第37話 絆



「起きたの?」



アリス!!横にアリスも寝ていた。

薄手の寝巻きでドキッとする。



「あれから…どれくらい…」


「5時間ほどね、また数日起きないかと心配したわ」


そっか……


アリスを抱きしめてみる。


「ちょっと…なに」


温かい、アリスの人肌を感じる…髪の匂いも、胸にかかる吐息も全て本物にしか思えない。



言えない…みんなに……言えるわけないじゃないか…造り物なんて…



「タカヤ……震えて…なにかあったの?」


「なんでもないよ…」



アリスを離し、布団から出てベッドに腰掛ける。


服はどこだ?



「嘘ね、態度がおかしすぎるわ、ニオイでも何か隠してるのがバレバレよ」



隠し通すのも無理があるか…



「なあ、アリス……フェンリルの事どうでもよくないか?」


「えっ…」


「あれは、悪霊の居た世界まで行かないと倒すことは出来ない………別に何回フェンリルが出ても俺が護るからさ」



「神の国……もしかして……そこに行くと」


「ああ……帰ってこれないと思う」



しばらく…沈黙が続く



「まあ…ほら俺がここに居たら、フェンリルが出ても何回でも倒せるし、悪霊がくれたサイ見たろ?何処でも行けるし、なんだって…」



「タカヤのやりたいようにして欲しい」


俺の……


「私は…もう大切な人を失いたくない…側に居て欲しい、抱きしめてほしい!でも!」



「やめてくれ!!俺なんか…ただ造られた…気持ち…うっぐ…」



自分で何を言ってるのか分からなかった、何をしたいのか分からなかった。


アリスと居たい、でもそれは造られた想いで……


泣けてきた………人間ですらない俺を……アリスは……


「俺はさ……人間じゃないんだよ、カラッポの器に偽物の心…アリスが大切に想う価値なんて無い……」



ボタ ボタ



何がアリスを護るだよ……全部…どっかの誰かが都合よく操作した心だ!!


でも…それでも…アリスが幸せになるには…どうしたら…



「タカヤ…」


アリスが背後から包み込むように抱きしめてくる。


「私はあなたが、どんな運命を持っていて、どんな苦悩を抱えているのか分からない」


「私はあなたを、もっと知りたい…きっと耐えて見せる、どんなに辛くても弱音なんか吐かない」


「だから私にだけは話して、私を信じて、絶対にタカヤを好きだって気持ちが変わらない自信がある」



バフッ



起こしていた体を倒され上から覆いかぶさるアリスが見える。


子供のように拗ねたような照れたような複雑な表情を見せるアリスと口づけを交わした。



柔らかい……ちゅ…くちゅ…


求め合うようなキスを、どれほど繰り返したろう。


気がつくとベッドにアリスを押し倒すような形で抱きしめてキスをしていた。


「タカヤ……来て…」



ただ、愛おしかった…全て欲しい…アリスの全てが欲しかった。


アリスの吐息…アリスの柔らかい肌…優しいミルクのような香り。



「あ……ん……くふぅ……ん」


頬を赤らめ…目を閉じて恥じらいながらも、俺を抱きしめて包みこんでくれる…


「タカヤ………愛してる…」


少し痛がっても微笑んで俺を受け入れてくれる君が、本当に好きなんだ。


この感触も想いも…偽物なんかじゃない!!絶対に違う。


俺は本当にアリスを愛しているんだ。




地球に行こう。





俺はどうなってもいい、悪霊が消滅したのに、幻の…この世界が残されたのは、何故だかわからない。


世界がいつ消えてしまっても…おかしくない…



でも悪霊が俺に…地球に行けと何か託したのは意味があるはずだ。


アリスを…マックスやソフィアの暮らす、この世界エデンを救う手が何か……



…………………………






「やっぱり神の国へ行くのね」


腕枕をしたアリスの顔を見つめていたら、唐突に聞かれた。


「ああ…話した通りフェンリルの本体になるアカシック・レコード、この世界を創った神に逢う」



「私の理解が追いつかないわ、ここが夢の世界で私の前世が恋人なんて」


無理もないか…俺だって大混乱している。


「帰ってこれない…なんて…俺らしくもなかったな」


「絶対に帰ってくるよアリス、ここは俺の居た造られた世界より好きだしな」



何を弱気になってるんだ俺は!偽物!おおいに結構!!!


偽物が何もできない無価値な奴だと誰が決めた!


俺を造った奴や利用しようとした奴、チビらせてやるよ!フハハハ!!!!


「悪い顔してるわね、タカヤらしくなった、でもしばらく逢えないのよね」



「よし!もう一回思い出を!!」



「こっちも初めてなのに、少しは気を使ってよね」


少しむくれ面で、軽くキスされる。


可愛い………



…………………………………



翌朝


どうやらアーカーシャの宿泊施設だったらしい、朝飯を食いに食堂まで向かうが………



マックスと、最大の敵ソフィアが先に席についていた。



マズい……奴に昨日の事を読まれたら図らずも虐待になってしまうんじゃ…


アリスと目配せし目立たない端の席でコーヒーとナンを頼む。



「タカヤ!アリス!目が覚めたか!ガーーハッハッハ何をそんな端に座っておる」


待てマックス!!こっち来るな!そいつを連れてくるな!!!



げっ!!!



ドンヨリとした空気に目の下にクマを作ったソフィア。

フラフラと力無く席に着くが、ボンヤリと虚空を見つめている。


若干やつれているようにも見える。


「先程、廊下で夢遊病のようにフラフラしておってな連れてきたのだが心ここにあらずでの」


「おはようございます…タカヤ様…お姉様…」


目の焦点が合っていない…共感能どころじゃないだろう。


頼んでいた朝飯を食いながらアリスが聞く


「どうしたの?ソフィア」


「その……アイラ様が…凄くて…」



あっ………そういや、一緒に寝るとか何とか………


「私は痛いと申し上げたのですが、アイラ様が最初は痛いものだって……そのうち気持ちよくなるって」


「ブフゥゥーーーーーー!!!!!」


思わずコーヒーを吹き出してしまう。


「ちょ!!!ゴホ!ゴホ!!アイラに何をされた!!」



顔を赤らめ明らかに動揺しているアリス



「一晩中、抱き 締め上げられて ましたわ…それは…もう乱暴に…」


「あれに慣れて気持ちよく眠れるとは思えませんわ…」



「おっはよーー♪なんやソフィア起きたら居てないから寂しかったやんか」


「ひ……」


元気いっぱいでツヤツヤした健康そうな顔で現れるアイラに脅えマックスの後ろに隠れるソフィア。


「おまえ!ソフィアに何てことしやがる!!」


「いややわ、キュートアグレッションやん兎耳モフモフしてギューってしてただけや、千切ってへんやん」


サラッと恐ろしい事を言いやがる…


「イジメって言うんだぞ、それは!」


くそ…こんな異常者に超感応の協力を求めたら次こそソフィアが、どんな酷い目にあうか…


「あの…お姉様、先程から無口なのですが、お姉様こそ何か…」



マズい!!!!



「そういやキースはどうなったんだ」


話題を変える。



「あの人狼族?英雄の治癒で無傷やけど…あれに大怪我させられた者もおるからな、監禁してるわ。あんたが居て無かったら惨事やったわ」


もう、あの霧は使えないだろうし害は無いと思うが…



「あの…アイラ様…キース様を許して貰えませんか?」



「何言ってんだよソフィアあいつが、どれだけ人を殺めたか…」



「キース様は常に望郷と幸せを望んでいました。ただ…それが間違った方向に行ってしまって…」



そら、あいつもフェンリルの被害者と言えなくもないし、結局は利用されて見捨てられて……同情はするけど


「う〜ん…あれの処遇も困ったもんやな」


「我輩の監視下に入れてくれぬか?責任は我輩が取る。せっかくタカヤが救ったのに死罪になるのはアリスも寝覚めが悪かろう」



マックス……まあマックスなら霧を使えないキースを抑えられるんだろう。


「ここは英雄の判断に任せるわ、あの魔王からアーカーシャを救ってくれたんやし」



「じゃあ…あいつはマックスに任せるよ、それと…その魔王、フェンリルの事で大事な話がある」




……………………………



アーカーシャの庭園




「それで?なぜ妾が、こんな狸の所に連れてこられたのだ?」


「言いよるな〜相変わらず!守銭奴の女狐が!」



リン・カグラを瞬身で拉致してきた。説得とか言ってる場合じゃない。


「話した通りだ、地球に行ってフェンリルを操る黒幕を叩かないと、この世界に未来はない」



この世界が意図されて造られたのは伏せておいた、アリス以外に言う勇気が出せなかった。



「それで私達、三妖種族にタカヤ様を神の国へ送れということですわね?」


「確かに、妾の一族には神の国を観る力が代々伝わっておるが」



不思議そうな顔で首を傾げるマックス


「我輩はタカヤの話を半分も理解できん、悪霊とタカヤは同じ異界から来たのか?」



「少し違う、俺の世界の未来みたいなもんだ」




「英雄、タカヤ・シンドー…まずは礼を言う…だが何故!僕を死なせなかった!」



あの狂気的な表情が落ち着き、憑き物が取れたようなキースが面倒臭いことを抜かす。



「知らねーよ、アリスとソフィアに聞けよ…俺は二人の為にやったんだ」



「アリス……ソフィア…僕の事を恨んでるんじゃないのかい?死をもってしても償えない事を……僕は…」



「いえ、私はキース様を恨んでなんかいません…あの時もキース様が居なければ私はどうなっていたか…」



「呪いの影響で認知が歪んでいたのよ…本来のあなたは、そんな人間じゃない」



3人にしておこう、それよりも



「アイラ!リン!超感応は出来るか?」


「こんな奴とやるの嫌や!」

「こちらのセリフじゃな」



コイツらも面倒臭い……


「リン!金なら帝国が出す、これでも俺は貴族でフェンリル打倒の経費だ!一筆書く」



サラサラと紙に、この世界の言語で5億マルクスの支払いを書き約束する。

これ…古代ルーン文字だ…悪霊の知識が一部理解できる。



「まあ妾は貰えるもの貰えるなら文句ない」


「ウチには何かないの?ソフィアをくれるとか」


「アホか!アーカーシャの人々を治癒したろ!これで貸し借り無しにしてやる」


「チッ!しゃーないなー」


「タカヤ様!私はいつでも大丈夫ですわ」



「よし!準備してくれ!それとアリス!」



アリスを抱きしめる…人目なんか気にしてられない。



「ちょっと!みんなが!」



「行ってくる…絶対……絶対にアリスが居る…この世界を救って帰ってくる…愛してる」




「いや〜ご馳走さまやわ」


「我が主!英雄タカヤ・シンドーよ!我輩は無事帰還する事を信じているぞ」


「タカヤ様……どうか…ご無事で」


「タカヤ……あなたなら出来る…私は待ってるから!絶対に私の元に帰ってきて!」



「そろそろやるぞ、アイラ!ソフィア聖歌は分かるな?」

「はい!」

「伝承にあるやつやろ!」



俺の周りを三妖種族が手を繋ぎ囲い込む。


「と〜りゃんせ、とーりゃんせ、ここは何処の細道じゃ…♪」


これは!俺の世界の!


上空と地面に巨大な虹色の魔法陣が浮かび上がり浮遊していく。



視界が虹色の波に侵食され、世界が歪む


「天神様の細…………」



『あなたなら大丈夫…きっと…信じてる…私の英雄…』




…………………………………





「バイタル安定!オールグリーン」


ここは…


頭がボーっとする…薬物の影響か…


「脳波!意識レベル正常!」


「Psy反応確認!!モーフィング計画成功だ!!!」


「エデン!!固定化確認!まだ不安定ですが…」



目を…開ける… 白い…近未来の病院か?ここは?



「目が覚めたかね、神藤 貴也…いや…タカヤ・シンドー君と言ったほうがいいかね」



この白い髭面……白衣を纏ったウラヌス皇帝!ブライト!


「ブライト博士!やりましたね!」


「ああ…エドガー…長かった…タカヤ・シンドー…君は人類の救世主になったのだよ」



何だって?






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