第33話 仮面の戦士



数日前 ヴォルフガング王国跡地



「ここに王国があったなんて…嘘みたいだよ」



土壌が再生し雑草が生い茂る草原


樹木の再生はまだまだ時間がかかるだろう。



「キース・ローウェン!僕をどうするつもりだ!」




黒髪、黒眼のヒューマン


ユーマ・シンドー…この男を見ているとタカヤ・シンドーを思い出し腹がたつ…


神狼会の数少ない教徒の駆る荷馬車に黒華園で封じているユーマを蹴り飛ばす。



「がはぁぁ…」


「フェンリル様の指示でね、詳しくは知らないが…生かしているだけ有り難く思ってほしいよ」



「この忌々しいヒューマンが!!!」



さらに腹を蹴られても、僕を睨みつけてくるユーマ。


「ぐっ…ヴォルフガング王国を滅ぼしたのは帝国の兵器なんかじゃない!なぜ、ヒューマンを憎む!」



「知ってるよ、やったのはアリスだろ」


「アリス…?アリシアが!!!」



「ヴォルフガング…あんな腐りきった国にフェンリル様の力は過ぎたものだよ…アリスもルークも奴等のせいで!!」


再会したアリスは別人のようになってしまっていた。


フェンリル様を憎み、笑顔が消えた。


「貴様らヒューマンが戦争など仕掛けなければ!!」



ドスッ



「グ……カハ……」


おっと…やりすぎては駄目だ…


フェンリル様には生かして連れてこいと言われていた。


「ウラヌスもヴォルフガングも必要ない、僕やアリスのような美しい人狼族が支配する理想郷……それをフェンリル様と共に!!」



フェンリル様……僕に…愛を教えてくれた素晴らしい神…


きっとアリスも分かってくれるさ…



「着いたな」


岩石の残骸……フェンリル様の祭壇跡…ここに来いと眷属からメッセージを受け取った場所…


『キース……ザッ…ウェンか…』


「フェンリル様!!」


ああ…神聖なる僕の神……だけど、何かおかしい、色が薄い…


『ここではザッ……力がザッ限られる……ユーマを』


馬車からユーマ・シンドーを投げ渡す。


ドサッ


「ぐっ…なんだ…この化け物は」



『ユーマ・シンドーよザッ……ザー…マスターによりザッ…』



ユーマの体が宙に浮き……消えた!?



『キースよザーー……アリシアを連れてこい』



「だが、タカヤ・シンドーの瞬身で…何処に居るのか…」



『………来い』


フェンリル様に近づくと、体が浮き……ユーマと同じ!?


『ミシディア大陸のシヴァ王国…ザッ…そこに来る』


景色が消える…これが瞬身!





…………………………





シヴァ王国南西350km



『座標でいうと、だいたいこの辺りだが』


鬱蒼(うっそう)とした森というより、もうジャングルだな。


「もっと正確に飛べないのかよ」



『地図にも無いのだから無理を言うな。一度行けばイメージで行けるが』


「でも近いわよ、ニオイがする」


アリスのサイと身体能力は封じられているが、人狼族の感知は失われていないらしい。


「シヴァ王国はマール王国と殆ど交易がありませんの…リン様は妖狸族を知っているようでしたが」



「我輩の里で東の妖狐族、西の妖狸族は昔から因縁があると聞いたことがあるぞ」



ソフィアの国は新興国で建国して間もないし仕方がない。



アリスを先頭にジャングルを1kmほど歩くと荒れたジャングルに似つかわしくない宮殿のような寺院に辿り着く。



タージ・マハルと言ったっけ?写真でしか見たことないインドの寺院そっくりだ。



寺院の周辺には綺麗な水が流れて神聖な庭園のようなものが広がり


ワンショルダーの衣を着た修行僧のような妖狸族がポツポツ見える。


「何者だ!!ここは聖地アーカーシャ、旅の者が迷い込む地ではないはずだ」


入り口に居る妖狸族の戦士?見張り?のような者に問われる。



「俺はウラヌスのタカヤ・シンドー妖狸族の神官に会いたい」



「あの英雄と噂の!?」


明らかに疑惑の眼差しをしている。


ここの所、偽英雄が各地で豪遊して捕まったり詐欺を働いたりしてる噂もあるから当然かもしれない。



「証拠になる物はあるのか?」


証拠と言われても……


剣を抜くと槍を構え警戒する戦士


「勝利の剣、英雄にしか抜けない剣だと聞いている」


マジマジと見つめるが警戒は解かない。


「本物かどうかもわからない、国王の許可は取っているのか」



うわ、めんどくせーー。お使いクエストなんてやりたくねーんだよ。


「タカヤ様、やっぱり一度シヴァ王国に謁見しに行きますか?」



行きたくない……あの帝国のマキャベリスト達には散々な目に合わされた。

国家とか絡むと、また話が大きくなって面倒なことになる。



「うぬ!!!!タカヤあれは!」


マックスの様子が……あれは……


黒い渦が寺院のあちこちに…


ミラージュ!!


ヒュン!!一瞬で戦士を振り切り寺院に現れる獣のミラージュを悪霊が俺を操り刺す。


「マックス!!アリスとソフィアを頼む!!」


今まともに戦えるのは悪霊とマックスだけ……



フェンリルを倒すなんて豪語しておきながら俺は……どうやったら、あんな化け物に一太刀入れられるんだよ……



音速のように一瞬で移動し10体ほどバラバラになる。



アリスの火力が無いと……厄介なのは……


上空に羽ばたく死の鳥………


ですよね〜…出ますよね♪普通…


いつの間にか黒い鳥の大群がグルグルと上空で渦を巻くように舞っていた。


『替われ!神官にまで被害が及ぶ』


悪霊に交代する。




結局俺は何もできていない……




間髪入れずに黒い矢の空爆が降り注ぐ。


「問題ない、間に合う」


軽く腕を振り光の壁が寺院を包み込み全て跳ね返す。



庭園の水が浮かび上がり細い…水がレーザービームのような形で次々と鳥を撃ち落としていく。



「片付いたか…」



ほんの数十秒の事だった。

もう俺…この中に引き籠もっとこうかな…シクシク



「まだ何か居るぞ!!上だ!タカヤ!」


上空を見ると……浮いてる…人間!?


