第48話:未来の夢
「だ、大丈夫なんですか!?」
珍しく、いずなが山田を心配した。
「大丈夫です。私の幼馴染のお友だちとその奥さんです」
「それはもう、完全に他人では……」
いずなとしては、山田が不老不死であることは知っている。それでもガンになったり病気はするらしい。そうでなくても継続的な攻撃は利くみたいなので無敵という訳ではないらしかった。
『相手がいなくなってしまうと悲しい』その気持ちに名前を付けることができるようになるのは何歳くらいなのだろう。少なくともいずなはまだ自分の気持ちを分析しきれていなかった。
目の前では金髪で青い目の青年が知らない言葉を唱えた。彼の横にいる佐々木咲に笑顔を向けたことからなにかいい方向に向かっているのは分かる。それでも誰かに『大丈夫』と言ってもらわないと不安は不安のまま残る。
いずなはどこか目の前の光景がテレビの中の出来事の様に見えていた。
山田から金髪で青い目の青年がなにかを取り出したすぐその後、キバが山田の心臓の位置から目に見えないなにかを取り出していた。それは抵抗しているらしく、キバの手に力が入っているのが見える。その一方でキバが持っている「ナニカ」はいずなには見えない。
少しの格闘の末、キバはその「ナニカ」を全部引っ張り出し、それを食べた。思ったより大きかったらしくキバはしばらく目を白黒させていたが、最終的にはそれを飲みこんだらしい。お腹いっぱいなのは彼女が自分のお腹をさすっているジェスチャーから分かった。
ちょうどその時、山田は夢を見ていた。
それは、10年後の夢。狐は未来が見えるという。予知能力があるという信仰もある。それが影響したのか、それは分からない。
山田は自分の身体を取り戻していた。それは山田ではなく、渋谷の身体。呪文を唱え、祝詞を上げて神様を敬い奉っていた。その姿を自分が見ている状態。今の自分は山田なのか、渋谷なのかは分からない。意識として「自分」と言うのは分かる。ただそれだけだ。
渋谷は強大な妖怪を自らの力で払い、依頼人の笑顔を引き出していた。どうやら妖怪退治屋としてもう1ランクも2ランクも格上の存在となっていて、それを生業としているようだ。
その未来の渋谷には奥さんと子供がいるようだった。渋谷は家に帰り、自分の家の玄関を開ける。そこにはかわいらしい奥さん。山田の……いや、渋谷の職見知った顔。渋谷のことを信頼していることがその表情からうかがえた。その奥さんの誘導で既に調理された料理が乗せられたテーブルのあるリビングまで誘導される。
途中、渋谷が洗面所で手を洗っている間も、後ろからその奥さんはなにかを話している。きっと、今日あったことを話しているのだろう。鏡越しに目線を合わせてお互い時折笑顔がこぼれる。
その後、リビングには二人の子どもがテーブルについている。歳の頃ならまだ2歳か、3歳、女の子らしい。それは、大人には見えないものが見える年齢。彼女はなにか生まれついての身体の弱い部分があるみたいだが、彼女のすぐそばでキバが彼女を守っていた。娘とキバは年齢も種族も超えた絆がある存在。娘になにかが起きそうなときは全力でキバが守るのだろう。
渋谷の奥さんは子供が生まれたと同時に普通の人が見えないものが見える力が無くなってしまった。もしかしたら、その力は全て娘に引き継がれたのかもしれない。娘が何もないところを見て手を伸ばしても、彼女はけっして咎めたりはしない。一緒に視線の先を見て、いつも娘を守ってくれるそのナニカに例を言う気持ちを持っていた。
かつて一緒に戦い、一緒にご飯を食べて、一緒に風呂に入った存在。大人になった彼女にはそれが誰だったか、もうほとんど覚えていない。名前すら出てこない。でも、おぼろげながら感じるそのあたたかい存在。それを忘れることはないのだ。
「ん……んん」
どうやら、ここで現実世界で山田が目を覚ましたらしい。
「山田くん! 大丈夫ですか!?」
「ん……確かに、身体は軽くなった気がする。痛いところも……ない」
今初めて痛かったことを知るいずな。
「よかった……。一時はどうなるかと……」
回された両腕は山田の身体を抱きしめていた。
「ちょっ、おい……!」
覚醒しきっていない山田は満足に身体を動かすことができないでいた。
「もう、いい。勝手にしてくれ……」
つい今見た。夢が未来とか、予知夢だとしたら、ここで抗う理由が何一つ思い浮かばない。
ただ、今の自分は『渋谷』ではなく『山田』。まだまだこのままハッピーエンドには辿り着かせてもらえないらしい。
「この年で、自分探しの旅が始まるとは……。ああ、山田はまだ16歳か。この身体は本当の山田に帰さないとな……」
一人の妖怪退治屋は、これからの活躍を夢に見た。そして、その結末も。後は、それが現実になるように実行していくだけ。目の前の愛しい存在の手を離さないように注意しながら……。
〈完〉
◆あとがき
ここまでお読みくださりありがとうございました。
永い間、お付き合いくださり感謝しています。
いつもはラブコメを書いているのですが、妖怪退治の人について書いてみようと思い、急遽妖怪について調べてみたり、動画を見たり、マンガを読んだりして、そのどれでもない作品にしようと思いスタートさせました。
途中、ランキングがぐぐぐと下がったのですが、最後まで書きたいと思い、週1回で維持し続けた感じです。約10万文字、普通の文庫本だったら1冊くらいの量となります。
でき上ってしまうと、もっとあそこを練り上げたかったとか、もっと人物の掘り下げがあってよかったのではないかとか、色々考えます。ここが連載の難しいところで、あまりにガチガチに作り込むと、書いているのが作業になってしまって面白い作品にはなりません。
そうなると、大体ランキングの結果もふるわないので段々自己満足の世界に突入していきます。自分にとって一番いいスタイルは、大筋は決めておいて、それについて詳細は考えながら書き進めていくこと。
妖怪退治屋は今回で終わりますが、次回は異世界ものとミステリーを書きたいと思っています。これまた2つ同時が難しく、人間活動の時間と執筆活動の時間のせめぎ合いです。
もし、よろしければ、こちらの本を1冊手に取っていただけないでしょうか。
猫カレーฅ ^•ω•^ ฅ短編集
http://sugowaza.xyz/catcurry/
amazonで販売しているのですが、250円などかなり加減に価格設定しています。kindle Unlimitedにも参加しています。ご契約の方は、無料で読んでいただくだけでも作者の助けになり、より執筆活動の時間を捻出することができます。
あとは、amazonのジャンルランキングも上位にランクインしてきますので更に高いモチベーションで新しい作品を生み出すことができます。
どうぞ、ご協力の程、よろしくお願いいたします。
また次の作品でお会いできることを祈っています。
妖怪退治屋が現代に転移してきたら(仮) 猫カレーฅ^•ω•^ฅ @nekocurry
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