第4話 ミツエ村

お父さん お母さん お元気ですか。

あなた達が天塩にかけて育てた不肖の息子です。

特別な才もなく 社会人になり

地味ですが僅かばかりでも社会に貢献して10年。



私、神藤 貴也 28歳 今は





ペットをしております。





「遅い!走れ!タカヤ!」


ピシッ!


森で見つけた植物の蔦を鞭にし、速度が落ちると背後から叩かれる



「はひぃ!はひぃ!ヒュー!ヒュー!待って無理!無理!」



かれこれ何時間走らされているんだろう…



むちゃくちゃだぞ!こいつ!


昨夜の騒ぎから、疲労の限界だったのか岩陰で死んだように眠り


蹴り飛ばされて起きると、すっかり朝だった。


おはようございます!


なんて気の利いた挨拶もなくアリスは


「走れ…いくわよ」


地獄だった、出血し栄養不足、ろくに布団で眠ることもできない体で耐久マラソンのスタートだ。



消え失せた森の荒野を抜けるのに軽く1kmはあった


その後トレイルランニングで数時間、いやまだ数十分なのかもしれない。


苦しい時間はなぜ長く感じるんだろう。



ドサッ 


前のめりに倒れ込む


「ぜひーー…ぜひーー…」


動けない。スポーツ経験も無く自堕落な生活を続けた30前の一般人には無理がある。


ヒュルヒュル


なんだ、首になにか


「ぐえっ!」


蔦を首に巻き付けて引っ張るアリス


「行くわよ!タカヤ!」


嫌じゃーーーー!!


引き摺り回されるように引っ張られ走っているのか何なのかわからないまま地獄は続くのだった…



…………………




止まった…


ズタボロになった俺に手をかざすアリス


パァーーーー

アリスのタトゥー、胸元の紋章が光り緑色の光が体を包む


はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ……ふぅ…ふぅ…ふ〜〜



治癒の魔法か?整っていく息、だが完調にはほど遠い

アリスは息ひとつ乱れていない


「どう?タカヤ、散歩楽しかった?」


「楽しいわけねーーだろ!アホか!」




「何かの文献でペットの散歩は首に縄をかけ引き摺り回すと見たことがあるわ」




間違ってるのは文献じゃなく、こいつの認識だろう


「とにかく、もう走れない」


「いくらヒューマンでも体力が無さすぎるわね」



ヒューマン、人間…


そのまんまだが、アリスは人間じゃないのか?


「ヒューマンってのは何だ?アリスは人間じゃないのか?」


「私達、人狼族は人間だけど?」


どうやら、この世界の人種の呼称らしい


「水が欲しい…腹が減った…血が足りない…」


「ここまで来たら街道まですぐね食事にしましょうか」



飯って言っても

自分の荷物には食料が無く、アリスの荷物も紛失したのだから

どうしろと



スゥッ!再び紋章に光が帯びる


水蒸気!?


アリスの周りに集まる水蒸気がひとつの塊になり浮かぶ水になった。


ザブーーン


水の塊に頭ごと突っ込み飲む


悪霊も似たようなことしていた


「ぷはぁ!!いいのか?これ呪いの力だろ?」


「呪いは使ってない人狼族の私でも、この程度なら可能」



水を空になったペットボトルや弁当箱に移す



掌を森にかざすアリス


パシッ


何かボールのような物がアリスの手に飛び込む


「食え」


鳥だった


ビクビクと痙攣しながらクチバシから血が流れている。


「食えるか!!!」


「我儘ね、本当に貴族なのかも…」


手の中の鳥が突然燃えだす


コンガリとした丸焼きになった。

投げて寄越す。


同じ要領で鳥を捕獲し燃やすアリス


「あまり美味しくないし、せめて塩は欲しいけど非常時だから贅沢言わないで」


そうだ、せっかく用意してくれたのだから感謝しなければ


「いや、ありがとうアリス、頂くよ」



食事を終える、治癒の魔法が無ければ食欲もなかったろう。



『この女から、この世界の情報を引き出したほうがいいんじゃないか?』


静観していた悪霊が話してくる。

せっかくアリスと二人きりだと思ってたのに…しかしそうだな


何から聞こうか


「アリス、俺はこの世界の人間じゃない。教えてほしい昨日の黒いやつは何だ?魔獣とか言われるものか?」


「マジュウ?は知らないけどミラージュと言われている正体は不明」


「正体不明?」


「10年前から各地に現れるようになって人間だけをピンポイントで襲ってくるわ」


「捕らえようとしたり殺したりすると消えてしまうの、野生動物を襲ったり田畑を荒らすことはないわね」


ミラージュ、蜃気楼か


「私が思うにフェンリルの手先ね」


「なんでもかんでもフェンリルなんだなフェンリルってのは何だ?」


「人狼族の神」


「えっ?自分のとこの神様殺しにいくのが目的なの??」


「神狼会(しんろうかい)という協会が祭り上げてた邪神よ」


「祭り上げてた?過去形?神狼会はどうなった?」


「滅んだ」


「邪神の甘ごとに乗って滅亡したわね、残党はまだ残ってるみたいだけど」


ギリッ歯軋りをし何かに耐えるように話す。


「そうか、無理に話さなくていいが何か事情があるんだな」


「昨日話していたタカヤの故郷、あれも眉唾だわフェンリルは人を惑わすの、幻術にかけられていた可能性がある」



それは無いだろ…何かしら恨みがあって悪い事全部フェンリルのせいにしてる節があるな。



「タカヤ・シンドーが本名ならウラヌス帝国 伯爵 シンドー家の貴族ということになるわ」


「は?貴族さま?たまたま名字が被ってるだけじゃ」


「ラストネームがある時点で貴族や族長、神官なんかの偉い家系だけどタカヤの立ち居振る舞いが貴族っぽくないのよ」


ごもっとも、だって庶民だもの


「タカヤの記憶の混乱は時間が経てば戻るかもしれないし、どこまで話せばいいかも分からない、おいおい話すから行きましょうか」



「これ以上走るのはごめんだ」


「そうね、街道まで出て歩いて行きましょうか。別に急ぐ必要もないし」


まて!コラ!なぜ走らせた!






獣道を抜けると本当に街道があった地図も無いのに、こんな森でよく方向感覚狂わないな



「この街道をそうね徒歩なら夜までには着きそうね」


「アリスの目的地だろ、どんなところで目的は何だ?」


「ミツエ村、帝国と貿易都市ミズガルの中継点 妖狐族の神官に千里眼をお願いしにいくのよ」


「千里眼?って遠くのものを見通すやつ?それでフェンリルを見つけるってこと?」


「ご明察、千里眼は妖狐族にしかできないわ」


アリスの力も何でもありってわけじゃないのか


おっ!遠くに、こちらに向かって来る人が見える…やっと遭難から抜け出した感あるな



猫だった



いや猫の特徴がある人間


この世界は何かしら動物的な特徴があるのが普通なのか?異世界って感じするよな。


それにしては、なんの特徴もない俺を見ても何も驚かない

なにか俺の視線を避けたように見えたけど





夕刻



村が近いのか、人が疎らに見られるようになった。俺と同じ人間にしか見えない人から

狸だったり鳥だったり動物の特徴を持つ人が増える


何故か、動物の特徴を持つ人は普通の人を避けて通るように見える



村が見えて………



瓦の屋根、木造建築 川にかかる石橋、田園、あぜ道、



日本の田舎だった。



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