第20話:おやつ泥棒

 俺の頭の中ではピキって音が聞こえたんだけど……。これで この家に結界ができた。

 妖怪だろうが幽霊だろうが 異形の者は入ってこれないだろう。

 仕事終えて リビングに戻ってくると、 キバがめっちゃ 睨んでた。 そりゃあ、そこら辺におやつが歩いてたのを、俺が取り上げた格好になるわけだから面白くない顔はするだろうな。


「どこ行ってたんですか?  待ってたんですよ 」

「いや、ちょっとアフターサービスを……」

「アフターサービス?」


 いずなが、首を傾げた。立ってる いずなのすぐ横にキバがいて、 なぜかキバは伊豆何に抱きついてるんだが……。


 妖怪は人間と 習わないんじゃなかったっけ?  誰だよ、そんなこと言ったのは。


「どうですか キバちゃん 可愛くなったと思いませんか?」


 よく見れば キバは なんだか可愛らしい ピンク色のパーカーを着て、白いシャツを着て、さらに、 ミニスカートを履いていた。

 髪も切ったのか、 目の前の 顔を覆ってた前髪もなくなって、 確かに可愛い感じにはなってた。


「いや、 可愛いと思うよ?」

「そうでしょう!?  あんな ボロボロで汚い状態 なんてひどすぎます」


 これはもう感覚の違いだろう。 仮に野良猫を拾ってきたとして、 ここまで面倒見てやるかっていう話だ、 俺としては 橋の下で飼ってるぐらいのつもりだったけど、いずなとしては家に連れて帰って トリミング までしてあげたみたいなもんかな。まあ……いいけど。


「キバちゃんってどんなもの食べるんですか?」

「ん? なんで?」

「髪を乾かしてあげている間、ずっと何かを食べる仕草をしてて……。きっとお腹が空いてるんだと思うんです」


 いや、その仕草の間中ずっとそこらのおやつを食べてたんだと思うぞ。正直に言いそうになったけど、家の中に妖怪がいっぱい居ると聞いて良い気がするやつなんていないだろう。俺は言葉をぐっと飲み込んだ。


「まあ、なんでも食べると思う(妖怪でもなんでも)」

「そうなんですか! じゃあ、ご飯準備しますね!(人間の食べ物を)」


 今度は、彼女の家のリビングでキバと一緒にいずなの料理を待つことになった。いつものキバなら、とっくに引っ込んでるはずだが、話の流れから何か食べられると分かったのかおとなしく椅子に座ってる。こんな妖怪見たことないぞ。


 テーブルの同じ面、隣に座った俺としては居心地が悪い。なにせ、俺の命を狙っているヤツが真横にいるのだから。顔は前のままにチラリと視線を送ってみた。


 キバも顔は前に向けたまま、視線だけこちらに向けて睨んでいる。そして、歯を食いしばるような表情をしたら口から尖った牙が見えた。


 こわっ! 気を抜いたら食い殺される勢いだ。


「山田くん、突然ですけど、妖怪退治の費用っていくらくらいなんですか?」


 キッチンで何かを料理しながらいずなが訊いた。俺とキバが思いの外会話しないから、助け舟を出してくれたのかもしれない。


「そうだなぁ、1回100万から200万くらいかな。高い時は1000万くらいするときもある」

「え!? そんなに!?」


 ぎょっとして、手を止めいずながこちらを向いた。


「まあ、な。ただ、頻繁には無いし、1000万とかの時は大企業のお偉いさんとかの時だけな」

「そ、そうなんですか……」


 額を聞いたからか、結構引いてるみたいだ。


「まあ、お前は彼女だからカネは取らないよ」

「じゃ、じゃあ、代わりに身体を……」

「……」


 俺の半眼ジト目にいずなが苦笑いしている。この目を向けられた人間の気持ちが分かればいい! 仕返しだ!


「代わりにご飯出しますからね」

「サンキュ」


 誤解は解けたらしく、いずなは再び料理を再開した。追加で材料を取るために冷蔵庫を開けたりはしていないので、初めから俺の分も作ってくれるつもりだったようだ。


「今日の話なんですけど……」

「今日の話?」

「はい、山田くんの意識はA吉さんの身体の中に入ってるって……」

「ああ……」


 身体と中身が入れ替わるとか、そんなマンガみたいなことが起きてたまるか。


「そして、『A吉さん』の中身が『山田くん』の中に入ってるってことは、逆の『中身が山田くんの見た目がA吉さん』がいるはずですよね?」

「まあ、その推測が正しいなら、ね」

「そしたら!」


 いずながちょっと興奮気味に包丁を持ち上げて話を続けようとした。


「包丁危ないから! 話してる最中にどこか切れちゃうから!」

「あ、ごめんなさい」


 いずながまな板の上に包丁を置いた。


「最近、妖怪退治をしなくなった40歳から50歳くらいの人を探せばいいんです!」

「そうは言っても、『妖怪退治』は俺が言うのもなんだけど、相当マイナーな職業だよ? ハローワークとか行っても募集してないから……妖怪退治協会!」

「なんですか? その漫才協会みたいなの」


『協会』しか合ってないし……。しかし、ここでツッコんだら話が益々進まない。


「妖怪退治屋は卑弥呼の頃から組織があって、最近じゃ『妖怪退治協会』って名前で全国展開してるんだ」

「それです! その『漫才協会』に行って、最近協会退治をしていない、陰キャぼっちのニートを探しましょう!」


 少しずつネガティブ要素を足していくのやめてほしい。


「協会と言っても……」

「いいから、できることをやりましょう! あ、作りかけのご飯は完成させるので、食べて行ってくださいね」

「ありがとうございます」


 このようなぐずぐずな感じで『妖怪退治協会』に行くことになった。……ちなみに、いずなが作ってくれたご飯は『オムライス』だった。キバは自分の分を一口で食べて、その後 俺の分を取ろうとしたので、二人で1つのオムライスを奪い合いながら食べることになってしまったのだった。

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