第39話 ヴァルハラー
「そろそろワタシ達エインヘリアルの拠点、ヴァルハラーに着くわ」
延々と続く砂漠を飛行し、数時間は経っただろうか、途中黒い海に潜ったり、洞窟を抜けたり…
何処に居るのか、さっぱりわからない。
「見えてきたよ、あれが僕達の拠点がある場所さ」
あれは……胴体から真二つに倒壊した石像…自由の女神か!!
「あれは自由の女神だろ!ニューヨークに拠点があるのか?」
「かつては世界を照らす自由なんて言われた遺跡ね、アメリカが崩壊してから、ここはグラズヘイムと言われてるわ」
ニューヨークだった街、グラズヘイムに接近すると
「なんだよ…これ……」
俺が映画で観るようなニューヨークじゃなく、近未来の高層ビルや高速道路のような建造物が見るも無惨に廃墟と化していた。
「ここも昔は主要都市だったのよ、今は気温マイナス20℃の死の街になっちゃったけど」
車体の空調設備のおかげか、病院服のような白い薄手の服でも寒さは感じない。
「こんな廃墟を根城にしてるのか…」
「いや〜ね〜ここの地下よ表層は長時間居たら放射能汚染されているから死んじゃうわよ」
「帰還するよ」
車体が自由の女神に向かい突っ込んでいく!!
「ちょっ!!待て待て!ぶつかる!!事故る!!」
衝突する!と…思ったが何の衝撃も無く自由の女神をすり抜け暗い空間に入った。
『識別No4588966確認しました、おかえりなさいませマックス・ガントレット様』
なんだ!車体の動きが止まりエレベーターで降るような浮遊感…
眩しい!!急に真夏の太陽のような光が差し込む。
「着いたわよ!ここがワタシ達エインヘリアルの拠点ヴァルハラーよ♡」
浮遊する車体から見えるのは…グラズヘイムの街より小さい…某ネズミの国くらいの規模の街。
倒壊したビルなんかがあるものの、街を歩く人々が見える
。
「ここが僕達エインヘリアルが拠点を置くヴァルハラー人口約5000人の小さな街さ」
「太陽がある!ここは地下なのか?それに…この人達もエインヘリアルのメンバー?」
「人工照射体よ、ヴァルハラー…元は核戦争のシェルターとして使われたのよ、エインヘリアルのメンバーは200人弱あとは地球保護を望む普通の住人よ」
車体が一番大きく目立つビルの屋上に向かい着陸する。
プシュー…
車体のドアが開き屋上には迷彩服を着て武装した兵士のような人達が敬礼して俺達を迎え入れた。
「神藤貴也様!ご無事で何よりです!」
「マックス様!キース様!お疲れ様でした!」
「それが、大変な事になっちゃたのよ〜、エドワードとお父様を呼んで頂戴!緊急会議を開くわ!」
…………………………
ヴァルハラー会議室
「ホクサイ・ガントレットだ…覚えておらぬのだな?」
片目に眼帯をかけた、やはりマックスと同じムキムキの肉体を誇る老人…これがマックスの親父…
「そう!ワタシのお父様よ♡シブいでしょ♡娘のワタシから見てもイケてると思うわ♡」
「ワシはお前を娘と思った事は無い!」
「あらやだ!酷いわね!」
「はぁぁぁ〜…………何故、こんなオカマを主導者にした!神藤貴也!!」
俺に聞くな!!
「それにしても遅いね、エドワードは…」
「キース様……お父様は…立ち直られたのですか……」
ソフィアはPsyナビゲーターだろ?お父様って…
バンッ!!
乱暴にドアが開かれ…そこには…
エドワード王!!
何か…やさぐれてるような…
「なんだよ……そりゃ……」
ズカズカと俺のほうに早足に歩き…
殴られた!
ドカッ!!
椅子から転げ落ち、遅れてコメカミに痛みが走る。
「なっ!!なにすんだよ!!」
間髪入れずに馬乗りになり胸ぐらを掴まれる。
酒くさっ!!!
「おまえ…分かってやってんのか?」
「なんだよ!!てめー!」
すかさず腕を掴み頭突きを食らわし、崩したところで首に手を回し
背後に回り込んで腕を捻り拘束する。
「凄いわね!近接戦闘技術も貴也のままなのね!」
「ぐっ……いてーな!離せよ!」
メチャクチャ痛い!なんで、いきなり殴られたんだ!?
「私のせいですわ…」
ソフィア?なんで?