ボディースーツのような黒い服、全身に浮き上がる青白い筋のような紋章、黒い仮面、そして…黒い髪



『おいおい…空中浮遊する人間ってお前とアリスしか見たことないんだけど』



「普通は俺とアリスにしか出来ないはずだ…誰なんだ!?別に送り込まれたのか、いや…しかし」



仮面の男が…掌をアリス達に向かって……


『アリス!!!』


半透明な緑色の球体に包まれるアリス。


「なに!どうなってるの!!これ!タカ………」


ドサッ……


球体の中で倒れるアリス。



ドン!!!!!



上空に燃え盛る火炎、悪霊の火球が命中したのか。


火炎が落ち着き見えてきたのは……



『あれは……俺の』



仮面の男は光る宝玉のついた勝利の剣そっくりな……

いや俺の小太刀のような刀身じゃなく大振りの剣を抱え……



立方体のバリアに守られていた。



「ありえない!!それはアリシアが最後に!」



悪霊の言うアリシア……あの金髪のアリスと似た…



仮面の男の紋章が光り大量の火球が降り注いでくる。



ドドドドドド!!!!



悪霊が光の壁で全て防ぐ。



「どうなってるの……これ…」



立ち上がるアリスが見える。


『アリス!よかった、無事か!悪霊!!アリスの側に居てくれ!』


アリス、マックス、ソフィアと合流する。



仮面の男は俺達に向かって…刀身が光る剣を振り下ろし、青白い斬撃のような光が飛んでくる。



バチィィ!!!



感電したような音が鳴り響き光の壁はバチバチと帯電を放ちながらヒビが入る。


『替われ!!悪霊!』


入れ替わりすぐに防御態勢を作る。





【護れ!!!】





剣の宝玉が光り立方体のバリアが展開され


光の壁を貫通してくる斬撃が立方体とぶつかる。


奇妙なデジタル信号のような歪みが起こり景色を曲げるとバリアも斬撃も消え失せた。



追撃は来ず俺達を見下ろしている仮面の男…


「ユーマなのか!!」


「………………」



返事がない…だけどキースやアリス、人狼族でも呪いであれほどの力が出せるなら


それでもしヒューマンに呪いをかけたなら……



「どうも様子がおかしいわね、それに攻撃的なニオイもしない」



仮面の男が再び剣を構え……斬撃が放たれる。



【護れ!!!】



再び立方体のバリアを作り防ぐが同じように消え失せた。



斬撃が!!!!数発の斬撃が降り注いでくる。



「無理だ!!!!避けてくれ!」



バリアで防ぐも、一秒と持たず貫通されるがマックスが皆を掴み躱すには充分だった。


斬撃が音もなく地面に刺さるとまるで土が消え失せたように刃の跡が残った。




先程の妖狸族の戦士や僧侶達は腰を抜かしていて逃げてくれない。





駄目だ…聖剣を守っていたバリアにサイは効かない…悪霊が全力で攻撃しても多分駄目!!


逃げたら…あの仮面野郎…何するか分からない…


護り続けても妖狸族が狙い撃ちされたら……






だんだん腹が立ってきた………


分かってるよ……腹立つのは自分にだってこと……


悪霊が居なければ…護ることすらできない……


逃げることも許されない……



思い出す……フェンリルと対面した時の無力感……弱いから仕方ない……誰か助けて……





嫌だ!!!!!!!





あんな!惨めな思いをするのも!!アリスが傷付くのも!!嫌だ!!


「マックス降ろしてくれ……」


「何か策があるのか?」


「ねーよ!そんなもん!」



悠然と見下ろして身動きしない仮面野郎。


ちょーし乗ってんじゃねーぞ!!コスプレ野郎が!!!!


テメーが出来るなら俺だってーーー

!!!


勝利の剣を構えると刀身が光を帯びる……



『英雄と破壊者のアーキタイプ!!!』



護りの力の時は手にあるだけだった青白い筋……それが上半身に広がっていく。



剣を振り上げ………




【壊せ!!!】



振り抜くと仮面野郎と同じ青白い斬撃が放たれる!!


今度は仮面野郎がバリアを展開し俺の時と同じように消滅する。



【オラァーーー壊せ壊せ壊せーーー】



斬撃を連発する!!!


このクソ野郎テメーもこれは防げねーだろ!!




!!!!斬撃が空を切り、仮面の男は消えてしまった。



『瞬身か…警戒しろ…何処から出てくるか分からん』


警戒していたが、その後仮面の男が現れることは無かった。



……………



戦闘態勢を解き、被害をチェックするが、一部地面に穴が空いた以外は大した被害は出ていなかった。



「タカヤ……私の紋章が……消えてる…」


胸元を覗きこむアリス!!



「どれどれ…おじさんによく見せてみなさい」



胸元を覗くと、確かに紋章がなく、白い肌に豊満な谷間が!!!!



パカン!!!



痛ったー!!


「もう……人前では止めてってば…」


アリスに小突かれるが、頬を染めて照れているように見える。



可愛い………


いや!何故だ!紋章が消えたら廃人になるんじゃなかったのか!?



あの緑色の光に包まれた時に何かやられたのか?



「首輪を切ってみて」



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