第40話 神藤貴也 1




ギフテッド・チャイルド



遺伝子編集(ゲノムエディット)によって造られた人間……



何かに特化した才能を生まれながらに付与された、親の居ない生命。



「貴也!!優真!!お前達また!」


僕達の親代わり、神藤悟(しんどうさとる)が呆れたような表情で叫ぶ。


「なんですか?ダディー」


「流石にやりすぎとは思うよ…兄さん」



父の研究室にある、培養生命体を次世代の進化過程まで進めていたところだ。



二卵性双生児の弟、優真も興味津々で見ていたのに僕だけが悪いみたいだ。



「それは…今度俺が学会で発表する研究だったんだ!!お前が進めてどうする!!!!」


「そこに、興味がある事があるなら全力で取り組めと言われたのはダディー、あなたですよ」



「俺の研究をオモチャにするな!まったく!独身、彼女居ない歴=年齢の俺がなんで2児の父親に…」


「国が決めた方針なのですから、でも僕はあなたの元に来て良かったと思ってますよ」


ギフテッド・チャイルド、その特異性から普通の人達に育てられたり

適切な教育を受けられない場合迫害され才能を潰され逆に社会的反乱分子になってしまう。


研究施設で胎児の頃から、プログラムにより適切な親元に選別され。


親になる人間に拒否権など無いが、教育費用は国から補填される。


ギフテッド・ファーザー

ギフテッド・マザー


に認められた場合、それは名誉な事らしく神藤悟も僕達を引き取った時に大学助教授から教授に出世したらしい。



「なぜお前は、そんな反論ばかりする!!しかも正論だから質が悪い!!」


「問題を出せば優真は即正解を答えるのに!おまえは何故?何故?と論点がどんどん、すり替わる!素直さが足りない!」



「その答えが当たり前の物であると考えるのが嫌だからですね」



解っている空気を読めということだ、心理学を駆使し集団心理を掌握し

相手に合わせる、相手を喜ばせると結果得することが多いと父の研究仲間で実証済みだ。



だが父には、打算を見破られるし議論するに値するので素の自分で居られるので楽だ。


「はぁぁ〜どうして、こうなった…明日からアカデミーに通うのに心配しかない…そう…これは夢…きっと起きたら彼女が先に起きていてコーヒーとか入れてくれて…ぶつぶつ…」


