異世界最弱伝説 〜最弱の英雄〜

みりんタイプR調味料

第1話 異世界の悪霊

けたたましく鳴り響く電話、飛び交う怒号



俺 [神藤 貴也][しんどう たかや]の日常



サラリーマンと聞こえよく言っても、要はただの社畜である



裕福な家の出でもなく、特別な才能があるわけでもなく


なんか適当に高校を卒業し

流れるままに零細企業に就職


そのまま10年間 あくせくと働く日々



たまの休日も映画やアニメを観て過ごすインドア派



気がつけば三十路も目前の28歳



「チョーさん、ここ発注漏れてるんですけど…」



「げっ…マジか!まあ細かいこと気にすんなよ!いいんだよ適当で(笑)」

良いわけない…


この人はチョーさん

長谷川 信彦 48歳

一応俺の仕事を教えてくれた。恩師のような存在


しかし、仕事はメチャクチャ

よくクビにならないなと思うが


俺はチョーさんを尊敬していた。


軽薄でノリは軽いが、エロに対しての真剣な向き合い方


チョーさんに貰ったデータがフェイバリットになり何回もお世話になったのは言うまでもなく


そのオープンな人柄で陰キャの俺にも気兼ねなく接してくれる。



オープンなマインドと比例するのか股間の窓のほうも頻繁にオープンしている素晴らしい方だ。


「なあ、最近元気ないな。悩みでもあるのか?」


悩みというほどのものでもないが、彼女居ない歴=年齢で魔法使いになれるまで、あと少し


高校の頃の少ない友人は就職だの結婚だので疎遠になり


ただ働いて帰ってネットやドラマを観て過ごす日々


思えば、学生時代から今に至るまで


漢!!!


漢!!!


漢!!!


女の子との接点の無い男子高時代に社会人


教師や事務のおばさんとママンとしか女と呼ばれる生き物と会話したこともない


完全無欠の童帝閣下である。



「いや…悩みってほどのもんじゃないんですが、俺の人生このままでいいのかなって…」



「う〜ん、難しいことは分かんねーけどよ元気出る物やるから、今日は呑みに行こうや(笑)」


チョーさんなりに気を使ってくれてるのだろう


「いつもの店ですよね!気分変えにいきますかー(笑)」



軽目の残業を終え駅前に向かう

いつもの風景、いつものお店


なんの変化も無いが平和や幸せってのは、こんなものなのかもしれないな


ビールを飲みながら他愛もない冗談で笑いながらチョーさんはあるブツを差し出してきた


「なんなんすか?これ?」


「いいから開けてみろよ」



これは……エッチ本!?



えっ…今更?


ネット全盛期でスマホで見れる時代に?



「まあ、そんな顔すんなよ(笑)今のお前なら分かると思ったからな」


「はあ…」

正直少しガッカリした。

あのチョーさんなら、もっと凄い物を期待していたから…



「ただいま」


帰宅し明かりをつける、殺風景な2DKのよくある一人暮らしの部屋


当然返事はない


酔っているが気は晴れない


「彼女でもいれば世界変わるのかな…」


何気なくチョーさんから貰った本を開く



こ!!これは!!!!



ピカーーーーー!!!

本から光が差した(気がした)



過激な内容ではないものの

アングル、スタイル、表情、小物から着崩しまで全てが計算され尽くしている!!


一瞬のベストショットを撮り逃さない


これは…愛


カメラマンの愛、情熱が伝わってくる!!

聖典…これは聖典だ!!



翌日



「チョーさん!ありがとうございました!!」


深くお辞儀しながらチョーさんに本を差し出す。


「やはり今のお前なら理解できると思ってたよ」


「正直、今更とか生意気なこと思ってました。ほんとすいませんでした!」


「いいんだよ、それに返さなくていいからやるよ」

「いいか貴也…古きを知り今に活かすだ、何に悩んでるのか知らないが答えはお前の中にある」



チョーさん…あんた最高だよ…仕事に活かせばもっと成功しただろうに…


「おっともうすぐ朝礼だぞ仕度しろよ」


いけないスーツは着てるが荷物ロッカーに置きにいかないと


グルグルグルグル

うっ…その前にトイレにいかないと、やばいな



トイレに駆け込む


ジャーーーー


ふう朝礼まで残り3分ってとこか





フッ




あたりが真っ暗になる


こんなお茶目な悪戯はチョーさんしか居ない


「ちょっとチョーさん(笑)灯り消さないでくださいよ〜(笑)」


壁に手を、、あれ?壁がない?



荷物…荷物は…あった


手探りでバックパックを持つ


ドアを開けようとするがドアノブが無い



キー…


ドアが開いて光が差し込む、眩しい!


「ちょっとチョーさん急いでるんだから勘弁し……」



ギャアギャア

鳥の鳴く音

土を踏む感触

苔と土の匂い


立ち並ぶ背が高い森林

自分の位置に日が差し込む



「なに?…これ????」


ある〜〜日♪森の中♪

what's?

