第38話 創造神



ヘルヘイム収容所


神藤 貴也が拘束され、監禁された施設。



『気分はどうだねタカヤ・シンドー』


頭に直接響いてくる声。


目を閉じると瞳を閉じた暗い世界に本物としか思えないブライト博士の姿が映し出される。


瞬時に暗い世界はリゾート地のような夕暮れの海とオシャレなテラスが展開される。



『便利なもんだなPsyってのは、俺の世界のスマホなんて比較にならないよ、通話ってより会って話してるのと変わらねーな』



『君が育った21世紀の技術だとメタバースというものがあったじゃないか似たような物だよ』



エデンのサイと違い導力も発火も瞬身も使えない。

サイコキネシスみたいな物理干渉じゃなく、ESPに近い超感覚



生体端末システムPsy



体内のナノマシンが脳の構造を変え、様々な機械が思っただけで作動する。

目を閉じると思った世界や映像も本物としか思えないくらい忠実に再現される。



『人工精神体ではPsyは作動しないのだけれどね、その腕の紋章は人間にしか浮かび上がらない君が初めてのモーフィング計画成功事例だよ』


『牢屋にでも閉じ込めねーのかよ?死刑囚で、ここは収容所なんだろ?強制労働でもやらされるかと思ってたよ』


快適なベッドに近未来のマンションのような一室

ドームに囲まれた収容所は緑に溢れ自然と都市が調和する美しい環境


『人間が労働をするなど前時代的な風習だよ、既にPsyで労働革命が起きていて働く必要なんてない』


ニートで当たり前の世界か、羨ましい時代だよ。


『それに逃走の心配などしていないよ、したところでPsyで干渉し行動不能にできるのだから』


『ずいぶん、囚人の扱いが変わったんだな』


『神藤貴也が開発したPsyで社会構造が激変したのだよ』


楽園のような世界じゃないか、ラーメン食いたいと思っただけで


謎の機械から俺の好きな昇竜軒のラーメンが完璧に再現されて出てくるし、仮想世界のBARで呑めば本当に酔った気分になる。


なぜ悪霊はPsyを壊せなんて言ったんだ?



『ブライト様、コーヒーをお持ちしましたニャ♪』


猫の特徴をもった人間……少女が現れニコニコとブライトにコーヒーを手渡す…あれは獣族!?人猫族か?


『クッキングマシンのコーヒーは気分的に味気なくてね………む!』



ガッ!!!


顔面を殴りつけ倒れる少女にコーヒーカップを投げつけるブライト


『ヌルい!作り直せ!』


『なにやってんだ!!てめー!』


コーヒーに塗れ口と鼻から血をボトボトと垂らしながら立ち上がり明るく答える少女。


『ごめんなさいニャ♪てへへ♪すぐお持ちしますニャ♪』


痛々しいのにニコニコと笑顔を振りまく姿が異様だ…


『ホムンクルスだよ、人間じゃない叩いて教えるのが最も効率がいい』


『だからって!!おまえ!』


『いや、すまない…21世紀の感性では気分がよくなかったな、だがあれは生物じゃないのだよ』



悪霊の言っていた、人工精神体……与えられた感情以外を持たない造られた心……


まともじゃない……そして俺も…


『おまえを見てると気分が悪い…出てくる…』


『くれぐれも脱走など考えないことだ、ドームの外は70℃のサウナだからな、何時間も生存出来ない』





…………………………



【検索 神藤貴也】



緑が溢れる公園らしき場所の噴水を眺めながらPsyで悪霊の事を調べる。


『神藤貴也 元ハーバード大学院教授 Psy開発者 開発後18歳で失踪 反政府組織エインヘリアルを結成 テロリスト 現在ヘルヘイム収容所に拘束されている』



間接的な情報がヘッドラインのように頭に流れてくる。


反政府組織?あいつ過激派ってことか、それで捕まって死刑囚になり実験体にされたのか…



ブライト達の狙いは俺の中にあるアリシアの精神だろ?なのに何故、あんなに…やり遂げたように余裕ぶってる?



