第2話 アリス

『おい…お…い』


うるさい……頭が割れそうなほど痛い……


死んだのか…俺は…



パァーーーー

緑色の光が視える


なんだ?気持ちいい…

頭痛が引いていく



ゴク……


喉になにか…こ、れ、…水だ


ゴクリ…ゴクリ……染み渡る……


ボーっとするが眼は開けれそう



何かが俺の体を包んで

水が入ってくる…


ゆっくりと眼を開く


あれ?どうなってるの?誰か居てる…


先ほどの外人?人外?ねーちゃんが








キスしていた







ゆっくりと唇を離して俺の顔を見下ろしている……

その顔は、どこ…か…


飛び起きる

うぉぉぉぉおお


ありがとう……ありがとう!!


全力疾走から川に飛び込んだ。


『問題なさそうだな』


水面に浮かび上がりガブガブと水を飲む


辺りは夕方になっていた



脱水症状…か…



『脱水症状に低血糖、疲労の蓄積だろう』


淡々と頭に響く声


バシャバシャと顔を洗う。気持ちいい


河原を見る


銀色の髪に夕日が差しキラキラと輝いている

無表情で呆けたような表情の彼女と目が合う、笑っているように見えたのは気のせいか…


残念ながら、服は着ていた。



黒のチャイナ服?ドレス?和服?


見たことのない装飾


ブーツ?にニーソックスのような履き物?、軟らかそうな太モモにベルトと何かが着いている



「あの…ありがとうございます。助けてくれたんですね」


「治癒はしておいた…水も飲ませた…」


どこか抑揚のない話し方


水……


うっわーメチャクチャ気まずい、いや人命救助だから分かってるよ、分かってるって でもあんなの童帝閣下には刺激が強すぎる。



治癒?治療じゃなく?

そういや体が気絶する前より軽い気がする。



「本当にありがとうございました!!道に迷って死にかけたんです!」


「そう…」


興味の無いような返事


そういや、この人に 臭い死んで とか散々言われてたような気がしたが


疲労とモテないバイアスがかかった俺の被害妄想だな



バシャバシャ

川から上がる


ずぶ濡れのスラックスにアンダーシャツ


荷物は、彼女の側にあった。


「あの日本語上手ですね、観光客の方ですか?」


「ニホンゴジョーズ?」


なるほど、カタコトしか分からないのか

流暢に話してた気がしたが



「敬語で話す必要ないわ、堅苦しいのは嫌いなの」


メチャクチャ流暢じゃねーか!


「あ、あーー分かった、あの名前は?」


「答える必要はないわ」


『あの女気に入らない』


『ばかやろーーーなに失礼なこと言ってんだ!命の恩人だぞ!』



「あの、観光客なら この近くに人里ありま……ある?」



「旅の目的地の村までは近い…もうすぐね」


助かった、生きて…やっと…生還できる


「あと50kmほどね」


近くねーよ!!まて車を近くに停めてあるんじゃ


「へーーじゃあ車で宿まで行くんなら乗せていって貰える?」


「クルマ?さっきから、何を言っているの?知らない単語ばかりね」


車って単語、すんごいポピュラーだろうが!!


「今日はここで寝る…あなた食料はあるの?」


そういや、体力は回復しているけど空腹は満たされない


「いや…なにも…ない」


「じゃあ、そのへんで狩ってくるといいわ」


ワイルドすぎるだろ!


「いや、ちょっと分けてくれ空腹すぎて動けない」


「何か交換するものはある?」


おいおい、ここまで助けてくれたんなら少しくらい…いや甘えるな

キス……命を救ってくれただけで、有り難いことだ



交換ったって、現金なら多少は…


彼女の側にあるバックパックの中身をぶちまける


スマホと現金くらいしか価値のある物はない


「その透明の棒はなに?」


どう見ても安物のボールペンだが


「ただのボールペンだよ」


サラサラと手に線を書いてみる


「それがいい」


即決ですか、現金のほうがいいと思うが


彼女の荷物


ズタ袋?ナップサックのような鞄から食料を出し手渡される


焦げ茶色の塊


「干し肉、これでいい?」


缶詰なんか想像してたが、とにかく 

    

