第18話 ソフィア


神聖ウラヌス帝国



皇帝ブライト・ウラヌス10世は緊急会議を開き各貴族家代表、総勢10人を招集し席に着いていた。



秘書のような側近が皇帝の側に居るのを除き関係者以外は隔絶されている。



公爵家に侯爵家、このメンツだと立場的には私が一番下になるな…



「伯爵家当主!ユーマ・シンドー立て!」


「は!!」


黒髪、黒眼で片目に髪がかかった若い男が立ち上がり、いきなり疑惑をぶつけられる。


「本当にタカヤという男を知らぬのだな?」



「前回も申し上げた通り、我が一族にそのような者はおりません…シンドーを語る意図もわかりません…」



疑惑に満ちた眼は納得できないといったところか…爺(じじい)どもが



「ナーラ地方の渓谷 半径1kmを消滅、ミツエ村に現れた数百体のミラージュを強大なサイを使い一瞬にして全滅」


「500人からなる山賊を単独で壊滅、人虎族…しかもガントレットを服従させ聖剣を抜きユリゼン村のミラージュをも剣技で殲滅」



「あの死神キース・ローウェンを撃退したとの情報もありますな…」



「いやいや…とてつもない戦歴だよ…この短い期間で…しかしだ」



「君が当主に就いたとたん、君の一族が代々開発に携わったグングニールと似たような消滅」


「シンドー家が統治する地方に君と同じ珍しい黒髪と黒眼の男、出来すぎた話じゃないか?」





謀反の疑惑か、迷惑な話だ……しかしネタは何でもいいのだろう。隙あらば、こじつけて足を引っ張り合う…貴族ってやつは…




「グングニールは未完成です。小さな城1つ消すのにも膨大な燃料を消費します。 あの規模の消滅になると国家が傾くほどの燃料が必要になります」




侯爵家の1人が発言する



「ヴォルフガング王国消滅ほどの規模ではないが……奴がヴォルフガング王国を滅ぼしたとも考えられるぞ」


そんな事が1人の人間に可能なのか?