ドッ……ゴォォォ!!!




なんだ?爆発!!警報が鳴り響き500mほど先のドームの壁が爆破され装甲車のような低空飛行する物体が熱風と共に入り込み


猛スピードで俺の元に迫ってくる!



プシュー


ドアが開くとそこには……



「貴也!早く乗って!」



「マックス!」


虎の特徴は無いが、迷彩服を着たマックスが装甲車から出てくる。



「あらやだ♡なんか凛々しさが無くなって可愛くなったわね♡貴也」


これが…マックスか!あの硬派なマックスがムキムキのオネエに!



「早くしてくれないかい?警備ドローンが来るよ」


キース!


同じく迷彩服を着て……獣族の特徴はないがキースにしか見えなかった!


マックスに掴まれ装甲車に引きずりこまれる!



「行くよ」



ドアが閉じ、飛び込んで来た穴から脱出する。



「もう、心配したのよ♡囚われて一週間も助けにこれなくて、ごめんなさいね〜♡」



「逃走ルートの確保とヘルヘイムの警備システムをハッキングするのに時間がかかってね、天才の僕としたことが」


一週間?俺は半年近くエデンに居たのに?



「様子が変ね?」


「俺は悪霊…神藤貴也じゃない」


「なに?もしかして手遅れだったのかい?」



「じゃあ、噂のモーフィング計画は…」


「貴也で成功しちゃったみたいだね、僕がもう少し早く……いや、とりあえずこれを」


キースは緑色の液体が入った注射器のような物を投げてマックスが受け取る。



「なんだよ!これ!?」


「アカシック・レコードの干渉をジャミングする薬よ♡」


プシッ 


問答無用で首に薬を打たれる。


「うわ!」


何か頭に雑音が……


『ザッ……ザッ…システム再起動、おかえりなさいませ、貴也様』



ソフィアの声!?



『そう、私はあなたのPsyナビゲーター、ソフィア、貴也様…おかしいですわね…少し記憶をスキャンしますわ』


少し間を置いてホログラムのような映像が写し出されソフィアが現れる。


「この姿のほうが馴染みがありますわね♪」


兎耳の、いつものソフィアだ!!


「あら♡可愛らしいホムンクルスね」


「ホムンクルス?獣族の事か?それに、お前達マックスとキースだよな?」


「精神が入れ替わったのね…あなたは誰なの?それに人工精神体にしてはPsyも反応してるし」


「こっちも聞きたいことだらけだよ、俺は21世紀の日本から神藤貴也の精神世界エデンに送り込まれて……」



事の顛末をマックスとキースに話す。



…………………


「そう…貴也はもう…それにアリシアがあなたの中に」


空飛ぶ装甲車の窓から外を見ると果てしない砂漠が広がっている。


「ここは、本当に地球なのか?日本なのか?」


「日本は100年前に国家破綻したわね、もうアメリカや中国を含め、かつての覇権国家も存在しないわ」


なんだって!?


