第17話 ミシディア大陸へ



「今回ご紹介する商品はこちら!ウルトラダイナミックブレード!  料理をする時に包丁の切れ味が悪くてメチャクチャ!そんな思いをしたことありませんか?」




船の上で食材を並べ陽気な外国人風にアピールする。




「このウルトラダイナミックブレードで切れば食材を押さえながら…ほらビックリ!  手は全くの無傷で食材が切れる優れ物!!NASAな技術を駆使した次世代の包丁!どうだいマックス!HAHAHAHA」



「便利なもんじゃの〜」



昔に見た通販番組のノリでプレゼン練習をしていた。



この魔剣【勝利の剣】を売る為だ。


「リールーでも英雄の剣なんて恐れ多くて、何処も買い取ってくれるわけないじゃない」


冷静に言い放つアリス


『売ろうが捨てようが無駄だ、俺の意思で呼び寄せることができる』


そう、この魔剣

 

俺の股間に装備されたショートソードの事情と同様、捨てることすら許されないのである。




「生命を切ることのできない剣…武器と呼べるのかしら…」



アリスの言うとおりだ、植物を含め生きてる物は、刀身がすり抜けてしまって殺傷能力がなく


包丁くらいしか使用用途が思いつかない。


せめて服だけ切れるなんて性能があれば家宝にするところだが、それも無理



『存在そのものは消すことはできないがミラージュは消せただろう』



『おまえが乗り移る呪いの剣なら普通の剣でいい!』



『乗り移っていない、操っているだけだ、それに簡単に解除できるだろう』



つまり格ゲーのように操ってボコボコにされてもプレイヤーは何の痛みも感じることなく


俺だけ痛い思いをするってことじゃねーか!!




「それにしてもミズガルの宴は楽しかったの〜♪」




マックスは楽しかったのか!?



思えば、この魔剣を抜いてからは針のむしろだった……



伝説の聖剣を抜いた英雄……



そんな噂はたちまちに広がり、貿易都市ミズガルに帰ると熱烈な歓迎祭が開かれた…



船が到着するまで毎日がパレードで街道を馬車で連れ回され手を振ると、大歓声が響き渡り


市長と握手させられ、群がる新聞記者に矢継ぎ早にコメントを求められる…



英雄の似顔絵は飛ぶように売れ、英雄饅頭なるものまで売り出される始末…




これで俺が弱いなんてことが知られてしまったら………





ーーーーーーーーーーーーーー



群がる民衆。


「なんだとコラ!弱いじゃねーか!ザコ!!」

「騙された!!」

「ふざけんな!!」


「あんさんのパレードで、ごっつ金かかったんや!ここはカラダで返して貰いまひょーか」


ガチムチの熊獣族が現われる。


「OK!!Boy四つん這いになるんだ♪大丈夫優しくするからさ☆」





ーーーーーーーーーーーーーー




嫌だーーーーーーー!!!!!



「何を思い詰めておるのだ」


「マックス…いや…ガチムチ熊獣族に貞操の危機を…」



言い終わる前に反応するマックス



「何処に居る……」



は?あの……マックスから殺意の波動が…


「その人熊族(じんゆうぞく)は何処に居る!!我輩が八つ裂きにしてくれよう!!」



眼に宿る炎……全身に禍々しいまでのオーラが見える………恐い……




「違う!マックス!俺が英雄じゃないと知られたら、大変なことになると妄想しただけだ!」



「なんだ!そんなことか!ガーーハッハッハ本物の英雄なのだから気にすることもあるまい!」



マックスの思い込みは一生治りそうにない……

 

全世界の人々がマックスだったらいいのに……




船倉(ふなぐら)の物陰から兎の耳をピコピコと動かしながらタカヤ達の観察をする少女が居た。


「あれが英雄タカヤ・シンドー…顔は…まあまあ美形と言えなくもないかしら…合格ですわ」



……………



時は少し遡る



キース・ローウェンは豪華な自室でビキニパンツ1枚の姿になり全身鏡の前でクネクネとポーズを決めていた。


「美しい…」


「まるで彫刻のようだ…」


ため息をつき自分を抱きしめるようなポーズを決め、ウットリと鏡を見つめていた。



「ああ…鏡の中の僕……美しすぎる君を抱きしめたい…僕を鏡の世界へ連れて行っておくれ…」



ガシャーーーン!!!



鏡に突撃し、バラバラに砕け散る全身鏡


「いけない!僕としたことが…また傷でもついたら、人類の至宝を失ってしまう」



傷……



そうだ…タカヤ・シンドー…奴を許せない!!!


額にこんな大きな傷を!!!!!


治癒したヒューマンの神官は傷など無いと抜かしやがる!!!


神官は残念なことに、帰らぬ人となってしまった。


「こんな!!こんな大きな傷跡があるのに!!!!!タカヤ・シンドー!!許さんぞ!!!」



事実、彼の顔に傷など無かった。



「その変質的な自己愛が無ければイイ男ですのに…」


「ソフィアか……なんの用だ」



ソフィア 妖兎族 13歳の少女がドアの前に立ち呆れたような、ため息を漏らした。



「あなたが意識する、そのタカヤ・シンドーに興味がありまして♪」


ソフィアは、僕に勝手に着いてきた少女だ……灯に舞う蝶のように引き寄せてしまう…ふっ…美しさとは罪なものだ。



「あの下衆に興味…」


「あなたが、そこまで入れ込むんですもの、興味を持つなと言われるほうが無理ですわ♪」


タカヤ・シンドー…今すぐにでも殺しにいきたい…が



奴の実力は本物だ……黒華園も通じない、剣の腕も一流 アリスの祝福並みのサイ能力も持ち合わせ


聖剣を抜いた伝説の英雄……


悔しいが…手を出せる相手じゃない…


「勝手にしろ…」


「ありがとうございます♪そうさせて貰いますわ♪」



今はこの悔しさと憎悪を忘れぬよう…機は…きっと来る!




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