第15話 ユリゼン村

貿易都市ミズガル


街中の茶色いレンガ調の建物を縫うように運河が流れ、ゴンドラで移動する人々



ミツエ村とは比較にならないほど広く商店や宿が立ち並び


至るところで露店が運営され大勢の人々で賑わっていた。






俺達は運河と海が見渡せる大衆食堂2階の席につき食事をとっていた。




「それで?なんで、その人虎族と一緒に居るの?」


ペスカトーレらしきパスタをフォークに絡ませ、ガツガツとドリアやピザを掻き込む俺とマックスをジーっと観察するように聞くアリス



「マックスだよ、さっきも紹介したろ」



アリスは相変わらずの無表情、さっきの笑顔は幻だったのか?



「マックス・ガントレットだ、タカヤを主とし同行することにしたのだ」



改めて自己紹介をするマックスを腑に落ちないという雰囲気で睨むアリス。




「人虎族でしょ?あなた…しかもガントレットって族長の家系じゃない、人虎族は自らより強い者と認めないと主従関係にならないと聞いたけど?」



「タカヤは強いぞ!我輩が守るに値する男だ」



ケロッとした顔で答えるマックス


マックス…その思い込みの激しさ…助かるよ。




「これのどこが?知らないのかもしれないけど、ヒューマンなのに一切サイを使えないし変態よ」


変態は関係ないだろ…


「それがどうしたのだ?戦闘になれば我輩が拳となり盾となれば問題あるまい」



「それに我々が手も足でなかった先程の人狼族を見事撃退したではないか」




「あれは運が良かっただけよ…あの男キース・ローウェンの呪いの力はサイを封じ行動不能にする、元々サイが使えないタカヤに効かなかっただけ」




「運は諦めず屈しない強者に舞い降りるものだ!我輩が感じた天啓に間違いはない!!ガーーーハッハッハ!」





何を言っても無駄だろうと諦めたのか俺に話を振るアリス


「それで?船が来るまでどうするの?」


船は1週間後に着くらしく、更にそこから2週間ほど航行し、やっとミシディア大陸の貿易都市リールーに到着するらしい




「1週間か…そういやサイに【瞬身】ってあったろ?あれでミシディアまで移動できないのか?」



「瞬身は高等技術よ、私は使えないしヒューマンの貴族でも一握りの人間しか使えない、それも移動距離はせいぜい数m」



あのアリスが出来ないのは意外だった、悪霊に乗り移られた時は一気に上空までワープしたから

てっきりアリスも出来るものだと思っていた。



『俺に交代すればミシディアだろうと世界の果てだろうと移動できると思うが』


『やだよ、アリスとロマンティッククルーズしたいし、交代したら世界を破滅させるだろ?』


『いや、破壊はしない…確かめたい事もあるしな』


あれほど、バーサーカーのように破壊したがってた悪霊も何か心変わりしたのだろうか?


 



「取り敢えず武器と服が欲しい」


「私に人を殺すなと言っておいて武器が欲しいの?」


「見た目の問題だよ、それにミラージュが出たら丸腰だとマズイだろ」


 



そう人間 見た目である



 


正確には人間見た目で解らないものだが、見た目で解ったつもりになる人が9割だ。



俺だってパンチパーマ縦縞スーツのステレオタイプアニキが居たら喧嘩は売らない。


たとえ中身は


花とか愛でるアルプスの少女ハイジのような純粋な心のアニキでも殴りかかる事はしない、避ける。



エリマキトカゲのようなものだ、虚仮威しでも何でも生存しなくてはならない。






「武器が欲しいのなら、ここより南の【ユリゼン村】にある岩に刺さった剣を抜きに行ったらどうだ?誰も触れられない剣だが、異界の英雄であるタカヤなら抜けると思うぞ」




提案するマックス、そもそも異界の英雄って何なんだろ?