神藤悟、決して馬鹿ではないのに馬鹿な言動が多く何処か憎めない愛嬌を持っている。


打算ではなく天然のものだろう。


「兄さんは、心を開いてない相手には猫を被るから大丈夫だよ父さん」


ギフテッド・アカデミー


僕らのような、ギフテッドとして生まれた人間は12歳になる頃に通う教育機関。



どんな子供が来るのだろう、興味がある。優真のような真っ直ぐな優等生が居るのか。


僕のように捻くれた知的探究心旺盛な発達障害が居るのか。



……………………



「で…あるからして、君たちギフテッドには人類の希望として…」


学長の講演は退屈なものだった。つまり人類の為、国の為に僕達の能力を悪用するな、反乱するな、という、つまらない道徳だった。


もっと要点だけ言ってくれたら時間も節約できるのに…



「あなた…退屈そうね」


隣の席に座る金髪の女の子に話しかけられた。


「そんな事はないよ、学長の講説は立派で為になるよ」


満面の笑みで、優等生の仮面(ペルソナ)を作りキャラになりきる。


「いえ…あなたの眼は、どこか遠くを見ていたから…勘違いならごめんなさい」


見抜かれた!?いや、そんなはずない。動作や間の取り方は完璧だったはず……


「君は学長の演説をどう解釈する

の?」


「退屈ね…もっと要点だけ言ってくれたら、こっちも自発的に学ぶわよ」



あ……同じ…




「私はアリシア・ヴォールク、これから、あなたの世話になる事もあると思うし宜しくね」


「ヴォールクって…あのリチャード・ヴォールク教授の…」


反対の席に座る優真が口を挟む、リチャード・ヴォールク…たしか気候工学の第一人者だ。


「へえ…凄いね、あのリチャード・ヴォールク教授がファーザーなんだ、宜しく僕は神藤貴也、この隣に居るのは神藤優真、二卵性の弟だ」


「あなた達も遺伝子工学の権威、神藤悟がファーザーなの!?私、神藤悟の著書は片っ端からダウンロードしたわ」


アカデミーはそれなりに教養のある人間が来るんだろう、彼女もその一人ってわけだ。



…………………………



「彼女…アリシアっていうのか」


演説が終わり、今日の所は講義も無く帰路についていた。

帰路の途中で優真が呟く。


「どうした?やっぱりリチャード・ヴォールクの娘だと興味があるのか?気候工学はあまり興味なさそうだったけど」



「兄さんは情緒が無さすぎるよ、可愛い子だと思わないの?」



可愛い?抜け目ないとは感じたが…



「つまり、惚れたのか?」


「なんで、そうなるのさ!気になっただけだよ」


僕達はまだ11歳だ、しかも今まで女の子との接点も無いのだから優真が意識したところで幼き頃の思い出にしかならないだろう。


「僕は彼女を警戒しているよ、ダディーと同じで人を見抜く素養があるのかもしれない」



「兄さんらしいよ…」



……………………………


1年後 アカデミー講堂



「相変わらず、紙の本なんて読んで、そんな古文書読んでるの貴也くらいのものよ」


「兄さんは考古学の専攻じゃないんだけどね」


やはりアリシアには僕の仮面なんて通じなかった…


ガンガン突っ込んでこられたので彼女の前では素の自分でいることにした。


「うるさいな…趣味だよ、賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶって言うだろ」


「昔の人間は馬鹿じゃない古きを知り今に活かす着想が現在の科学技術の発展に繋がったんだ」


いつの間にか僕達は三人で居る事が多くなった。


他のギフテッド達も優秀なのだけれど、アリシアと優真は抜きん出たものがあった。


「貴也!今度はどうだい!僕の美しいコードに、もう隙はないはずだよ」


もう一人ややこしいのが居た。


キース・ローウェン


情報工学、薬学を専攻する変人

ギフテッドは何かにズバ抜けた才能を発揮するが、どこか一般人より変わったところがある。


僕は対外的に対処する術を使うが彼には、その気がないらしい…


「まだ、僕が指摘したのを根に持ってるのか?」


「いや…感謝しているよ!僕の美しい才能は君との出会いで昇華されたのだから……やはり天才は天才になる為の運命を背負っているんだよ」


ここまで自己肯定感が高いと逆に羨ましく感じる。


確かに彼の情報工学技術は素晴らしく論文もほぼ記憶した。



「今度の論文は僕の量子力学、物理学だけじゃなく、君達の論文も参考にして発表しようと思うんだ」


「どんな理論なの?」


「人間の精神を外的に活かすように………」



……………………………



「Psy理論?まるでSFの超能力だね、兄さん」



「とっても興味深いけど、不可能よ机上の空論だわ」



「なんとでも言えよ、僕は君のようにインプットだけじゃなく何かを成し遂げたいんだ!」



アリシアは吸収力が高くスポンジのように僕達の理論を習得していくが、自分の中で咀嚼し新たな発想をするのが苦手らしい


論文を提出していないのは、四人の中で彼女だけだった。


「痛いとこ突くわね……私は大器晩成型なのよ!そのうち、あなたを越える研究者になってみせるんだから!」


見た目の上品さとは裏腹に彼女は凄く負けず嫌いで、いつの間にか僕をライバルだと認識してしまったらしい。


「とんでもない理論だけれど、情報工学を専攻する僕には面白い試みだと思うよ」


まあ、理論は理論であって、僕達には研究する資金もラボもない無力な学生だから、成し遂げるのは先の話だけれど




………………………




数ヶ月後、僕は学長室に呼び出された。


「失礼します」


指定された時間に学長室に入ると、そこには学長以外の見慣れない男が二人ソファーに座っていた。


「君がハーバード大学教授、神藤悟のギフテッド…神藤貴也君か」


長髪の見慣れない男の一人が僕を見て呟く、父を知っているのか?


「はじめまして、神藤貴也と申します、このアカデミーで将来人類の為にご指導を受けてます」


爽やかな作り笑いと共に自己紹介をする。


「これは失礼、私は世界政府アースガルズの研究機関で助手を務めるエドガー・マクスウェルという者だ」



アースガルズ?たしかアメリカやロシアが無くなった後に出来た政府機関と聞いたことがある。


フリーメイソン、ディープステートに継ぎ第三の世界政府等と噂され存在自体が噂の域を出ていない…本当にあったのか!


「私はガンド社というバイオカンパニーを経営するウィリアム・シュタイナー、まだまだ小さな会社だけどね」


もう一人の恰幅の良い中年男性が自己紹介する。


ガンド社?聞いたことがない。


「実はこのアカデミーは世界政府の機関でね…神藤貴也君!君は政府から認められたギフテッドということだよ」


なんだって!?アメリカ合衆国が崩壊してウラヌス共和国になった…この国の機関じゃないのか!!



「単刀直入に言うよ、アースガルズは君のPsy理論を実用化したいんだ!ラボも資金も、ガンド社がスポンサーになる」


「次世代の通信技術どころか!これがあれば家事から労働生産性まで!これまでの常識が覆るほどの発明になる!」


ウィリアムが興奮気味に語りだす。


「アカデミーとしては人類に類まれなる貢献を果たしたなら、君の父と同じハーバード教授として迎え入れ博士号を与えたいと考えている」


なんてことだ……こんなチャンスが巡ってくるなんて…


「優真のホムンクルス理論も優れた発明だと思いますが」


「神藤優真君…彼も既に神藤悟を越えた論文を発表している、勿論彼にも活躍を期待しているよ、だが先ずは君の力を見せて貰いたい」


僕が研究開発に成功するか見極めたいということか…


「わかりました…僕が成功したなら優真にもチャンスを与えてくれると約束できるなら、一年で実用化まで開発します」


「一年?そんな短期間で大見得を切って大丈夫なのかい?」


疑惑の眼を向けるエドガーだが自信満々に答える。


「大丈夫ですよ!ほぼ実用化までのプランは考えていて、頭の中では完成しています。それより優真の件は」


「君が成功したら、神藤優真君も優遇を約束するよ」


「まったく!今期のギフテッドは豊作だよ!はっはっは」



………………………




「ハーバード大学教授で博士号だと!?」


自宅で神藤悟と優真に事の顛末を説明する。


「凄い…確かに画期的な論文だったけど…あの噂のアースガルズが出てくるなんて…」


「僕が成功したら、次は優真の番だから、その間に完成度を上げておくんだ」



「おいおい……俺がどれだけ苦労して…女の子に脇目も振らず研究に明け暮れたと思ってるんだ…」


嫉妬の感情どころか、嬉しさを隠せない表情の神藤悟。



「だけどな…大きな成果や力には大きな責任が伴う事だけは覚えておけよ!くれぐれも実績でモテるからって間違いを起こさないように!」



「わかってますよダディー」



「未だにダディーとか子供みたいな呼び方するのに……実感が湧かない」



「でも…兄さんはアカデミーを去るんでしょ?アリシアにもキースにも逢えなくなる…」


「大丈夫だろ、アリシアは優秀だ、そのうち学者として、逢うこともあるさ」


「そーいう意味じゃないんだけど…兄さんは鈍いから…」


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