第8話 巫女

夕刻になり、露店の酒を呑んでいた。


「タカヤ様!!さあもう一杯!」


村中の通りが宴会のように盛り上がり

露店が無料サービスで肉や酒を振る舞っていた。


「タカヤ様に助けられて……ほんと死ぬかと…」

「俺、感動しちゃったよ!貴族のサイとか初めて見たよ」



人だかりが集まり非常にまずい展開である…


ある程度覚悟はしていたが、詐欺を働き逃亡する身でありながら

認知度が赤丸急上昇中である…



「なんでも、南の渓谷を破壊したのもタカヤ様だとか…」

「うっわ、こわ…俺達なんか子供みたいに捻り倒せるんだろうな…」



物凄く耳が痛い…


「私は疲れたので宿に戻る、皆の者 よく頑張ったな」


適当に切り上げて宿に避難する


どーするよ!これーーー!!


「数日後には憲兵から帝国に報告が入るわね」


部屋に入るなり死への宣告を唱えるアリス


「逃げるぞ!」


「まだ神殿に行ってないわ」


そうだった


「この騒ぎの中で、神殿まで行くのは面倒ね 有名人だもの」


「だいたい何で酒とか呑んで警戒しねーんだよ、またあんな化け物出てきたらどーすんだ?」


「タカヤが何とかすると思ってるんじゃない?」


ますます逃がしてもらえなさそうだ…


「それに、あの数は異常よ…見たことも、聞いたこともない」


「俺は前に数十匹見たのが最初だけど、あれでも異例なんだよな?」


「そこが気になるのよ、悪霊に取り憑かれたタカヤが現れて、すぐに尋常じゃない数のミラージュが出現するとか出来すぎてる」


「その悪霊がフェンリルと何らかの関係があってフェンリルに狙われてるかも」



『おい悪霊!どうなんだ?』


『知らないな、心当たりはあるにはあるが不確定要素が多すぎて憶測の域を出ない、伝える術もないしな』


「心当たりはあるらしいが詳しくは聞けないみたいだ」


「そう…でも悪霊を狙っているならフェンリルの手先じゃなさそうね。手先ならタカヤごとぶった斬るのも考えたけど」


考えなくてよろしい!


「俺も気になることがある、この村は俺の故郷に似てる」


「あなたの故郷は石の巨塔が並び鉄の箱が人を乗せて運ぶんでしょ?」


「俺の故郷の田舎のほうに建物の雰囲気が似てるし食い物もそっくりだ」


「要領を得ないわね、やっぱり神殿で見てもらったほうが良さそうね」


「先に物資の調達をしていて良かったわ、明日の人気の無い早朝に神殿に行って目的地を決めて出発しましょうか」


「そうだな…今日は早めに食事にするか」


「いえ、先にお風呂に入るわね」


なん……だと…


「覗いたら殺すわよ♪」


「天地神明に誓って覗きません…はい…」


「タカヤのニオイは分かりやすいのよね」




早朝




荷物を纏め、朝靄の村を抜け神殿の前まで来ていた。



稲荷の像が左右に配置された階段がある。



ただ………


「この階段…多すぎない…?」


見上げると先が見えないほど続く階段


「飛ばして登ればすぐよ」


ピョンピョンと10段ほど跳び上がり駆け上がるアリス


「出来るか!!」


「もう…だらしないわね」


普通に階段を登る


「こんな階段、神官だかのジジイが毎日登ってんのか?」


物凄く面倒だし疲れる、やる気無くす


「たしか、最近世代交代して女の神官が仕切っていたはず」


「なにしてる!アリス!さっさと行くぞ!」



見たところ明らかに神社だ!


女神官とは巫女さんだと見つけたり!!!


清楚可憐な赤白の袴!露出は少ないものの神主の趣味なのか初詣で見る巫女さんは、べっぴんさんと相場が決まっていた!


ダッシュで駆け上がる!



……………………




「はあ…はあ…巫女…巫女……オネーチャン…はあ…はあ…」


赤い鳥居が見える


「タカヤにしては早く登れたわね、スケベの執念ね」


なんとでも言うがいい…ゴールは近いのだ!!


「はぁ…はぁ…着いたな…はあ…はあ…」


なんの変哲もない神社、お稲荷さんに赤い鳥居、敷き詰められた石に賽銭箱、本坪鈴、奥に神殿らしき建物が見える



ガランガラン


鈴緒を引き本坪鈴を鳴らすアリス


「ふむ、入れ」


えっ…そんな呼び鈴みたいなシステムなの?