「あれは、ただの観光名所のオブジェじゃない…それにタカヤが異界の英雄なんて、荒唐無稽もいいところよ」


「異界の英雄って何なんだ?」



食事を済ませ、茶を飲みながらアリスは答える



「世界中に伝わる、おとぎ話よ、世界が混沌に陥る時 異界より現われ世界を安定へと導く変革者。」


「地域によっては、病を治したり、竜を倒したり、何かしらの活躍をする英雄として語り継がれてる昔話よ」





信憑性は無いが俺が異界から来たってのは事実なんだよな。



英雄が伝説の剣を抜くとか、アーサー王と円卓の騎士みたいな話だ



グングニールとか、俺の世界に伝わる神話のようなものと共通点が散見される。



「伝説の英雄に伝説の剣ね…疑わしいけど、ひとつの街に留まるのは帝国に捕らわれるリスクもあるわけだし、暇なら観光ってのも悪くないんじゃないか?」




「神狼会に見つかったのも都合が悪いし、ここを拠点にするのは確かにマズイわね」



「そんじゃ、買い物してから行ってみるか」



食事も終えたことだし、まずは中央広場にある商店に向かうことになった。





………………






「見ろ!あれタカヤ・シンドー様じゃないか?」

「あれが伝説の!」

「ありがたや…ありがたや…」

「これでミラージュに襲われることも無くなるのか」




中央広場に行くと、人混みがモーゼの十戒のように割れていき俺達を噂する人でごった返していた……




「思いっきり面割れてるじゃねーか!!」


「情報伝達が早すぎるわね…まさか」



中央広場の噴水に併設された看板?掲示板のような物に向かって走り出すアリス


「どうした?アリス?」




掲示板を見ると、少々美形に描かれた俺の顔がデカデカと貼り出され何やら読めない文字が並んでいる。




指名手配…………





はーーーん!!こんな街のド真ん中じゃ逃げ場もない!




『神聖ウラヌス帝国は異界の英雄を召喚し、既に皇帝との謁見を済ませ伯爵家に貴族入りしミラージュの元凶である魔王を倒す旅に出たと書いてあるな』




読めるの!?


この悪霊は今までの言動からして俺と同じ日本人のように思えたんだけど…


王様になんて逢ったことないし、なぜ?




「ウラヌス帝国のやりそうな事だわ…都合の良い流布を…」




つまり、ミツエ村を救ったヒーローは自分達の息がかかった者がやったことにしたのか……えらい迷惑な話だ。





こんな事実無根のことを認める訳にはいかない!





「あの〜タカヤ様ですよね♪魔王討伐頑張ってください♡」




「勿論ですよ!お嬢さん!この英雄タカヤ・シンドー!あなたの為なら魔王だろうが閻魔だろうが叩き潰してみせますよ!」



人羊族?可愛い巻き髪のねーちゃんに声をかけられ

手を握りしめ見つめる


ぐへへへ!モテ期!!!この一度も女性から声などかけられた事のない俺が逆ナン!!英雄万歳!!




「馬鹿なことやってないで行くわよ」


アリスに襟首を掴まれ商店まで引きずられていく



待って!せめて名前と連絡先を…





……………………




マックスの背に乗りユリゼン村を目指し駆けている。

アリスの走る速度はマックスよりは劣るみたいだが、相当なもんだ。



既に辺りは真っ暗だが獣族は夜目が効くのか走るスピードは落ちてるように思えないし障害物も避けている、。



黒の高そうな装飾のついたジャケットにパンツと赤いマントと短剣


商店に入るなりVIP扱いで、しかもお代もタダという厚遇

何でも英雄が装備すると宣伝になるとか何とか…



武器は色々とあったが、どれも重すぎて扱えそうにない…

小太刀程度の短剣だけ頂いた。


長剣を片手でブンブン振り回すファンタジー漫画や時代劇をよく見るけど


あんなの不可能だ。


貴族を名乗る詐欺師が一気に魔王を討伐する英雄とか出来すぎた話だが


指名手配の日陰者よりは行動しやすいか…


「アリスもし俺が悪霊みたいな破壊野郎だったり帝国に都合の悪い存在だったら、こんな噂流しても大丈夫なものなのか?」



「その時は別の情報操作や英雄を消す手は考えてるんじゃないかしら」



迂闊な行動は出来ないってことか…



「あと、人目を惹きつけて行動を把握する狙いもあるわね。あまり1つの場所に長居すると帝国まで連行される可能性が高いわ」




「まあ、タカヤが英雄であるのは事実だからな!!何も心配することはあるまい!ガーーハッハッハ」


俺もマックスくらい楽観的になりたい…



「そろそろユリゼン村ね」



かなり遠いところに、火の光となにやら青白い光が見える。


光が確認されたとたん悪霊が口走った



『あれは俺のものだ』



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