第16話 勝利の剣



ユリゼン村 

なんの変哲もない、ただの農村


ただひとつ違和感があるのは中央に夜の村に浮かび上がる青白い光を帯びた半透明の立方体がある。



その周辺は土がエグれ、めちゃくちゃに荒れ、柵に囲まれている。



「あれが伝説の剣?」



「【勝利の剣】と言われてもおってな、色々と伝説が語り継がれ、その周辺に村が出来たのだ」




近寄ってみると商人らしき男に声をかけられた。



「おっ!にーちゃん達!挑戦するかい?1人 5万マルクスだ」


「金とるのかよ!!」


『なんでもいい!早くしろ』



15万マルクスを払い3人で柵の中に入る。



荒れた付近と違い立方体の中は草が生え岩に剣が刺さり、鞘のような物が横たわっていた。



柄は何やら金色で宝玉のような装飾が目立つが小ぶりで、俺の持つ短剣より短く見える。



アリスの紋章が服の上に浮かび、人を飲み込むほどの大きな火球を立方体に放った。



火球は立方体に当たり爆発するが、傷一つ無い。



「オラァ!!!」



立方体に飛び蹴りを放ち空中で残像が見えるほどの拳の連打を叩き込むマックス。




だがやはり立方体はビクともしなかった。



「駄目ね…数年前にも壊そうとしたけど無理だったわ」



バリアみたいな物らしく誰も触れられないってのは、そーいうことか…


『近づいてみろ』



俺に壊せるわけないだろうに…



立方体の正面に立つ


『ザーー反応をザーー…ザーーしてザーー…』


『BLBザーー…DSFザーJET』



なんだ?いつもの雑音に悪霊が何か言っている






はえ!?




立方体がスーっと消えていく。


『抜け!』


ザワ…ザワザワ…

周辺の人が騒いでるいような…



剣に近寄り柄を掴んでみる。





フッ




えっ?なに?突然真っ暗になった…

松明が消えた?



宙に浮く映像のようなものが現われる。


アリス!?


主観視点なんだろうか、カメラを覗くようにアリスが写っていた…



いや…よく見ると違う…

狼の耳や尻尾が無く

髪は金髪、目の色も青く

一般的なワンピースを着ている。



近代的なデザイナーズマンションのような一室に居るアリスらしき女が言う。


「これで…やっと…生きていく道ができたのね」



「ああ…俺の過ちが許されるわけじゃないが…なんとか食い止めることができる…」



悪霊の声!?これは悪霊の記憶か?



「あなたの過ちじゃない!どんなものでも、使う人次第よ!」


彼女は悪霊を抱きしめる


「慰めはやめてくれ…あんな物の為に……どれほどの命が…」



「慰めじゃない…あなたは素晴らしい人よ…少なくとも私にとっては」



どこか悲しげなトロンとした眼で見つめてきてキスをする。



画面が暗くなる…目を閉じたのか



「くふぅ…はむ…」


熱烈な接吻のような音が聞こえる


画面が映る、火照った顔の彼女はが上目遣いで言う


「ベッドにいく?」



はい♪喜んでーーー!!!



画面が消える…



なんじゃ!こらーーーー!!!いいところで消すんじゃねーーよ!!!リモコン!リモコンはどこだ!



再び画面が現われる。



シーンが変わった?

何かのホールか?国会議事堂みたいな雰囲気だ。



「とっても興味深いけど、不可能よ机上の空論だわ」



女の子?制服か?あれ?

アリスを小さくしたような、可愛らしい子が何か言っている。



「なんとでも言えよ、僕は君のようにインプットだけじゃなく何かを成し遂げたいんだ!」



声変わりしていない男の子の声。


子供時代の記憶か?