ギィィーー


扉を開く、神社の中って見たこと無かったけど、どうなってるんだ。



木造の吹き抜け、かなり広い…なにやら壁や天井に古い壁画のようなものが描かれ祭壇には鏡と供物が供えられている。



祭壇前の座布団に

赤白の袴、狐の耳と尻尾、容姿は日本人形のようなオカッパ頭の




ガキが座っていた



チキショーーー騙された!!!

「子供じゃねーか!こんちくしょう!!」



「そなた初対面でなかなか言いよるな」

子供らしくない言動の神官




「申し訳ございません神官様、彼は脳の病気でございまして…」


深々とお辞儀し詫びるアリス


と同時に耳を引っ張られる


「いででで!」


「神官は貴族と同格扱いよ!馬鹿も休み休み言いなさい!」



「まあよい……貰えるもの貰えれば妾は気にせぬ」


貰えるもの?稲荷寿司か?


「探し物なら500万マルクス 探し人なら1000万マルクス」



金かよ!一気に有り難みが失せる



「フェンリルという神を自称する邪神…化け物を探しています」



「ふ〜む神と申すか…神など所詮人が創りだした概念でしかないが見てみるが2000万マルクスだな」



神官が身も蓋もないこと言い出してるよ…

それに、高い!!


何も言わず言い値を差し出すアリス


メチャクチャ胡散臭いんだけど…


「むふふ♪助かるぞ、この地を帝国に取られて色々物入りでな♪」


「妖狐族はもともと、この地にしか居ない先住民族よ」


ヒソヒソと話すアリス


「どれ、観てやるから近うよれ」


神官の前に正座で座るアリス


熱を計るようにアリスの額に、自らの額を当てる


一瞬白い光が瞬く



バタッ



「はぁ…はぁ…」

よろめき崩れる神官


「そなた…よく…生きてこれたな…」


キョトンとするアリス


「フェンリル…確かに恐ろしい化け物だな…西の方角、海を跨いだミシディア大陸から同じ気配を感じるぞ」


「ありがとうございました神官様。さあ行くわよ」



いやいや…


「アリス胡散臭すぎるぞ!霊感商法って知ってるか?」


「そなた…妾を詐欺師扱いするつもりか?」


いや…まあ…詐欺師は僕なんですが…


「抽象的だし行って何も無かったら 当たるも八卦当たらぬも八卦で誤魔化すんじゃないの?」


「タカヤ!!!」

強く制するアリス


「よかろう…妾の力、特別サービスでお主の大切な物を当てて証明してくれようぞ!!」


飛び掛かり額にヘッドバットしてくる狐神官



瞬く光………………



「はあ…はあ…はあ…はあ…」息も絶え絶えな神官


あれ?何も起こらない


「そなた…その体に二人の意識があるな…」



!!!!!!



『俺の存在が分かるのか』


「それに、1つの意識は……伝承に伝わる神の国と思えるような奇妙な世界にあった…」



俺の記憶にある東京を、観たのか!?


「ちょうど、そこの壁画にあるものと同じ世界じゃな」



壁画を確認する


飛行機!!車!、、いや…なんだ?これ!

どこか日本に似ている壁画


タワマン?ドーム?


子供の落書きのように見えるが、俺の知っている文明らしきものが散見される。


「ちなみに、大切な物は…聖典じゃな?」


「失礼致しました!千里眼、感服致しました」


土下座で詫びる


「して聖典の行方は!まだ村にあるのですか?」


「東の帝国の方へ向かう気配じゃな」



ガッデム!!売れちまったのか!!


『おい!壁画を全て見ておけ記憶する』


催促する悪霊


『おい、まさかお前も日本から来たのか?』


『…………ザーーーー…ザザーー』


肝心なとこで雑音か…





神社を出て階段を降る


「さて向かうは帝国だな」

提案する


「そんな訳ないでしょ、西の都ミズガルを目指すわ」


「しかしだな、チョーさんから頂いた聖典が」


「帝国に行けば、偽貴族とバレて死罪になるけど」


ぐう…仕方ない…


神官に帰る場所を聞いたが、そんな情報は引き出せなかった


2000万だと安すぎたと愚痴っていたが…


「このまま村を出て西へ向かう、貿易都市ミズガルから船でミシディア大陸に上陸するわ、あの化け物だったら何かしら騒ぎを起こして噂にでもなってるはず」



詐欺師の身で最弱の俺は着いて行くしかないか…まあ何とかなるさ




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