「ここは旧西暦で言う2180年の地球だよ、僕達は地球を救済する為に神藤貴也が結成した反Psy組織エインヘリアルのメンバーだよ」


反政府組織エインヘリアル…検索ではテロ組織と出てきたあの…


「もう地球の人口も3億人まで減っちゃったわ、ほんの10年前まで150億人まで繁栄したっていうのに」



3億?俺の居た地球は80億近かった

気が…


「あなたが…いえ…神藤貴也が開発したPsy生体端末システムで労働から解放、貧困や格差も解消され人類は夢のような生活を送ることができたのよ」


いい事じゃないか、なんでこんな…


「Psyは人類の欲望を増長させ過度な効率化と消費は、既に枯渇しかかっていた星のエネルギーを使い果たしちゃったのよ」



「結果的に、各地で気温の上昇や下降、地震、噴火、津波、干ばつ、ハリケーン等の異常気象が頻発、あっと言う間に滅亡の危機になったのさ」


「人類は地球の神様を気取っていたようだけど、ちょっと地球が身震いするだけで、もう生物が住むことすら出来ない環境になっちゃったのよ」



これが…悪霊が後悔して…Psyを壊せと言っていた理由。



「貴也は地球の異常を察知して、Psyの製造を担ったガンド社と政府にPsy廃止を掛け合ったんだけど…」



「無理だろうな…人間一度生活レベルを上げると下げる事はできない」



「その後、貴也はエインヘリアルを結成し幼馴染のアリシア・ヴォールク博士と非公式にPsyコントロール装置と称してアカシック・レコードを開発」



「アカシック・レコード……とんでもない代物だよ、天才の僕ですら理解できない理論だよ」



「アカシック・レコード、確か地球の守護者として開発されたって聞いた、なんで…」



「世界政府アースガルズに管理権限を一部奪われたのよ、神藤優真、貴也の弟によって今は管理されているわ」



悪霊の弟!!ユーマ・シンドーはそのシャドウってことか!



「人工精神体やホムンクルスもアカシック・レコードの技術を応用して神藤優真が開発したのよ」



「結局は権力者による残された資源の奪い合いで、人類は滅亡寸前、一部は宇宙コロニーに逃げたけど、消息は不明」



おいおい…なんだよ、この悲惨すぎる未来は!


「とりあえず、エインヘリアルの拠点に向かうわ、もうメンバーも少なくて手遅れかもしれないけど、私達はアカシック・レコードの破壊とPsyの無効化が目的よ」



ガン!!


なんだ!突然車体が大きく揺れる!



「追手の攻撃ドローンね、タカヤこれを…」


マックスから拳銃とマガジンを手渡される。


「デザートイーグル.50AE、旧式の骨董品だけどアカシック・レコードの影響を受けないわ、自動照準(オートエイム)は無いから自力で頑張ってね♡」


おいおい!!銃なんて撃ったことねーよ!俺にどうしろと!



「迎撃モード起動!天才の僕の腕を見せてあげるよ!ハーッハッハッハ!」


窓の外に飛来するドローンが見える!!キースが何か操り閃光がドローンを狙い乱打されるが……


「もう…あなた、いつも口だけね」


全て躱され、ドローンがミサイルを発射する。


ズガガガ!!ガガガ!!



窓から身を乗り出しマシンガンでミサイルを迎撃するマックス。



激しい爆発が起き車体が傾く!


「なにやってるの!タカヤ!応戦して!」



いやいや!出来ねーよ!



「大丈夫ですわ、タカヤ様」


何が大丈夫だよ、こうなりゃヤケだ!


銃の安全装置を外し流れるように窓から身を乗り出し構え…


ドン!ドン!ドン!



命中しドローンを撃墜していく。



なんだ!?最初から使い方を知ってるような!


「ハンドガンであの距離から…腕は貴也のままみたいね!体が覚えてるってことかしら」



「タカヤ様、あなたの精神体と記憶をスキャンしましたがアースガルズの狙いはアリシア様の精神体と、あなたが居た世界…エデンへの移住だと推測されますわ」



はぁ?エデンは悪霊の精神世界だろ?


「なるほどね、モーフィング計画の真の狙いはアカシック・レコードによる精神世界の具現化と支配みたいだね」



「キース!どういうことだ!!エデンは夢みたいな仮想世界じゃないのか!?」



「アカシック・レコードは量子力学も応用してるからね、確定しない世界を観測した時点で存在したことに出来るのさ」


意味が解らない、なんだよそれ



「21世紀でもコペンハーゲン解釈やシュレディンガーの猫などは討論されていたんじゃないのかい?」


「知らねーよ!俺は学者じゃないんだよ」



「簡単に言うと…そうだねエヴェレット他世界解釈、波動関数をアカシック・レコードがコントロールして、If…もしもの世界パラレルワールドを存在しているものと観測する…」



簡単じゃねーよ!!



「つまり、あなたが居た世界は惑星エデンとして、この宇宙に存在していて、アースガルズは地球を捨て移住するのが目的ってことよ」



あの世界!!アリスは幻じゃなく実在するってことか!?



「神藤貴也とアリシア・ヴォールクは地球の守護者というより神を創り出したってことね」











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