なんで??

便所を開けたらテレポーテーション使えるの???


後ろを振り向く


何も無い、鬱蒼とした森林が広がるのみだ


あれ?ドアは?トイレどこ??すんませーん間違えました失礼しま〜す…




ザーーーー、チュンチュン


風と鳥の声



「なんでーーーー!!何処だよーーーーーーーーーーーー!!?ここーーーーーー!!!!」




美しい緑 澄んだ空気 森林浴なんて いつ以来だろう


う〜ん自然って素晴らしい………



わけねーだろ!


なんだ?どうした??まったく意味が分からない?


『おい』


声をかけられた



振り返り、辺りを見渡す



チュン、チュン



鳥しか居ない…


『聞こえてるなら返事をしろ』


「誰だ?おーい隠れてるなら姿見せろよ、ちゃんと目で見て挨拶すんのが基本だろ」


『一応聞こえてるようだな』


「どこだー!」


『ずっと側に居るぞ』


えっ?3度見ほどするが誰も居ない




これは…幻聴か…聞いたことがある…いや間違いない



日々の男だらけのむさ苦しさとモテないストレスから幻覚が見えたり幻聴が聞こえる病気を発症したに違いない


なんてこった…俺は俺が思っていたより繊細でナイーブな美青年だったのか…


『見えなくて当然だから慌てなくていい』


無視しよう。



病気だとしたら今わけわからんこと口走ったらリアルでは


朝から気が狂って独り言ブツブツ言ってる

イッちゃってる奴認定される



『聴覚を通して喋ってないから、お前も頭の中で俺に喋ってみろ』


はいはい、なんか言ってるね


『おまえの思考そのものは読み取れない対話する意思をもって話しかけてみろ』



『うるさい!幻聴のくせに、やけに上から目線だな』



『そうだ、それで会話が成立する、逢ってすぐにすまないが単刀直入に言う』




『おまえの体を俺によこせ』




は? なに?


会話なんて全く成立していなかった。


『いや、意味わかんないし、まあ幻覚の類に意味なんかないか』



『いや俺は幻覚や幻聴じゃない、まだ存在を残している』



えっ?お化け?幽霊??


『おまえ誰だよ、ここ何処だよ』


『この世界も、俺も幻覚や幻聴じゃない存在している』



この世界??


『世界ってなんだ、お前は誰だ?』


『そんなことを知ってもお前にとって意味はない、思考を俺に委ねろ』


あれだ、漫画で読んだ2重人格とかそっち系の病気なのか…


『やなこった、だいたいお前図々しくないか?姿は見せない、挨拶も自己紹介も無しに俺にくれ!とかヤンキーのカツアゲでも少しは脈絡わかるぞ』



『ふむ、無理もないか、こちらの事情も話しておこう』


事情を知ったとこで、そんな簡単にレンタルされてたまるか


『俺は…ザ…ザーーだ。この世界はザーーーーーー…ここを…ザーー……ザー………だ』


何?壊れかけのRadioみたいな雑音で聞き取れない


『なるほど、こちらの素性や大切な情報は妨害される細工のようだな』


『妨害?誰に?なんで?』


『理由を伝えようとしても無駄のようだし…そうだな…お前達にとっては神と言うと解りやすいか、そしてここは、お前にとって異世界だな』




はぁーーーーーー!!?


おいおい、そんな最近の漫画みたいな事あるか??


異世界転生したら最強でしたー

とか

現代の知恵で革命起こしましたー

とか

魔王倒すために来ましたー

とか


そんなノリなのか?



『……10000歩譲って異世界転移されたとして、こんな時ボーナス能力とか付与されんじゃねーのか?』


『ボーナス?』


『ほら神様の力で世界最強の魔力とか腕力とか特殊能力とか』



『おまえ、もしかして馬……楽観主義なのか?』



今おもっくそ馬鹿だと言おうとしたよね!厨二病だと思ったよね!



