第21話:妖怪退治協会

「あのー……どこに来たんでしたっけ?」


 いずながいぶかしげな表情で訊いた。


「だから、妖怪退治協会って言ってるだろ。週1回の更新になって忘れやすくなったのか?」

「そのメタ発言、絶対誰かから怒られますから!」


 俺たちは妖怪退治協会福岡支部の立派な建物を前に……立派な……。


「いや、掘っ立て小屋ですね。控え目に言って」


 心の声にツッコむのやめてもらっていいかな!?


「だって、山田A吉くんって顔に出やすいから」

「今度はなんだよ、その名前は!」

「『山田くん』だったのに、急に呼び方を変えたら、1回か2回飛ばした読者さんが『誰だA吉くん!?』ってなっちゃうじゃないですか。だから、『山田くん』と『A吉さん』をまとめて、『山田A吉くん』にしたに決まってるじゃないですか」


 なんと優しいやつだろう。その優しさを俺にも少し分けてくれたっていいだろうに。


「あれ? ツッコまないんですか?」

「いや、それはいいから、話を進めたい」

「あ、じゃあ、『あのー……どこに来たんでしたっけ?』から続けますか?」

「そこからいくなら、今までのくだり要らなかったのでは!?」

「……」


 周囲が一瞬静かになった。


「だから、妖怪退治協会って言ってるんだろ!」

「でも、ここって空き地の掘っ立て小屋ですよ? 壁も天井もトタンですし……」


 トタンは言いすぎだった。確かに、平屋の一戸建て程度の建物だし、屋根の修理として一部トタンを使っている。壁もなにかの衝撃で大穴が開いたらしく、余ったトタンで修理したのも分かる。でも、『掘っ立て小屋』はちょっと言いすぎだった。


「まあ、福岡の方の支部はあんまりお金を持ってないんだよ。きっと」


 俺たちが外でワイワイやっていると、ギギギ……とその建物の扉が開いた。扉は重厚な感じで、扉の中には中年男性が立っていた。


「こっちにおいで。そんなところに立ってないで」


 少々気味悪く手招きしながら中年男性はそう言った。


「あのぉ……、あの方、お知合いですか?」


いずなが俺に訊いた。


「知ってる訳ないだろ。俺ってつい最近転生してきたばっかりだって言ったろ?」

「でも、あからさまにおいでおいでしてますよ?」

「もしかして、『事案』では!?」


 俺といずなは1歩また1歩と後ずさりしながら話をしていた。


「ほら、こっちにおいで。人を探しているんじゃないのかい?」

「なっ」

「どうしてそれを」


 その中年男性は、不思議な力なのか、それとも作者のプロットを先読みしたのか、俺たちが人探しで来たことを言い当てた。


「しかも、玄関前まで迎えに来るなんて。タイミングまでぴったりとは……」

「あ、それはきみたちがうちの前で騒いでいたから、騒がしいな、と思って……」


 割と現実的な理由でタイミングは合っていたらしい。


 ***


 その後しばらく色々やり取りしていたのだけど、約1万字カットされ、先ほどの中年男性から話を聞くくだりになっていた。


「危うく振り返りの回想シーンだけになるところだったね」

「いや、もう、そういうコメントが首を絞めるから!」


 なんだかある程度アタリが分かってきているけれど、そこはなかったことにして質問することにした。


「あなたは妖怪退治協会の……」

「そうです。私が妖怪退治協会福岡支部の支部長です」


『わたすが変なおじさんです』の調子で言われてしまった。その中年男性はスーツこそ着ていないけど、カッターシャツにスラックスでサラリーマン風だった。俺のイメージでは妖怪退治屋と言えば、装束を着ている一部の『エリート勢』と俺にとっては馴染みがある思いっきり普段着の……なんなら少し小汚い服装の『リアル妖怪退治勢』の2パターンだと思っていた。


 それから言えば、そのどちらでもない。この人なんなんだよ。


「単刀直入にお聞きします。妖怪退治協会の会員さんで最近妖怪退治を急に辞めちゃった方っていらっしゃるんでしょうか?」


 いずなが気を使いながら訊いた。


「そうだなぁ……お嬢さん、妖怪退治についてご存じかな?」


 協会の支部長が腕組みをして難しい顔をして答えた。


「ああ、そうか! 竹中さんの言うとおりだ!」


 俺がそれに気づいて言った直後だった。


「いや、少年。私は『清村』って言うから。どこから来たの、その『竹中』」

「あ、なんとなく『竹中』って顔だったので……」

「それよりも、山田くん。なにに気付いたんですか?」


 いずなが強引に話を進めていく。


「妖怪退治屋はいつも命がけなんだよ。退治に失敗したら消えていくんだよ」

「!」


要するに死ぬから続けられないってことだ。


「つまり、失敗して消えた妖怪退治屋はいっぱいいるから分からないってことだ」

「そう! 私もそれが言いたかった」


 竹中……じゃなかった。清村支部長が慌てて会話に入り込んだ。


「山田くん、結局、『支部に行ってみたけど、特に行ったけど思った情報は得られなかった』って一言で流して良かったんじゃないかな?」

「そうかも……」


 俺がいずなの一刀両断の一言に乗っかったその時だった。


「たしかに、妖怪退治屋は突然いなくなるから何とも言えないけど、気になる人はいるんだよね」

「気になる人ですか?」


 清村支部長が思い出したかのように言った。


「ずっと妖怪退治しているベテランなんだけどね。最近報告がなくて……」

「ベテランでも、失敗はあるんじゃないですか?」


 俺なんか、キバがいないとしたらほとんど成功しないだろうし。


「彼は特別でね。絶対成功するし、妖怪退治屋をやめることもできないんだよね」


 協会に借金でもあるのだろうか。


「でも、突然いなくなるのも不思議じゃない妖怪退治の業界で、支部長さんが気になるって言われるなら確かに気になりますね」

「確かに。清村支部長、その人のこと教えてください」

「いいだろう。私も気になってたから、ちょっと行ってみようか。その人の家」


 俺といずなは顔を見合わせてしまった。まあ、断る理由もない。


「じゃあ、行きながら彼について話すよ」


 俺たちは清村支部長の車でその人のところに案内してもらえることになったのだった。

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