「わーーーーっ!」


 いずなが小さなパニックになった。


「そ、それだけですよね!?」


 絶対それ以上はないと思いつつも、安心するための質問だった。1度でも肯定的な「イエス」を引き出して安心したい心理もあった。しかし、その答えは期待に反したものだった。


「実は……狐に精神の一部を乗っ取られていると思う」

「はぁ~~~!?」


 何言ってるの、の「はあ」だった。


「多分、精神汚染の系統だと思う。これから幻覚を見る……と思う」


 すこぶるバツが悪そうに山田が答えた。


「キバちゃーーーん! 出てきてーーーっ!」


 いずなが放課後の屋上で大声を出してキバを呼んだ。


 キバは少し睨んだような、少し決め顔の様な、鋭い目つきでいずなの視界の外からするりと視界に入って、こちらを睨んでいた。


「ダメなんだよ。キバじゃ」

「どういう事ですか?」


 はーーー、と観念したように大きくため息を一つついてから山田が答えた。


「さっきの疾患……腫瘍……分かりやすく言うと、ガン。あれを足がかりに貼り付いてるんだよ。妖怪的に、物理的に……」

「つまり、ガンの手術が終わらないと、お祓いもできない……ってことですか!?」

「……そうなるな。キバが無理に引き剥がそうとしたら、俺の魂に甚大なキズが入る……と思う」


 しょぼんとして答えた山田の様子から嘘ではなかったらしい。


「スーパードクター! ブラックジャックが必要!」


 いずなは少し混乱していた。一般的な高校生に神の腕を持つスーパードクターの知り合いなどいない。


 ここに来て絶対絶命になってしまった。


「話は聞かせてもらったわ」


 その時、二人の後ろから声が聞こえてきた。


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