第41話:女の友情
佐々木咲は目のあたりを手首辺りでごしごしした後、その黒い靄をもう一度見た。そこにいたのは一人の少女、目つきは悪いけれど美しい……美少女だった。一瞬戸惑ったのは判断に迷ったから。それは「美しい」方ではなく「少女」の方。自分よりも何歳か若い。それは少女で良かったのか……そう思ったからである。
その少女は美しいけれど、髪は真っ黒、服装も上から下まで真っ黒だった。ミニスカートをはいていて少女らしいのに、その下に長ズボンを履いている。肌はほとんど見えない。
唯一、手と顔の一部だけが肌をさらしていたが、どちらも人形のように真っ白だった。その上、目つきが異常に悪い。せっかくの整った顔が台無しだ、と佐々木咲が思ったほどだった。
もちろん、その少女はキバ。
佐々木咲のその声で「え? え?」と周囲をきょろきょろしていた屑村もその少女の存在に気づいた。
「わっ! びっくりしたっ! こんな子いましたかっ!?」
その存在に気づいた瞬間に自分のすぐ近くにいることに気が付いて飛び上がって避けた。
「ここは学校ですわ! こんな小さな子が!? ま、迷い込んできたのですか!?」
急に心配になり、屑村がキバに近づこうとした。
キバは屑村をひらりとかわし、少し離れた位置で傍観していた絆いずなの後ろに隠れて、顔だけ出した。ついでに、そこらで捕まえた低級霊を一口で食べた。
「教室でお菓子なんて食べて……迷子ですの? お姉さんが家まで送って差し上げますわ!」
キバがキッとにらむと机が数個動いて屑村からキバへの道を塞いだ。
「きゃぁ! そ、そうでした! 私は呪われているんでしたわ!」
そう言うと、教室の隅に移動して襟のボタンを一つ外して、胸元から十字架のペンダント、ロザリオを取り出して神に祈っていた。
先日の屑村の「こっくりさん」の効果なのかは不明だが、そこかしこに名もない低級霊がふわふわしていた。キバはおやつとばかりにふらふらとこの教室に来たことになる。
普段なら見つかることはない。しかし、観測理論によると、あるものは観測されることで存在するという。キバも佐々木咲に見つかることで他の人間にも見つかってしまった。
ちなみに、絆いずなは最初からキバの存在に気づいていたが、何となく言ったらいけない気がして誰からも頼まれていないのに空気を読んだり忖度したりして黙っていた。
「絆さん……」
佐々木咲が絆いずなの方を見て声をかけようとした瞬間、キバは指をちょいと動かした。それと同時にまた机が3つ動いて通路を塞いだ。
「またっ! お2人とも! 私から離れて! 私は呪われていますわっ!」
一人勘違いしている屑村。他人を巻き込まないようんしているあたり見当違いではあるが、本来いい人なのだろう。
「きゅ、急に専門家を思いつきました!」
いずながキバの手を引いて教室から逃げ出そうとした直後。
「やっぱり、いずなさんですわね! 私の目に狂いはなかったですわ!」
屑村が絆いずなのすぐ目の前にいた。その速さはキバですら反応できないほどだった。
「え? いや、ここはひとりで……」
苦笑いして後ずさる絆いずな。
「そんな水臭いですわ! 私といずなさんの仲じゃありませんか! それに、私のことですし!」
いずなはどんな仲だっけ? と、一瞬考えたが、結論が出る前に屑村がぐいぐい来ていた。なんだかもめて良そうなので、見過ごすことができない佐々木咲。収集が付かない状態となっていた。
*
「……で、なんで三人で来た!?」
「……ごめんなさい」
ここは学校の屋上。しかも、スマートに屋上に来ることができるようにはなっていない屋上だった。屋上に続く階段を上った上で壁にある梯子を上って、天井に開けられた直径60センチほどしかないマンホールを上がって、ふたが固定してある南京錠を開け、チェーンを外して、やっと出られる屋上だ。
「よくスカートでこんなところまで上ってきたな……」
山田はどうでもいい疑問から口にしてしまった。
「本当は屋上は立ち入り禁止なんですよ」
もうすぐ生徒会になることが確定している佐々木咲がぽつりと言った。
「こんな場所があるなんて知りませんでしたわ! 私たちだけの秘密の場所ですわね! 女の友情の予感を感じますわ!」
無意味にテンションが高い屑村。
「その……この2人をまいてくる運動能力もないですし、口で勝てるとはとても思えなくて……」
「お前は自己分析がしっかりしているタイプのぼっちだな」
自虐ネタを惜しげもなく披露するいずなと静かなツッコミの山田。
そこらの低級霊をおやつ代わりに食べ続けるキバ。このまとまりのない5人でこの先物語が進んでいくのか心配になるのであった。……作者が。
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