第9話:発酵と腐敗の違いとは
「こりゃー、妖怪だな。妖怪の仕業に違いない」
「何でも妖怪のせい的な……ウォッチ的な」
いずなが半眼ジト目で見て言った。世の中にこいつほど半眼ジト目が似合うヤツがいるだろうか。俺は他に知らない。
「まあ、昔そんなアニメがあったな」
「妖怪『毛布脱がし』とか、妖怪『靴下片方隠し』とか……」
いずなはこれまでに聞いたことがないような妖怪を挙げていく。
「お前、相当俺のこと馬鹿にしてるだろ」
それか、こいつ自体が馬鹿か。でも、それはさすがに言わなかった。
「そんなことありません。至って真剣です!」
それはそれで心配だ。大丈夫かな、この子。顔も真剣だし、この子の将来が心配になってきた。
「『妖怪』は、『もののけ』とか『怪異』とか呼び名は色々あるけど、もっと別の名前は『神』だったりもする」
「え!?」
ここでいずなが驚いた表情をした。やっぱりな、俺の話はあんまり聞いてなかったらしい。ピンとこなかったということかもしれないけど。
「もう一回言うけど、人は人の手の届かないような存在を『神』として恐れてきたんだ。つまり、それは時として『妖怪』で、『もののけ』で、『怪異』なんだよ」
「神様が……」
自分が信じていた神社の神様も、彼女が思っている様な『神様』ではないかもしれないと思ったのかもしれない。彼女は驚いたような、落ち込んだような、複雑な表情だった。
「発酵と腐敗の違いを知ってるか?」
俺は唐突に少し違う質問をしてみた。
「発酵はヨーグルトとか納豆とか……。腐敗は……みかん?」
腐ったみかんとはだいぶ年齢がアレだな。
「現象としては実は同じことなんだ。ただ、人間にとって有益なものは『発酵』、不利益なものが『腐敗』だ。『神』と『妖怪』の違いもそれに似ていると考えたら分かりやすいかもしれない」
「発酵と腐敗……」
「つまり、今回の場合は、『妖怪』って訳だ。今夜、お前の家に行ってその妖怪退治をしようかと思う」
「妖怪退治……」
彼女の半眼ジト目が再び俺を見ている。段々こういう顔なんじゃないかと思えてきた。かわいい顔が台無しなんだけど……。
まあ、彼女にしてみれば、少々話が強引に思えるかもしれない。彼女には何も見えてないし、何も分かってないんだ。それはしょうがない。
「そう、お前はどうやら 取り憑かれてるみたいだ」
「山田くんにはそんなことがわかるんですか? 霊感的な……」
いずなが一歩ずいっと近づいてきて訊いた。興味があったらしい。
「いや、俺には霊感は全くないよ」
彼女がカクンってなった。コントとかでしか見たことがないやつ。
「でも、それにしてはやけに断定的じゃないですか! 『妖怪のせいだ』って」
「俺には霊感はないけどさ、分かるんだ」
いずなが眉を段違いにして首を傾げている。
「それって矛盾してませんか? 現代の厳しい 読者さんを納得させることができますか!?」
「そのメタ発言やめろ!」
全く、最近の若いヤツは。それでも、俺は構わず続けた。
「じゃあ、夜に向けて早速準備から始めるか」
「準備?」
「そう。妖怪退治の準備」
「えっと……白装束を着るとかですか?」
それは死装束で、死人だろう。
「まあ、神様との交渉みたいなものだけど、、言い換えると『妖怪退治』とも言う」
「どういうことですか!?」
「何度も言うように、妖怪と神は同じものだ。違う見方をすれば、 一柱一柱の神と 一匹一匹の妖怪は全く別のものだ。共通点なんかない。だから、決まった対処方法なんかないんだ」
いずなは合点がいかない顔をしていた。その辺、分かりにくいかもしれないな。
「『神』は神頼みとか言うけど、人間を害するときの言葉はない。その時は『妖怪退治』とか、『悪魔祓い』とかいろんな呼び方をしている」
「山田くんは妖怪退治なんかしたことがあるんですか?」
「もう忘れてると思うけど、俺は別人格の陰キャな妖怪退治屋が突然転移してきたらしい。そいつの妖怪退治の知識が俺の中に流れ込んできてる。どうもそいつは妖怪をたくさん退治してたらしいから大丈夫だ」
「その設定まだ生きてたんですか?」
設定とか言うな。
「どうかは分からないんだが、とにかく陰キャ 妖怪退治屋が俺の中に入ってきてるのは間違いない」
「そんな事ってありますか!?」
「事実だ。とりあえず、乗っかってみたらどうだ?」
「うーん、さすがに話が突拍子なさすぎて信じらんないってか……。すいません」
まあ、こいつが言うのも理解できる。
「じゃあ 前世で予言もしてたから、その時した予言を教えてやる」
「予言!?」
「未来を見通せる妖怪もいるだろ?」
「……はい」
これまた合点がいかないようだけど、俺の予言を聞けば納得するだろう。
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