第12話:ホームセンターとサンプルの電動工具

 ホームセンターに向かって その後、 いずなの家に帰ることになったけれど、 歩いてる最中 何か話さないとちょっと気まずい感じ もあった。


「いずな、 お父さん 何の仕事をしてんの?」

「お父さんは……」


 なんだか急に口ごもったように感じた。


「実は……、お父さんは最近 リストラにあって会社をクビになったんです」

「そ、そっか……」


 触れてはいけない話題だったか。いきなり地雷を踏むとか、俺もたいがいだ。すぐに話を逸らすか。


「じゃあ、お母さんは心配してるんじゃないか?」

「お母さんは今、家出しちゃって 行方不明なんです……」


 どんな家だよ! 


「最近、なんだかついてないんですよね……。 私だけじゃなくて、家族も……」


 本当なら、俺もここで気づくべきだったんだ。 このなに気ない、気まずい会話の中に 妖怪のヒントが隠されていたことに……。


「あ、見てください猫ちゃんですよ!  真っ黒です!」


 俺たちが歩く少し前を全身真っ黒の仔猫が横切った。


「お前には あれが猫に見えるのか」

「猫以外の何に見えるって言うんですか!? それにしても、 目の前を黒猫が横切るなんて 縁起が悪いですね」

「お前は何人なんだ? 日本の ジンクスに『黒猫が目の前を通ったら縁起が悪い』っていうのは特になかったはずだ。 何か悪いものを見つけて勝手に落ち込んでいく、とどんどん気持ちは落ち込んでいくぞ? それよりも なんかいいこと 見つけて 前向きな気持ちでいた方が人生楽しそうだけどな」

「 山田くんに人生を語られてしまいました。 私は山田くんにも人生を語られてしまう人間なんだと痛感しました」


 いずなが歩きながら落ち込んで見せた。お前の中で 俺はどういう扱いなんだよ。一回膝を交えてしっかり話す必要がありそうだな。


 程なくしてホームセンターについた。


「ホームセンターってあんまり来る機会ないですけど、来たら来たで面白いですよね。いろいろなものが売ってて」


 いずなが楽しそうに商品を見ていた。あんなに嫌がらせをされていても、ある瞬間では切り替えができる彼女に強さを感じた。


「山田くん見てください、これ!」


 そこにあったのは餅つき用の杵と臼。


「こんなの欲しい時、どこで買ったらいいか分からないですよね」


 たしかに。ホームセンターには、ほとんど売れないものも売ってるって聞いたことがある。お客さんの印象に残ったら勝ちなのだ。


 あんなのも売ってたな、じゃあ○○は絶対あるはず!みたいな。臼と杵の他には、庭に置いてありそうな瓶を持った女神像で、給水ホースをつなぐと瓶から水が出るやつ。


 ヒノキで作った高級手桶。誰が買うのか、ハクビシン捕獲セットなども見たことがある。


 個人的には、電動工具も好きだ。妖怪退治の時に祭壇を作るときもあって、インパクトドライバーとか割とよく使う。


 要するに電動ドライバーなのだけれど、普通にネジをねじ込むだけじゃなくて、硬いものに当たったときとかトルクがかけられてガンガンねじ込んでくれるのだ。


 しかも、最近充電式のコードレスなので持ち歩けるし、どこでも使えるのだ。昔は天井に締め縄を固定しようとしたら、ケーブルが届かず延長コードも準備しないとできない作業があったってこと。


「これはなんですか?」


 俺がサンプルのインパクトドライバーを握ってギャンギャン回して楽しんでいたら、いずなが訊いた。


「インパクトドライバーだ」


 なぜ、男は工具が好きなのだろうか。俺は聞かれただけでドヤ顔してる気がする。


「工具お好きなんですか?」

「まあね。仕事でもよく使ってるし」

「よく使うんですね……」


 そういいながら、いずなが同じようにサンプルで置かれていたネイルガンを手に取った。ネイルガンは釘打ち機のこと。トリガーを引けばエアーで釘が打ち出される工具だ。


 ドライバーと違って、一般人にはいよいよ馴染みがないからそれがどれくらい危ないか分かりにくい。しかも、機能優先で頭のおかしい設計のモノもあって、どこから釘が打ち出されるのか、パット見では分かりにくいものもある。


 嫌な予感がしていずなのほうを見たら、案の定、釘が自分の顔の方を向いた状態でトリガーを引こうとしていた。


「いずなっ! 危ないっ!」

「えっ!?」


 大きな声を出しだのが悪かった。俺の声に驚いて、いずながトリガーを引いた。


 次の瞬間、俺は手を出していずなとネイルガンの間にてのひらを伸ばした。間一髪で釘を受け止めることができた。


 いずなは驚いて目を閉じていた。俺はてのひらに貫通した釘を急いで引き抜いてポケットにしまった。


「あれ? なんか飛び出ませんでしたか!?」

「ああ、ギリギリで弾いたよ。危なかったな」

「ええ!? ケガしてませんか!? 山田くん、手を見せてください!」


 いずなが俺の手を取ろうとした。


「あっ! ……あれ? 平気ですか?」


 彼女が俺のてのひらを見た時には、一切の傷はなく、血も一滴も出ていなかった。


「だから言ったろ? 間一髪、弾いたんだって」

「ケガがなくて良かったです。なんか飛び出したのが、山田くんのてのひらに刺さったみたいに見えました」

「そんな訳ないだろ」

「良かったです。でも、危ないんですね」

「そうだな。俺も先に注意しなかったから、悪かった。寄り道してすまん。ブルーシートを見に行くか」

「はい♪」


 俺がブルーシートの売り場の方に歩いていくと、いずなも後からついてきた。


ここまでお読みくださりありがとうございます。

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