第23話:清村支部長との対決

 車に乗せられていたので俺たちはほとんど状況が分かってなかった。


 最近活動していないという妖怪退治屋のシブタニとかいうやつのところに向かってたはずだ。


 ところが、今はいつの間にか自動車のスクラップ場にいた。目の前には真っ二つになった黒塗りのベンツ。


 上を見上げると重機から伸びたアームがあった。さっきはあれで俺たちの乗ったベンツを掴んで持ち上げていたらしい。


 そして、運ぶ先だったところには巨大なプレス機が……。今もほぼ無人で動いていて、みるみるうちに車が潰され1メートル角の鉄の箱にされてしまっている。


「あのまま乗ってたら、随分スリムになってたな」

「それは私が太っているって言ってますか!?」


 ちょっとハリウッド映画っぽいセリフを言ってみたかっただけなのに、いずなには露骨に嫌な顔をされてしまった。


 元車の鉄のボックスは自動的に積み上げられていっている。その上に清村支部長が立ってこちらを見下ろしていた。


「ははははは。あれで生きているとはな。やっぱり、お前は渋谷なんだろう? お前なんだろ? 一発でピンときたよ」


 誇らしげに言う清村支部長。


「あいつは何を言ってるんだ」

「分かりませんけど、本気で殺しにかかってます。逃げましょう!」

「そうだな」


 訳のわからないヤツに命を狙われるとは! なんてついてない日だ!


「普通の人間は霊力も妖力も微量はあるもんだ。幽霊や妖怪が見えないまでも、『嫌な予感』とか『なんかいるかも』程度には何かを感じ取るだろう」


 清村支部長がなにか語り始めた。俺といずなは逃げようと思うが、気付けば四方が元車のブロックが積み上げられた壁で塞がれている。どうやって来たんだよ、ここまで!


 車の窓に黒いシートが貼られていたのは、俺たちが外を見えないようにするためだったか。話していたし、まんまと外を見ていない!


「ううう……」


 急にいずなが頭を抱えてうずくまった。


「どうした!? 大丈夫か!?」

「急に頭が……」


 急な気圧変化による片頭痛……じゃないよな。清村支部長は掌をこちらに向けて何か念じている。そんなことで人がこんなに苦しむなんてことがあるのか!?


 よく見ると、ヤツは手首にデカい球の数珠を付けている。それが影響があるのかどうか分からないけど、見た限りではそれくらいしか分からない。


「なぜ、お前は全く影響を受けない!? 霊力や妖力が全くないからだろう! そんな人間はいない!」


 たしかに、俺には霊力も妖力も全くない。だけど、それだけで人間じゃないなんて、乱暴な意見も甚だしい。


 俺は足元にあった適当な自動車パーツを拾った。


「おお~っ!? それを投げるつもりか!? そこから届くのかぁ!?」


 明らかにバカにしている様子だ。俺と清村支部長までの距離は20~30メートルは楽にあるだろう。しかも、相手はビルで言うところの2階とか3階の高さにいる。ここから投げて当てるのはかなり難しい。


 周囲を見ても、コンプレッサとか、その辺に転がっているドライバーとかしかない。コンプレッサの吹き出し口にドライバーを突っ込んでバルブを開いたら、都合よく飛んで行って、ヤツに刺さったりしないだろうか。


 どう物理的に考えてもそんなに遠くまで飛ぶとは思えない。キバを呼び出したいところだけど、ライターのガスはさっき使い果たした。アニメとからなら小さなライターでも何度も使えるだろう! もっとご都合主義でもいいじゃないか!


 俺はドライバーを拾い上げて、清村支部長に向かって思い切り投げつけた。


(バン!)ドライバーは、ヤツの方どころか、地面にたたきつけられた。


「ははは、どこに投げているんだね。最近の子どもはボール投げもろくにできないとはな」

「くっ……」


 嫌なヤツだなぁ……。


「くそっ、もう一度!」


 俺はさっきの金属部品を握りしめた。


「おーっと、怖い怖い! そんなもんが当たったらケガをしてしまうじゃないかぁ」


 わざとらしいあおり。俺の手がわなわなと震える。アニメのヒーローなんかだったら、ここで超人的な力が出て、ヤツの脳天を打ち抜くんだろうけど!


「だぁあ!」


 俺は思いっきり金属部品を投げた。


「おっと!」


 一瞬清村支部長が怯んだが、俺の投げた部品は再び地面にたたきつけられた。


「ははは、懲りないなぁ。学習ってものを知らないのかね。きみは」


 急に余裕を見せる清村支部長。


「どこを狙ってるんだね」


 俺が投げた金属部品は地面にバウンドして、さっきのコンプレッサーのバルブ部分にぶち当たった。ブシューッっという音共に圧縮空気が吹き出し始めた。


「おいおい、工場の人は困るんじゃないかね? まあ、私のものじゃないから気にしないけどね」


 圧縮空気は地面の砂を噴き上げてちょっとした砂煙を作った。


「キバー! 出て来い!」

「なに!?」


 地面の砂煙は空間に吸い込まれるようになくなり、それと同時に闇から真っ黒な少女が飛び出してきた。


「あいつの数珠を壊せ!」


 言うが早いか、次の瞬間、ヤツの腕に嵌められていた数珠の珠が全て同時にはじけ飛んだ。


「うわっ!」


 破片は清村支部長にも直撃したみたいで、倒れて血を流している。


「ベンツからどうやって出てきたか見てなかったのか? 『学習ってものを知らないのかね。きみは』」

「くっ……」


 とりあえず、さっきの言葉は返してやった。


「いずな、大丈夫か!? 逃げるぞ!」

「は、はい!」


 清村支部長の数珠が壊れると、いずなの頭痛がなくなったらしい。


「なんだありゃ、まるでギル博士の笛の音だな」

「山田くん、これは何歳向けの話なんですか!? 絶対山田くんの中の人、おじいちゃんですから!」

「じゃあ、なんでお前は分かるんだよ!」


 逃げている最中に目の前に清村支部長が立ちはだかった。


「なんで俺たちを狙うんだよ!?」


 俺は対峙して言った。


「お前は本来、有り余る妖力があったはずだ。しかし、今はその欠片も感じない」

「何の話だ!?」


 清村支部長は血が流れる腕にハンカチを巻きながら話を続けた。


「その妖力を丸ごと全部外に預けているだろう! 例えば、あの黒猫少女の中とか!」


 清村支部長がそう言ったかと思うと、次の瞬間その姿が見えなかった。


「あれ?」


 俺の目線は、清村がいたところのそのまま下に向いた。そこにはキバが俺のことを睨んでこっちを見ていた。


「清村支部長をどこにやった!? もしかして殺しちゃった!?」

「……」


 キバは相変わらずなにも言わない。ただ、こちらを睨んでいる。


「さっきの福岡支部に送り返したんですって!」


 いずなが通訳のように間に入って言った。


「なんでお前には伝わってるんだよ」

「そして、お前は突然……」


 キバにそう言おうと思ったら、既に姿はなかったのだった。





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