第19話 フェンリル



ピシャーーーーン!!

ゴロゴロ……


ザック…ザック…


夜の雷が鳴り響く中、山中で穴を掘っている。


「はぁ…はぁ…弱いことを…知られたからには仕方がない…仕方がない…」



ブツブツ、ブツブツ



ピカッ!!!ピシャーーーン!!



雷光に照らされる

目を閉じ横たわる妖兎族の少女…





ーーーーーーーーーーー



「私、埋められるのは嫌ですわ」


「俺の妄想まで読むんじゃねー!」



西の貿易都市リールー



ミズガルのような運河は無く

少しだけ近代的な建造物


遠くに風車が見え、チューリップのような花がそこかしらに咲く


オランダのパチモノみたいな街



迷子のソフィアを連れ街中を歩いていた。





「親は何処に居るのかしら?」


「こう広いと見つけるのは骨だの〜」



「親は遠くに居ますわ、一人で来ましたもの」



こんな小さな女の子が一人旅!?



「一人でって…今までどうしてたんだ?」


「キース・ローウェン様の別荘でお世話になってまして、色々な所に連れて行ってもらってましたの」






未成年者略取………






「あの野郎ーーー!!!見た目通りの変態野郎だ!!!」


「キース様は、そんなに悪い方じゃなかったですわ!私から着いていったわけですし!ただ…寂しい方…」


寂しい?そりゃあんな性格じゃ友達居なさそうだもんな。



「キースを知ってるの!?」


意外そうな表情のアリス


「はい、一目見てピンと来まして着いて行きました、でも中々他の人と接触せずカップリングが成立しませんの」


何が成立???


「そこで!キース様が拘るタカヤ様に興味が湧きまして着いて行くことにしましたの」



「しましたの、じゃねーよ誰が連れて行くって言った!」



俺まで犯罪者になってしまう。



「やっぱり親元に帰すべきだわ、妖兎族の変異体なら神官もしくは神官候補のはずなんだけど」



「妖兎族の街ならマール王国に行くのはどうだ?我輩、国王と面識があるぞ」



「あまりマール王国に行くのは気乗りしませんわ」



なるほど、帰りたくない家出少女か…


親と喧嘩し行く宛のない少女を言葉巧みに騙し毒牙にかける……


テンプレ通りのゲス野郎だ!キースは!


『この世界の変異体と呼ばれる者は俺の存在を認識できるようだな』



目を閉じながら答えるソフィア


「私には悪霊様?でいいですか?あなたの声が聞こえます。初めて見ましたわ1人に2つの心………ハッ!」



またメモを取り出しガリガリと何か書いている。



「心はいつも一緒にあるのに…決して抱き合うことを許されない2人……ぶつぶつ」


気色の悪いことを言うな!





「さてと…」


今度はマックスの前に立ち何か読み取っているらしい


「まあ!!そんな!」


なんだ?


「私決めましたわ、あなた達は悪い方じゃない、やっぱりついて行きますわ」




勝手なことを…

今度はアリスの前に立ち読んでいる。


「あら?」


どうした?


「心を読めませんわ…お姉様の心は固く閉ざされています」



「ズケズケと人の考えを読むものじゃないわ…それにお姉様って何?」



ちょっと不機嫌なアリス、そりゃ気持ちのいいもんじゃない。



「失礼しました…でも身を守る為なので…今後は控えさせてもらいます、私を産んだ後、母は他界したので兄妹、姉妹が居ませんの…お姉様とお慕いしても………」






「やめて!!!!!」






本気で拒否するアリス

おいおい、そりゃ嫌だろうけど大人げ無いぞ!



「ごめんなさい……アリス様…」



シュンと垂れる兎耳


「アリス、我輩も気持ちは分かるが可哀想だぞ」



だよな〜



えっ!? 何!? 空が暗くなっていく、雨? いや…あれは!!



「ミラージュか!!!」



警戒し顔つきが変わるマックス。


天空にグネグネとした黒い空間の歪みが発生していく、しかも大きい!!太陽が隠れ夜のような雰囲気になっていく。




「あ……あれは………」


アリスの様子がおかしい目を見開き少し震えている。



大きい…あまりにもデカイ黒い霧のようなものは、1つの黒い狼のような獣に変化していく……いつものミラージュじゃない!