ありがて〜…


奪うように受け取り齧り付く


硬い…少し咀嚼する。正直美味しくはないのだろうが


3日も、まともに飯を食えず、その辺の雑草摘んで飢えを凌いでいた身には動物性タンパク質の味は、どんな高級ステーキよりも美味しく感じた。


「火を通したほうがいいわ、焚き火をするから薪になる枝を拾ってくる」


「あ、じゃあ俺も拾いにいくよ」



立ち上がり森に向かう彼女


空腹で辛いが俺も荷物を纏めて背負い違う方向の森に向かう


しばらく雨が降ってないのか、乾いた小枝は、そのへんにあるので集める



『あの女を消せ』



結論から話すのが有能な人材だなんて、誰が決めたんだろう……



『お前の話は脈絡がなさすぎる』 


『…………消せ』


『いったい何が気に食わないんだ!クールビューティーな端正な顔立ちに抜群のプロポーション!!!』


多少コスプレ趣味だとか間違った日本かぶれなとこはあるが…


『見た目が気に食わない!消せ!』


『チェンジ!みたいに軽く言うなよ、お前は好みの女じゃなかったら殺害するのか!!』



『出来ないなら俺がやる…体をよこせ』



結局はそれか……


枯れ枝を抱えて森を出る



既に彼女は戻っており、パチパチと火が焚かれていた。





そんなに時間をかけたつもりも無いんだけど


日が沈みかけて辺りが見えづらい



テントなんて気の利いた物は見当たらない



まさかとは思ったが、本当に野宿するのか 女性一人で野宿なんて

危なすぎるだろ…まあ俺も居るけどさ…



………はっ!!


女性と二人きり………


しかも、超絶美人でスタイル抜群の外国人



ーーーーーーーーーーーーーーーー


「暗くなってきたわね、私怖くなってきたわ」


「心配しなくてもいいよ、俺がいるからさ」


「もっと側に行っていい?」


「もちろんさ」


肩を抱き寄せる

パチパチと爆ぜる焚き火に照らされる潤んだ瞳の彼女


「あの…私…ひと目見た時から…あなたのこと…」


「わかってたよ…俺も…」


目を閉じて顔を向ける彼女


そして熱い口づけを……



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



ヒュッ



ガン!!!!



「いってーーーーーー!!」


強烈なデコピン?を食らったような痛さ


妄想から帰ってくる


小石?が頭に当たったらしい


「不快なニオイを出さないで、殺すわよ」


臭い!!臭いの!?距離はかなりあるのに、そんなとこまで臭うの!?



水浴びしたから多少は緩和したかと思っていたが


だが何も石ころ投げることねーじゃねーか


風呂入らなくても臭くならない奴だけが、石を投げなさい



「酷いな…なにも石投げることないだろ風呂に入れる状況じゃなかったんだから、また川で洗ってくるよ」


枝を置きに焚き火の側にいく


「発情しないでと言っているの」


下心を見透かされてるーーー



「そりゃ知らない男と夜を過ごすのは警戒して当たり前だけど、そんな犯罪を恩人にするわけないだろ」


「……まあ、いいわ…臭いわけじゃない」



「そうだ、自己紹介しておくよ俺は神藤 貴也 日本人、東京に住んでたんだけど、訳あってこの森で遭難してる」


トイレでワープした

とか言っても信じて貰えないだろう

分けのわからん幽霊に取り憑かれてるなんて言おうものなら異常者認定される。



枝を串にして焚き火で干し肉を炙る彼女


真似して俺も焼いてみる


「タカヤ家のシンドー?タカヤ族のシンドー?」


あっファーストネームか


「いや、名前がタカヤで、タカヤ・シンドーだ。シンドー家のタカヤ」


「あなた、見た目があれだけど貴族なのね、どこのこと?トーキョーなんて聞いたことない」


会話が色々噛み合わない


食事をしながら俺も聞いてみることにした。


「あの、怪しい人に個人情報出したくないのは分かるけど、せめて名前と国教えてくれない?呼びにくいし、さっきから言葉も噛み合ってない」


「アリス………国は滅びて捨てた…」


どこかの国が財政破綻か何かして、日本に亡命した?あまり聞いたことない話だが不法滞在者?


「アリスか…国のことは聞かないでおくよ、あと ここはどこ?」


「ナーラ地方」


奈良県?ずいぶん遠くに来たもんだ。


ジャキッ


両太モモのベルトにあるホルスター?のような鞘から、サバイバルナイフ?曲刀のようなナタ?2本を引き抜くアリス



「は?どうした?」


立ち上がるアリス ずっと無表情だから何を考えてるのか分からない


俺の前でナタを振り上げて…えっ…ちょっ…何か怒らせた?シャレにならない……殺され…



ザクッ


えっ??


背後の何かにナタを突き刺していた


「ガーー!フゥガーーーーグワーーーー!!」


何かは蒸発するように消え失せる




焚き火の灯りが照らす、そのへんの地面や木からウネウネと空間が歪み黒い何かに変化する。


周囲に黒い獣の影のような何かが増えていく

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