『残念ながら、そんなものは無い。俺の言う神がお前に特別な力を与えるのは考えにくい』


『はあ!?じゃあ何で俺がこんなとこ来なきゃなんねーんだよ』


『俺に体を差し出すためだ』



結局そこに戻ってくるんかーーーい



さて、と



ポケットからスマホを出す


『どうした?』


『帰る』


こんな馬鹿馬鹿しいのに付き合った俺も馬鹿だったよ。

スマホでGPS確認して、誰かに迎えにきてもらうよう頼もう。



圏外



予想してたよ…パターン的に


ザク、ザク

歩き出す



『何処に行くんだ』


『だから帰るって言ってるんだよ!そのうち道路や車見つけるか電波入るだろ』


『あちらの世界の通信機なんて、ここでは役にたたない ここに高度な文明があるのかも保証できない』


『へいへい、そうですか お前ココ知ってるような口ぶりだったけど、なんでそんな曖昧なの?』





歩きながら聞く




『それは俺がこの世界を知らないからだ』




おいおい、メチャクチャ知ってる素振りだったろうが

知ったかぶりやがって


いや話してることデタラメで混乱させて取り憑く気かもしれない



ゾク…

悪寒が走る




『まさか、お前…夜になったり寝てる間に取り憑く気じゃ…』



『それが出来たらいいんだが、無理だな お前が渡すと思念しないと手が出せない』



『何だよ!コラ!ビビらせやがって何も出来ないなら怖くねーよ、バーカバーカ、ケッケッケッ屁〜こいてプーだ(笑)』



『………………ふぅ…話は変わるが闇雲に行動するより所持品や周りの状況を分析してから進むほうがいいんじゃないか?』



なに…今の間…凄く腹立つ…



しかし、奴の言う通りだ。


遭難しているなら、無駄な行動で体力を削られるのはマズい


そもそもこいつ、何なんだ?富士の樹海で死んだ幽霊か?


『何が目的だおまえ』


大きめの石にバックパックやポケットの所持品を並べながら幽霊に聞いてみる





『お前の体を支配することだが?』




『違う、そんな協力的になる必要あるのか?呪い殺すなら、放っておいて状況悪くして死ぬようにするだろ』






『お前が死ぬのは都合が悪い、お前は思った程馬鹿じゃないな見直したぞ。だが伝える術は無いし、お前は関係ない』


上から目線がムカツク




関係ないのに取り憑いてんのかよ

誰でもいいから生き返って未練晴らしたいとか。


とにかく現時点では、こいつに実害は無いわけだ。


俺はもしかして、この世界の神に刃向かう悪の手先に呼び出されたのか?女の子だけじゃなく神にまで嫌われるのか……僕そんな悪い事しました?



並べた所持品は

財布 所持金1280円(小銭) 免許証やらカード類 スマホ(電池83%)

弁当 ペットボトルのお茶 飴玉5個 会社からパク……お借りしているプラスドライバー ティッシュ ボールペン 聖典



この中で今の状況で大切なのは


食料 水分 スマホ 聖典か…



それに暑い…11月の気温じゃない上着とYシャツを脱いでアンダーシャツのみになる


外国の可能性もあるが、森林の様子、これは杉か?


あまり詳しくはないが、洋画なんかで見る森の様子じゃなく日本的に感じる。




ただ樹齢が長いのか、やたらと背が高い


日の高さ、影の位置から時間は正午頃


スマホの時計は8時30分


ハイキングできるような道はなく地形は不安定


山間部で、超絶ド田舎ってこと





『遭難が長期化することを考えると食料は小分けできるならしておいた方がいいな、水も節約することだ』



分かってるよ、言われなくても

そんな事





3日後




「水〜水をくれ〜〜〜」


彷徨うゾンビと化した



『なぜ、初日の数時間で食料と水を消費した』



『しょうがね~だろ腹減ったんだから』



『真面目に聞くがお前は馬鹿なのか?』



こいつの皮肉も慣れた、そんなことより水、水を…本当にダメだ水の事しか考えられない



サァァァーーー



水だ!!水の音がする!!!


水!!水!!水!!





音の聞こえる方へフラフラと吸い寄せられる



小川か何かの水源がある

水……水………水を…くれ…



ガサガサ


見えた、茂みを掻き分けるとオアシスが




………………  女が居た



昔のボクシング漫画のライバルのように正気に帰った

茂みに身を隠す



銀色に輝く背中まであるロングの髪に白い裸体に弾ける水

容姿は美しく、人形のようだ ミステリアスな黄色い眼

日本人じゃない


ピッピッピッ


スキャン開始 上から98 58 88 


ムチムチのナイスバディ!!

胸にタトゥーあるのが…エロい…



銀色の髪から伸びる耳と

健康的で張りのある尻から伸びる尻尾がまた



……耳?尻尾??


銀色のフサフサした犬のような耳と尻尾がある



「攻撃する意思は無いみたいね」



こちらを見ながら彼女は言う



ヤッベーーバレた。


ガサガサ、茂みから身を出す



「あっ…いや、すいません覗くつもりは無かったんです。ただ遭難して水を…」


そうだ不可抗力だ。たまたま偶然

しかも風呂でもないのに水着も着ない時点で俺に非はない


きっと、お巡りさんも信じてくれる状況の…はず…たぶん…



「ふーん、でもあなたのニオイは嫌い」


無表情で言う、怒ってらっしゃる…


臭いのは、どーしょーもないだろ


このクソ暑いのに風呂も入れず



「だから死んで…」



フッ


眼の光が無くなり


信じられない俊敏な跳躍


えっ?なに? 



グニャ〜〜


視界が歪む


サーー


血の気が引く


気分が悪い……


心臓が破裂しそ…………



ドサッ



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