第46話:あの人出るか!?
背後からの女性の声に山田といずなは振り返った。ここは学校の屋上。しかも、放課後な上に随分遅くなっている。
ついでに言うと、屋上へは階段で来るタイプのものではなく、古い団地などで採用された屋上と階段を繋ぐマンホールがあって、狭いチューブ状の中に設置されている梯子を上ってこないと屋上に辿り着けないのだ。
こんなところに偶然生徒が通りかかるはずがない。そもそも、一般の生徒はこの場所の存在すら知らないので、ここにいる時点で山田といずなの関係者であることは必然だった。
「さっきのアレでそうなったんでしょう? 私がなんとかするわ。……といっても、私自身はなにもできないけど」
そこに立っていたのは、佐々木咲。ひらがなでひょうきすると、ささきさき。ほとんどが同一の文字で表記できてしまう珍しい名前の少女。
彼女の特徴は名前に留まらない。容姿端麗、才色兼備、品行方正、純情可憐、桜花爛漫、文武両道、スポーツ万能、勇気凛々……。四字熟語が止まらない程だ。
顔や姿が整っていて、美しく、勉強やスポーツにもその才能を発揮している。さらに、人望も厚く、1年生でありながら、時期生徒会長が決定しているほどだ。
「えと、えと……」
ここで、またいずながコミュ障を発動させた。
「俺が必要としているのはプロなんだ。風邪を治すのに大根おろしの汁を穴に入れるのとは訳が違うんだ」
事が事だけに落ち込みながら答える山田。いずなが正しい対応ができるとは思えず、直接答えた。
「そうね……私が紹介したいのはプロね。……えーと、なんでもなんとかする人と、何でも切り取る人」
「……なんだそれは。なぞなぞをしているのか?」
山田は訳が分からないので、眉を段違いにして聞き返してしまった。
「困惑するのは分かる。私も訳が分からないから。でも、その人ならなんとかできる。そして、その人には普通では会えないような人なの。何でもできる人に紹介してもらう必要があるの」
聞けば聞くほど分からない話だった。
「とにかく来て! 時間が無いんでしょ!」
山田は佐々木咲に引っ張られどこかに連れて行かれる。いずなも後からついていった。
***
「ここは……?」
「うーんと、身内の家?」
なぜか疑問形で返され、本当に身内なのか怪しくなってきたのだった。
「俺は医者が必要な状況だと思ってるんだ。例えば、ブラックジャックみたいな凄腕の外科医が必要なんだ」
「うん、うん。分かってる、分かってる」
人はなぜ2回言われると不安になるのか。
「あ、あの……ここは……?」
いずなが不安そうに建物を見るのにも当然だろう。目の前にある建物は喫茶店なのだ。しかも、街の小さな喫茶店で小さな店に小さな民家が併設されたタイプの昔ながらの喫茶店なのだ。
「あ、ごめん、ごめん。心配だよね。でも、大丈夫。ガンを取る必要があるんだのね?」
「まあ……そうなんだけど……」
ここで佐々木咲がキョロキョロして周囲を見渡した。
「状況は把握してるんだけど、あの黒い子は付いてきてるんだよね?」
佐々木咲には若干の霊感があるらしく、平時でもキバを認識できるらしかった。いずなのように常に見えているケースは珍しく、普通は目の前に立っていたとしても気づかれないのだ。
誰もが幽霊や妖怪が見られたら世の中大騒ぎなので、見えないのが当たり前なのだ。
キバも戦闘時は気を高めるのか、何らかの作用で一般人にも認識できることがある。彼女自信『黒いあの子』と呼んでいるように、キバが見えたこともあった。
しかし、今は見えないはずなのである。
「大丈夫だ。その辺にいる」
そう言いながら、実はすぐ横にいるのだが、本当に見えているか、逆に見えていないかの確認でもあった。
「多分、あの人にお願いしたらガンは取れると思うけど、妖怪だか幽霊まではどうしょうもないから。あとはおまかせしないとだから」
「大丈夫だ。ガンを取ってもらえるなら、あとはこっちでできる」
山田としては自分ではもうどうしようもない状態だったので、藁をも掴む気持ちだった。
「じゃあ、紹介してもらいます!」
『紹介します』ではなく『紹介してもらいます』ってのが一段と山田の不安を煽った。
「咲ー、なんだ? こんな時間に……」
また新しいヤツの登場だ。その家の住人らしく、玄関から出てきた。どっちかって言うと、他人の家の前で騒いでいる山田たちの方が非常識だと気付いた。
「ごめん、ごめん。コーイチ、連絡した人つれてきたよ!」
今日一番の佐々木咲の笑顔が見られた。
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