「お互いに許してあげて欲しいね…僕が説明するからさ」
……………………
資源戦争……人々は残された資源や食料を奪い合い殺し合った…
その犠牲者が、技師エドワード・マールの娘…
ソフィア・マール
破壊者のアーキタイプのみの心を注ぎ込まれたホムンクルス…殺人兵器により殺されたらしい…
「私の姿を見て…お父様は…無神経でしたわ」
ホログラムに映るソフィアの兎耳が消えてしまう。
「神藤貴也のPsyには特殊な改造が施されていてね、技師エドワードは娘の残留思念をナビゲーターとして貴也に託したのさ」
「残留思念?本人のコピーなのか?」
「人格投影(ペルソナリティープロジェクション)、僕とエドワードで開発したPsyを通した本人のバックアップさ、本人じゃない」
「心変わりや成長もしない、君の世界で言うAI技術の発展型みたいなものだよ」
「悪かったよ…おまえは貴也じゃなくて何も知らなかったんだな」
席に着き、そっぽを向いているがエドワードは謝罪する。
殴られたのは腹立つが……事情も事情だ。
「いや…いいよ、それより俺はエデンに干渉する、フェンリル…アカシック・レコードを何とかしてエデンに帰りたいんだ」
「アカシック・レコードを何とかしたいのは山々なんだけど、エデンを完全に具現化してインドラネットから帰るには、管理権限を奪う必要があるわ」
「インドラネット?インターネットじゃなくて?」
「ユングの提唱した、顕在意識、潜在意識の更に深い意識レベルに人類共通で繋がる集合的無意識というものがあってね」
「神藤貴也は、古くから伝わる理論を証明実用化してPsyを開発、アカシック・レコードにも応用されているよ」
「古くはメソポタミアやトルコなどでも信仰されていた神、インドラの網から名をつけるなんて神話歴史マニアの貴也らしいよ」
なんか、悪霊もそれっぽい事言っていた気もするが…
「恐らく奴等アースガルズもアカシック・レコードを完全に掌握しておらぬな」
黙っていたホクサイが口を開く。
「元々はアリシアが管理権限を持っていたからね、タカヤ・シンドーの中にあるアリシアの精神体が無いとエデンに生身で渡るのは不可能だよ」
つまり俺はアースガルズに狙われるってことか……
「タカヤ・シンドー!エインヘリアルに加わらんか?ワシが見た限り、戦闘技術も神藤貴也のままだ、それにアカシック・レコードを完全にコントロールするには、おまえの中にあるアリシアを呼び出す必要がある」
「アリシアを呼び出す?どうやって?」
「それについては僕に考えがあるよ勿論、加入を強制するつもりはない君は関係ないのだから」
「いや!俺もエインヘリアルに入るよ、この世界を知らなさすぎるし一人で何とかできるもんじゃない、目的は同じみたいだし」
「だけど…アカシック・レコードをコントロールしたら地球は助かるのか?」
「いえ…一度現実で起こったことは変えられないわ、もう手遅れかもしれないけど、Psyを完全に停止させて少しずつ環境が回復するのを待つしかないわ」
「食い散らかすだけ食い散らかして捨てるなんて…僕達、地球人類には最後まで地球と向き合う義務があるよ」
最後まで…地球の為に戦う…これがエインヘリアルの思想なのか…
「決まりだな、タカヤ・シンドーをエインヘリアルの正式隊員にするぞ、異論はあるまいマックス」
「ワタシは願ったりよ♡貴也とは違うけど可愛いとこあるじゃない♡」
全身に悪寒が走り抜ける……
「まあ…とりあえずは貴也の部屋で休んでいて欲しいよ、その格好も何とかしないとね、僕とエドワードはタカヤの中にあるアリシアを奪還する手筈を進めるよ」
…………………
「ここが神藤貴也様の部屋ですわ」
ソフィアに案内されエインヘリアルの拠点ビルにある、悪霊の部屋に来ていた。
「なんだ…この本の量は…」
近未来的な部屋に、何処かミスマッチな本棚に囲まれ大量の本がギッシリと詰まっている。
「これは、歴史書?」
古今東西の戦争やら経済やら難しいタイトルが並ぶ…俺の時代の旅行雑誌なんかも並んでいる。
「本人いわく趣味らしいですわ、最近の物は紙ではなく私のライブラリに保存されていますわ」
「隣の部屋に寝室がありますわ、たしか合成繊維のストックがありますので、服を作りましょう」
あのドアか…
ドアを開けベッドに机と収納らしき棚のあるシンプルな寝室に入る。
その机の上にオルゴールらしき小箱があり開けてみると
♪〜〜♪〜〜♪
「アリス!……いや…アリシアか?」
メロディーと共に金髪のアリシアが笑顔で座る小さなホログラムが浮かび上がる。
「アリシア様……貴也様に寄り添い私達Psyを制御する為、尽力されたのですが…残念ながら…」
「そういえば、何故アリシアは亡くなったんだ?」
「あまり短く伝えられる内容ではないので、神藤貴也様の記憶を伝える事はできますが……その…」
向こうのソフィアみたいな事ができるのか……
「何かマズいのか?」
「プライベートな事ですし…悲しいので……」
「いや、俺も悪霊の事知らないし全てを知って自分で判断したいんだ、内容によってはアカシック・レコードを破壊するか、コントロールするか見極めたい」
「わかりました…しばらく意識を失うので、ベッドに寝ていてください」
ベッドに横になると
『スリープモード起動、おやすみなさいませ』
どこからか音声が聞こえ、ベッドがカプセルのように閉じられる。
息が楽になり、微かに自然音らしきものが聞こえる。
「あなたは神藤貴也様じゃない…どうか……」
暗くなり眠くなる……俺の意識は………闇の中に溶けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます