第3話 呪い
「数が多い!!応戦して!」
なんだよ!おい!どーなってる!!
シュッ…
眼で追えない速度で飛び出し黒い獣にナタを振り回し、真っ二つにするアリス
死骸は残らず雲散霧消する
慌てながらバックパックから唯一武器になりそうなプラスドライバーを出し身構える
「グルルルゥゥ」
野犬の群れか!?何十匹いるんだ
「ガァァァァーーー!!!!!」
はや!
何も出来ない……
恐い!恐い!恐い!!殺される!
ドン!!!
襲い掛かる獣が吹き飛ばされる
「何をしている!!殺せ!」
アリスの怒号が飛ぶ
脚がうまく動かない。吹き出す冷や汗、震えが止まらない
「……もういい…勝手に死ね…」
舞うように空中で身を翻しながら次々に獣を切り裂くアリス
ブチィ……
あれ?腕が…左腕が痺れる
獣が二の腕を食い千切っていた。
ボタ…ボタボタ…とめどなく流れる血…
「うわぁーーーーーー!!!血!血!腕!!腕がーーー!」
『俺と替われ』
血が!血が!死ぬ!死にたくない!!死にたくない死にたくない死にたくない!!!
『強く念じろ』
助けて!助けて!助けて助けて助けて助けて!
『意識を止めろ』
何でもいい死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい
【替わってくれ】
「ガァァァァーーー」
ドスッ
襲いくる獣にドライバーを刺す
刺している
「ふう…やっと取れたな」
あれ?俺がやってる…なんで…
「身体能力は中の下か…まあいい」
体を動かしながら奴は言う
『なんで…』
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
胸に渦巻く黒い感情
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
苦しい、悲しい、辛い、これは俺の感情じゃない。キツい正気が…
自分で自分を見下ろしている
幽体離脱?気分が悪い…あ…やば…
俺だった体に、全身に青白く光るタトゥーが浮かびあがる
怪我した腕に手を当てている
パァーーー
緑色の発光
腕が元に戻っている
「ほーう、この体になると こんな事が出来るんだな、なるほどな」
「試してみるとするか」
「ヴォォオオオ」
飛びかかる獣に掌を向ける
バキ
吹き飛びながらバラバラになり消し飛ぶ
群れに掌を向ける
馬鹿でかい火炎放射のような業火が吹き出し群れを包む
なんだ……これ…
シュッ
一瞬で上空に飛び上がって、浮いてる!?
キリキリキリ
煙?水蒸気のようなものが周囲に集まり凝固していく
ドリルのように尖り高速回転する水が大量に創り出され
地面の黒い獣やアリスに……
アリス…やめ…
ズドーーーーーーーン
水の矢が降り注ぎ群れは一瞬で殲滅され大量の黒い霧と共に消えた
アリスは!!アリスは!…遠くて見えにくいがアリスが居る。死んでない
とんでもない黒い感情に吐き気が止まらないが、ギリギリで意識を保つ
地面に降り立つ、俺だった者
「あなた…それ…どこで…」
無表情だったアリスの顔がみるみる歪んでいく
胸のタトゥーが全身に広がり青白く光る
「これじゃ消せないのか…」
冷淡に言い放つ俺だった者
「あーーーーーっはっはっはっは!!!!」
顔が怒りで歪んだかと思ったら
突然天を見上げながら笑い出すアリス
「あなた…イイ…凄くイイわ……」
あれが…アリスか…?
うっとりとした恍惚な表情
紅潮する頬
半笑いで舌なめずりする様が
エロい…?怖い…?
フッ
超速で駆け込み、引っ掻くように素手で攻撃を仕掛けるアリス
ドン!
掌をかざしアリスを弾けるように吹き飛ばす俺だった者
木に衝突する瞬間に身を翻し蹴りで上空へ飛ぶ
「はぁ…はぁ…♡嬉しいわ、手掛かりを見つけただけじゃない、アナタに出会えたのが嬉しい♡」
空中で静止し全身のタトゥーの光が強くなり、笑いながら構える
掌の炎が大きくなる
ドン!
巨大な火炎球が降り注ぐ。
冷静に俺だった者は光の壁を創り防ぐ
防いでいない範囲は爆弾でも落ちたかのように粉々に吹き飛び燃え尽きていく
空中から森に飛び込むアリス
「邪魔だ…消えろ…」
右腕を水平に振る 広範囲で水平方向の森の木々が真っ二つに切り裂かれていく
斬撃?を身を低く走り抜け躱しながら超速で接近するアリス
眼がイッてる…
「はぁん♡もっと優しくしてよ♡」
真っ二つになった、木々が浮び上がり、俺だった者に矢のような速さで飛んでくる。
バギッ!パアーーーン!
被弾せず粉々に粉砕する木々
弾け飛ぶ木片の中から
アリスが引き裂きにかかる
「はぁはぁ♡喜びでイキそうよ....アナタも逝っちゃいなさい.......」
「面倒くさい…」
地面が、空気が、空間が歪んで
「全部消す」
景色がホワイトアウトする。何も見えない
憎い苦しい、壊れる
怖い、怖い、助けて、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だあーーーーーーーーーーっ!!殺して殺してくれ、誰か殺して…こんなの嫌…ガァァァァーーーはーーー!!!!
ウォォーーーーーーーン
狼の遠吠えのようなものが、聞こえる。
心が安らぐ、なんでだろう
穏やかで温かい
死んだのか…
よかった、死ねて…
俺の意識は…もう…
あれ?生きてる?のか急速に取り戻す身体感覚
眼を開ける
目の前にすぅすぅと可愛い寝顔が…
アリス…?
夢?
ガバッ
飛び起きる!
周辺には何も無かった
なんの変哲もないじゃなく
何も無かった。
草木1つなく抉れた土と岩石
土山しか見えない
俺にもアリスにも目立った外傷もなく、身に付けていたバックパックも無事だった。
アリスの荷物は残念ながら影も形も無く
小川だったものは泥水が流れる濁流になっていた。
満月の光が明るく感じる
深夜なのか…時間がわからない
『どういうことだ?』
俺が聞きたい
体は戻っているが幽霊……
いや悪霊は取り憑いたままのようだ
ゾク…
げほ、がぼーーーうぇーーー
ビチャビチャビチャビチャ
嘔吐する。悪霊の…絶望を思い出す。
間違いなく、こいつは人間の幽霊なんて生優しいものじゃない
悪霊だ。全ての悪の化身!
ズサッ
アリスの方向を見ると、二刀流のナタを構えて無表情だが睨むような眼で俺を見ていた
「紋章が展開しない…何をした!」
全身のタトゥーは無く、会ったばかりのアリスのようだ
「誤解だ!やったのは俺じゃない!」
『もう一度替われ排除する』
グッ…
ゲボゲボゲボ、ビチャビチャビチャビチャ
悪霊の声を聞いて、再び嘔吐する
構えを解き話すアリス
「アナタは何なの?フェンリルの呪いよね、それ…」
「呪い?ああ呪いだな、これは」
「フェンリルに逢ったの?」
「フェンリルってのが何なのか分からないが3日ほど前に突然悪霊に取り憑かれた…」
もう常識とかどうでもいいだろ…ありのまま話す
「大きな狼の化け物みたいなのを見た?」
狼?わからない
「いや…わからない…突然ここに迷い込んで気がつけば悪霊に取り憑かれていた」
『おい悪霊!フェンリルっていうのか、おまえ!』
『知らないな……』
そのフェンリルってのが、こいつと関係してるのか?それともトボけているだけか
『あの力の原理なら、だいたい予測がつくが、なぜあの女が同じ様な力を使うのかは分からない』
「本当の事を言え」
ナタを首に当てられる。
「まて!!俺は被害者だ!!!やったのは悪霊で俺は何も知らない!」
「悪霊?フェンリルの眷属か何かか?」
今ひとつ掴めない
「刃物をしまえ!全部話す!」
ここに来た時のことも、俺が知っていること全てを伝えていく
「そう…ならアナタには、もう一つの人格があり、情報は引き出すことが出来ない」
「フェンリルの仕業と考えるのが自然ね。神が妨害しているって言うのなら それがフェンリル その悪霊はフェンリルの手先」
『そうなのか?』
『知らない…この世界の事情なんてどうでもいい』
「私の呪いとは少し違うわね」
「そうだ、アリスの悪霊のことも教えてくれ。男か?女か?」
「私には悪霊と言われる人格は無いわ」
「は??あきらかに人格変わってたのに?」
「あれは私だし、私の意思で行動していたわ」
完全に狂ってただろ
「フェンリルの呪い…紋章が展開すると少しハイになるわね」
少しどころじゃねーだろ、シ◯ブ中でも、もう少し慎ましいわ
「そのフェンリルって奴を探して呪いを解くのが目的ってことか」
「いえフェンリルを殺すわ…呪いで死んでも殺せるなら問題ない」
「その悪霊ってやつ、フェンリルの手先と話したい、交代してみて」
「絶対に嫌だ!!!!!!!!」
渾身の力を込めて叫ぶ
ジャキッ!
双剣のナタに手を掛けるアリス
「殺すなら殺せ!!あんな思いはしたくない!!!!」
泣く、恥も外見も関係ない
グシャグシャに顔を歪めて号泣していた。
世界中の絶望が流れ込んでバラバラに引き千切られるような苦しみ
本当に心の底から死にたい殺してほしいと願った
あれになるなら、ここで死んだほうがいい
「わかった…無理強いはしない、でもアナタは、やっと見つけた手掛かりだから」
「ああ、しばらく共に行動する。どちらにせよ行くアテも無いし人里に行きたい」
「いえ、アナタを飼うわ」
「なんでそうなる!!」
「見たとこ悪霊が出てこないと戦闘能力は皆無、力ある者が力無き者を支配するのは当然のことよ」
「たしかタカヤ・シンドーだったわね改めて私はアリス 人狼族 今日からタカヤのご主人様ね」
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