「座っていいぞ、ユーマ」


「は!!」


やれやれ…やっと吊し上げから解放されたよ。




「変異体…」




座りながら呟いた。



「なんだ?ユーマ言いたいことがあるなら話せ、許す」



「推測ですがタカヤはヒューマンの変異体と考えられないですか?」


「馬鹿なことを、妖狐族(ようこぞく)、妖兎俗(ようとぞく)、妖狸族(ようりぞく)の三妖種族にしか変異体は生まれん」


「だがキース・ローウェンはどうですか?人狼族ですが、あの力はサイのそれではない」


「それは…」


別の貴族が口を挟む


「ここは軍を使ってでも連行し本人に聞くのはどうだ」


「駄目だ!!もし反感を買えば一個大隊全滅で済めばいいが、最悪………」





「ヴォルフガング王国の二の舞い……」





辺りはシンと静まり返った。



公爵エドガー・マクスウェルがパチンと指を鳴らし発言する。


「見て頂きたい物がある…」


皇帝の側近が赤い布を解いてテーブルの上に置いた。




聖典(エロ本)である。



「タカヤ・シンドーが売却されたとされる美術品だ」




「こ…これは…なんて精巧な裸婦画…」

「馬鹿な!!絵画の域を越えているぞ!」

「本なのか!これは見たこともない材質、羊皮紙ではないのか!」

「どんな製本技術を使っている!」



ザワザワ…ザワ


聖典(エロ本)を囲み真剣に議論する貴族たち



「更にだ…ミツエ村…妖狐族の神官から神の国から来たとの言質も得ている…」



「あの妖狐族が…」


「聖剣を抜いた事といい…やはり伝説の…」


「あんな物はおとぎ話だ!!」



再び会議は騒然なものとなった。





「ほっほっほ英雄の存在などどちらでもよい」




静観していた皇帝ブライト・ウラヌスが真っ白な髭を触りながら口を開いた。



「前回の英断は見事でした陛下」



エドガー・マクスウェルは賛辞を述べる。




「英雄であろうと魔王であろうと存在はどうでもよい、のうエドガーよ、人を団結させ動かすものは何だと思う申してみよ」



「普通なら権力、金銭、武力と申し上げたいところですが……希望ですね」



「察しがよいのエドガー、魔王等とでっち上げたが共通の敵は国を団結させるのに都合がよい、それに立ち向かう英雄、しかもヒューマン…良い話になるの〜」




「感服いたします陛下…現に獣族、ヒューマンの帝国に対する支持率は上がっております、しかし奴の目的が解らないのでは次の手を打つのに少々ご考察が必要になるかと」


「しばらくは泳がせておくがよい、そこでだ」



皇帝ブライトはエドガーに耳打ちする。


「御意に」


立ち上がり手を前に出し宣言するエドガー


「これより!神聖ウラヌス帝国はタカヤ・シンドーを最高来賓とし、侯爵同等の権利を与える!!」



「衣食住は勿論のこと軍事品の調達、娼館に至るまで最高の持て成しを命ずる!費用は帝国の負担とする!すぐに伝えよ!」



「は!!」



驚愕するユーマ・シンドー



一大国家を脅かせる伝説の英雄…

人間兵器であり最強の戦士…


いったい…どんな男なのだ…タカヤ・シンドー




……………………




朝方、西の貿易都市リールーに到着した俺は




吐いていた




「ゲボォォーー」



「あの程度の揺れで船酔いなんて本当に虚弱体質なのね…タカヤは」


呆れるように言うアリス


「アリスたん…お願いします

…治癒してくだちゃい…」


「はいはい」


アリスの手が俺に触れ緑色の光に包まれる


はぁ〜〜楽になる…


「はい、おしまい」


「助かったよアリス」





「あの〜大丈夫ですの?」

背後から女の子の声!!!




「少し休んだら大丈夫ですよ!僕と一緒にその辺の宿でご休憩しませんか!」




立ち上がりながら振り返るが…誰も居ない…



「何処を見ているの、ここですわ」



声がした下を見ると兎耳のガキが居た。


俺の鳩尾あたり130cmくらい?


舟場に似つかわしくない水色のドレス?赤茶色の巻き髪はどこか、お嬢様とした雰囲気。人兎族??って言うの?




「タカヤ…あなた…いくらモテないからって…そんな小さな女の子を…」



ウジ虫を見るような軽蔑の眼差しで引くアリス



「違う!!!馬鹿にするな!!俺はCカップ以上しか動画を再生したことは無い!」



「子供の前で、何を意味のわからない事誇ってるのよ!!」




ポカーンと見つめる幼女



「仲が良ろしいんですわね」



ウロウロと俺達を周回し観察してくる。


とくに俺とマックスを


「なんじゃ?この童子は?」



「タカヤ様とあなた」

俺とマックスを指して言う


「我輩はマックスじゃ!!」


「いったい、どういったご関係ですの?」


「は?」


「タカヤは我輩の主であるぞ」





「主従関係!!!!!!」





「まさか!その手がありましたのね!!」



後ろを向きガリガリと何かのメモを取っている。


「失礼、私(わたくし)はソフィア以後お見知りおきを」




「マックス!なに食う?」

「我輩は肉が食いたいの〜」




メモを取ってる間に50mは離せた。


あの手の奇人は、もう沢山だ。




「なんで置いていくんですの〜」


パタパタと短い脚で駆けてくる。


ちっ!巻けなかったか!



「迷子かしら」


俺の前で立ち止まり目を閉じるソフィア


こんな幼女にもきっと勝てないんだろうな俺の弱さだと……




「へえ、あなた弱いんですの」



なん…だと……!?



「ご自分で、そう思いましたもの」


『精神感応か…』


「その通りですわ、私は妖兎族のソフィア 改めて宜しくお願い致します☆」






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