逆立つ毛並みは長く、鎖のような物を纏って威圧感が半端じゃない。





「フェンリルーーーーーーーーーーーー!!!!!」





悲鳴のような叫び声を上げ、紋章が展開し青白く光るアリス。


ジェット機のカタパルトのように上空へ飛翔する。




『そちらから来てくれて助かるよ…アリシア・ヴォールク…世界の枷は完全には断ち切れないようでな』




悪霊の声のように頭に直接響いてくる。



それにアリシア!? ってあの…悪霊の記憶にいた…



アリスの前に大きな…とてつもなく

デカイ!!!フェンリルを飲み込むほどの火球が発生し放つ。



火球はフェンリルを飲み込み爆発した…



ガッシャーーーーーーーン




爆風が街にまで届き、家屋の屋根が剥がれ、飛ばされる人々。


吹き飛ばされる俺とソフィアをキャッチし庇い護ってくれるマックス



『なかなか刺激的な挨拶じゃないかアリシア……私には無駄だがな、さあ来るんだ』


直撃しているのに、何もなかったかのように浮いているフェンリル…


化け物だ…



アリスの周りに黒い捻じれが発生し鳥になる。



強力な導力なのか、鳥は引き千切れるように吹き飛び消える。



無理だ……直感的に分かる…あのアリスでも、あの化け物には勝てない……



「マックスあそこまで跳べるか…」


「流石に無理じゃ、それに行ったところで何もできん…」



もう剣や体術で、どうこうできるレベルじゃない…



フェンリルが街に向けて、口を開き何か…白い光が…あれは!!悪霊がやった……


死ぬ……消える…


アリスが街に光の壁を創り出す。



ドンッ!!!



光の壁に放たれるフェンリルの光の玉



上空の壁が、太陽の光なんて比べ物にならない強さでアーク放電のような光り方をする。




眼が眩む、見えない!!!




とっさに眼を庇うが視力が回復するのに1分はかかった。



見えてくると…………血だらけのアリスが…5mほど上に浮いていた


先程より小さな壁で護ってくれている……



フェンリルの周りに黒い鳥が大量に舞っている…



見渡すと黒い矢のような物が建物や地面、人に刺さり……その人の中にマックスが………


「マックス!!マックス!!!…」


駆け寄る……


「主……あの童子は…無事か……」


血が……血が… 両脚が…千切れて…

……



ソフィアはマックスの横でガタガタと震えている。外傷は無いが正気を保てていない、目線が定まってない。




『代わってくれ……』





『…………駄目だ……剣を構えろ』


『なんでだよ!!!あれだけ俺の体を欲しがったろ!!!やるから!あいつを何とかしてくれ!!おまえなら!!できるだろ

!!』



『必要なことだ、推測だったが、あれを見て確信した………あれは…おまえと逢った時に言った神だ』



『神……?』


『恐らく、俺の力は通じない。剣を構えろ』


鞘から勝利の剣を抜く


『どうするんだよ、操って飛ばすのか…』


『おまえがやるんだ自分で』



どうにも出来ねーーーよ!!!



アリス……アリス!!


血に塗れたアリスが尚も立ち向かおうと構える。





「駄目だ!!アリス!逃げろーーー!!!逃げてくれーーーーーーーーーーーーー!!!!」






力の限り叫ぶ



アリスはこちらを見るが、構わずにフェンリルに飛んでいく……



アリス……言うこと…聞いてくれ…


頼むから………



泣けてくるよ……何が英雄だよ……何で俺は弱いんだよ……



ドシャ……



鳥と戦うアリスが…フェンリルの一振りでアッサリと地面に落とされた…


必死に藻掻くようにアリスに向かって走り、抱き上げる。




紋章の光が無い、腹から大量の出血があり意識がない……息はあるが、痩せ細って今にも止まりそう…



『やりすぎてしまったか…まあ生きているなら何とでもなる…来てもらおうかアリシア』



大量の鳥の群れが街に接近してくる……

100…いやそんな桁じゃない…


周囲の空間が歪み、獣のミラージュが…



俺は何にも出来ないのか……なんで俺は…弱いんだ!!!!



誰かに何とかしてもらうばかり…


なんて…無力……



アリスの顔を見る、…消えてしまうのか…アリスが…見れないのか……もう…



アリス……アリス…俺はどうなってもいい!!!アリス! 



フラッシュバックのようにアリスの顔が思考に流れてくる…


無表情だけど…少しだけ変化のある…怒ったり…貶したり…呆れたり…



笑ったり………






アリスだけは






【護りたい】







剣の宝玉が光り剣を握る右手の甲に青白い筋のような光が…


なんだ、悪霊の力か!?


光は青白い立方体になり膨らみ街を覆い尽くしていく……


これは剣が刺さっていた場所のバリア??


跳ね返される鳥の大群…


パズルのようにバラバラになっていく獣





『別のコード…』


凄まじい火炎を吐くフェンリルだが


立方体はビクともしない



『更に面倒になったな…』



そう言い残しフェンリルは黒い渦になり消えた…



助かった…?



スーッと消える剣の光と立方体



「アリス!!!アリス!!!」


腹の血が止まらない…吐血するアリス…あああ…ぁぁ


悪霊の記憶を思い出す……







『アリシア!!!アリシア!!』








『すぐに代われ』


『俺は何も…アリスも…』


『意識を俺に委ねろ!!早く…早くしろーーーー!!!』



全ての感覚を断つ…意識を悪霊に委ねる……


前のような苦しさはない…苦しいのは…俺の…



「すぐに助ける、意識は失うと思うが体は返す」



街全体を濃い緑の光が包み込む。



アリスの傷が全て閉じ血色も戻ってくる。


だんだんと俺の意識は溶けていく



最初から護ってくれよ……クソ悪霊………



意識が途切れた…………


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