第40話:おやつ
「いましたわっ! 深夜の謎の美少女を一発で見つけましたわ!」
屑村は、いずなや屑村の1組から最も遠い7組から『謎の美少女』を探し始めた。1つめの教室で見つけたのだから強運だと言える。
「いずなさん! 一緒に来てください!」
「えっ!? あっ、はい……」
ここで見事にいずながコミュ症を遺憾なく発揮した。『知らない人と話す』。それは、彼女が最も苦手とするところで、そういった意味では今もっとも役に立たない助っ人であった。
そんな彼女を選んでしまった辺り、屑村は運がないと言えた。
「え? え? え? 何ですか!?」
その謎の美少女こと、佐々木咲が困惑していた。
「私ですわっ!」
屑村がキメ顔で咲を見た。彼女たちはつい先日一緒に下校した仲だ。真夜中だとはいえ、会話もしたので面識があると言っていいだろう。
「……? 誰だっけ?」
屑村はカクンと机についた腕がくだけた。コントのカクンみたいにカクンがきた。
「コントじゃありません! 私です! 私! この間夜中に来てくださったじゃないですか! そして、一緒に下校したじゃないですか!」
屑村の大声でクラス中の視線が集まる。
「あ、あっ、あーね! あなた! 無事に帰れましたか? 最近中々物騒な話もあるから気をつけてくださいね」
「その物騒な話で相談にまいりました!」
その真剣な眼差しで咲は面倒事が持ち込まれた事を理解した。
✳
「……と、言う訳で私のお友達が2人も失踪してます。これは普通の事じゃないと思ってます」
放課後に生徒会室に移動して屑村は咲に話を聞いてもらっていた。
「それで、私にどうしろと……?」
屑村が来たことも咲には理解が追いつかないでいたが、面識がないいずなまで来たことがいよいよ理解できないでいた。
「あの日、教室内には黒い影がいましたわ。それに気付き、恐れないあなた……何かを知ってますわね」
屑村が真剣な表情で尋ねたので、彼女の性格的にいい加減な返答はできなかった。
「私は少しだけ、ほんの少ーしだけ、『そういうもの』が見えるだけです。専門家でもないし、ましてどうしたらいいかなんて分からないわ」
咲は、突き放すというよりは、相談されたのはいいけれど、自分には答えるすべがないことを相手に伝える様に言った。
いずなはこの時点で完全に役立たずだった。面識のない相手とは一言も話せないし、面識がある人でもある程度慣れないと普通の会話ができないのだ。
現状を分かってほしくてできるだけ詳しく話す屑村と、自分ではどうしようもないことを一生懸命伝えようとしている佐々木咲。三人だけの生徒会室は地味に白熱していた。
そんな折、いずなが生徒会室の壁際に置かれた椅子に腰かけて他の2人の様子を傍観していると、退屈しのぎにキバが現れた。彼女は妖怪であり、時として実態を持たない。生徒会室の扉も開けずにスーッと入ってきて、おろおろしているいずなの表情を見て、なんとなく隣の席に座った。
ちょうどいずなとキバが屑村と佐々木咲のやり取りを傍から眺めているような状態だった。
キバはすぐに退屈になり、あくびを1回したら、きょろきょろと周囲を見渡し、空間にいた狐の妖怪をつまんで口の中に放り込んだ。彼女にとっては『おやつ』だった。
霊感が強いものでない限り、キバは見えない。普通の存在ではないからだ。多少の霊感があってもそれは黒い靄の様に見えるだけだ。そんな物を感知する能力は本来人間には備わっていない。
しかし、彼女は多少違っていたようだ。
「わ、あわわわわ……」
さっきまで謎のやり取りをしていた2人だったが、佐々木咲が目を見開いていずなの方を見ていた。ぶるぶると震えながらゆっくりといずなを指さそうとしていた。
「佐々木さん! 私は真剣なんです! 私の話を聞いてください!」
屑村は一段とヒートアップしていた。それでも、佐々木咲の異常さに気づき、共にいずなの方を見た。
「黒い靄……」
「え?」
佐々木咲がいずなを指さし、屑村もそれにつられていずなを見た。
注目されたいずなは当然挙動が不振になっているのだった。
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