また画面が消え、再び点いてシーンが変わる。





荒廃した街……アリスのような彼女を抱き上げている。




「アリシア!!!アリシア!!」




悲痛な声を上げている悪霊


彼女の腹部は………血にまみれていた…


「かはっ…」


吐血する。


「……だめ…ね…もう」



「喋るな!!!大丈夫だ!!すぐに治療を!」





「私が…いなく…ても…ご飯はちゃんと食べて……ね…あなたは没頭したら…食べない…から」





「そんなこと言うな!!!すぐに連れて行く!!」



これはダメだ…出血が酷い…



「最後に……ワガママ…聞いて…くれる…」


「嫌だ!!!嫌だ!!!駄目だ!!逝くな!」



「忘れて……くれたほうが、あなたの…為なんだけど……私の…こと…忘れて…ほしくないな…」




手を握り、何かを渡した…


握りしめた手と手が青白く光る…






「私は……本当に……本気で……あなた……を………愛して………」





繋がれた手が…解け…落ちる…

眼の光が…消える…



「嗚呼あああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」



悪霊の絶望が画面越しからでも痛いほど伝わってくる……


アリスと似ているからか……胸が締め付けられるように痛い……



画面が消え、ぼんやりと…何かが見える…








剣が抜けていた…



俺の手に握られた短剣は刀身が鈍く輝いていた。



ガッシャーーーーン!!!


カラーーン カラーーン


鐘の音?騒音!?



振り返ると、大騒ぎになり獣のミラージュとアリス、マックスが戦っている!

他の獣族より明らかに動きが洗練され次々とミラージュを屠る。




なんだ!!どれだけの時間、意識が飛んでいた!?


「グルワァァーー!!」


い!?


3体のミラージュが俺に飛びかかって……やば!



俺は勝利の剣で3体のミラージュを目にも止まらぬ斬撃で切り伏せた………




いや…勝手に…切り伏せていた。




「なんだ…これ…」


切られたミラージュは、いつもの黒い霧にならず


モザイクのようなパズルのような物になりバラバラになって消えていく。



「タカヤ!!どうしたの!ずっと立ち尽くして!!」



カキーーーン!!


「どういう…つもりかしら!?」



俺はアリスに斬りかかり、ナタで俺の斬撃を受け止めるアリス…



「俺じゃない!!体が勝手に!」



「グゥゥオオーーー!!!」


俺とアリスに飛びかかるミラージュ


『邪魔だ!』


跳躍し駆け付近のミラージュを数体をバラバラにしていく。



『もしかして!おまえか!悪霊!』


『一筋縄ではいかないと思っていてな、保険で仕込んでおいたのは正解だった、見つけたのは運がいい』


なにやら意味のわからん事を言ってるが、どうやら悪霊が俺を操っているらしい…



伝説の聖剣どころか!

呪いの魔剣じゃねーか!



キン!カン!!カキン!キン!!キキキキンキン!!



とてつもない連撃をアリスに叩き込む

あのアリスが押され防戦一方だ!!

ふざけんな!!止まれ!!!



粗方ミラージュを片付けたマックスに叫ぶ!


「マックス!!羽交い締めでも押し倒してもいいから俺を止めてくれ!」



「おっ…押し倒して…」


ブシューーーーー


鼻血を吹くマックス


敵の攻撃にやられたのか!?



「大丈夫か!!マックス!!!」



「むっ…むう…問題無い!行くぞ!」



飛びかかり掴もうとするマックスだが簡単に躱す俺。


隙ができたとばかりに、ナタで攻撃するアリスだが、やはり躱す。




二人がかりで、とんでもないスピードで連撃を繰り出すが

全て紙一重で躱し続ける。




『てめーいい加減にしろ!!』


『試したいことがあるだけだ』



なんの悪びれもしない、クソ悪霊



ほんの一瞬…誰もが隙だと思わないような…一瞬の間に


剣の刀身はアリスとマックスの体を切り伏せていた………





やってしまった………俺は……アリスに人を殺すな…なんて偉そうな事を言っておいて………





「なんともないぞ…タカヤ」

「どういうこと…」





『剣を手放してみろ、簡単に離せるはずだ』


手の力を…抜く…


カラン……


剣は地面に転がり、体の自由が戻った…

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