第7話 サイ

「数多の神々よ、我の求めに答え火の精霊を降臨し我に力を与えよ!!  ファイヤーボール!!!!」






厨二呪文を唱えたが 何も起きなかった…

28歳にもなって…なにやってんだろ…と虚しさが残った。



「本当にサイを使えないのね…」

宿に向かって歩き出すアリス


歩きながら詳しく聞く



どうやら、アリスや悪霊が使った魔法のようなものを【サイ】と呼ぶらしい


物体に干渉して動かす【導力】

空気や物体を燃やす【発火】

傷や体調を癒やす【治癒】

瞬間移動【瞬身】

大きく分けて4つの系統があるらしい



聞いていると魔法ってより超能力と言われるもののイメージに思える。


「人間ならヒューマン獣族問わず10歳の試練を越えると祝福と共に【紋章】が体のどこかに浮かんでサイを使えるわ」


「試練?何かの儀式を受けるのか?」


「10歳に高熱を出して眠り夢を見るの、夢は人それぞれで生きる意味を見出すと言われてるわ、紋章を持って成人として認められる」



「試練は皆経験して皆サイを使えるようになるのか」


「いえ…試練を越えられなければ死ぬわね、だいたい5人に1人は帰ってこなくなる…」


麻疹みたいなものかと思ったが甘くないな


「成人してるように見えるけど、あなた子供なの?だとしたら今までの幼稚さは納得するんだけど」



「サラッと貶すな!28歳だよ!」


ある意味下半身はピーターパンシンドロームを患っているが


「初めてみたわ…そんな人…でもヒューマンでサイが使えないとなると足手まとい以外の何物でもないわね」


「ヒューマンはサイが無いと困るのか?


「身体能力が他の種族より劣るのよ、最弱ね。平均的なヒューマンの成人は100mほど走るだけで10秒もかかるの」


アスリートじゃねーか!


「身体能力は低いけどヒューマンはサイ能力が高くて神に愛される種族と自称してるわ」


「ヒューマンと獣族ならサイ能力はどれほど違うんだ?」


「ヒューマンだと腕力程度の導力は誰でも使えて熟練者だと発火は使える、獣族だと誰でも出来るのは小石を動かせる程度ね」



「アリスは小石を動かせるレベルには見えなかったぞ」


「私は別…獣族の規格は超えてるわ…」


「呪いってやつの影響か?」


「…そうね……」


「タカヤも呪いの力を使ったからヒューマンだし…私と同程度のサイは使えると思っていたわ」


「子供にも劣る体力にサイも使えないとなると世界一貧弱だと断言できるわね」



異世界来たら最弱でしたとか、ハードモードすぎるだろ…



宿街まで戻ると


「これは、これはタカヤ様 ご機嫌よう」


げっ!!質屋の店主と鉢合わせしてしまった!


「う、うむ 昨日は世話になったな」


この態度だと、どうやらまだバレてないようだ


非常に気まずい


「おや?そのお召し物は?」


「こ、これは賊に襲われないように世を忍ぶ変装だな…」


苦しいか


「それは、それは、賢明な判断です。あの人虎族率いるの賊にやられたのでしょう?」


「ああ…彼女と私は何とかなったが、多勢に無勢でな、別行動していた従者は残念ながら」


よくわからんが適当に話を合わせる


「いやはや、あの人虎族には困らされていましたが、今まで死者は出ていなかったのですが貴族様御一行に手を出すとは…帝国も黙っていますまい」


「そういえば、昨日貴族の従者に無礼を働いた者が その場で打ち首にあったとか」


ギクッ!!


「なんでも、相当、手練れの従者だったとか」


「ふむ、私のことだな。彼女は娼婦と勘違いされ身を守る為に仕方なかったのだ、それでは用があるので失礼する」


「はい、足止めさせてしまって申し訳ございません、今後ともご贔屓に」


ボロが出る前に逃げるように宿に向かった。



宿の部屋に荷物を置き一息つく


「明日の朝、神殿にいくつもりだったけど バレる前に行ったほうがよさそうね」


アリスに提案される。


宿には3日分の宿泊料を前払いしていたが、仕方ない


「そうだな、面倒ごとは避けたい神殿の神官は千里眼を使えるんだろ?それもサイなのか?」


「いえ、妖狐族独特の力で神通力と言ってるわね」



荷物を纏めて宿を出る準備をしながら聞く


「サイとは何が違うんだ?」


「妖狐族独特のサイとは違う能力よ、たまに特定の獣族に特異体質の個体が生まれるの何かしらのサイとは違う能力を持っていて神の子なんて言われてるわね」


「神の子か悪霊退散とかお祓いとかできるもんか?」


このプライバシー侵害してる悪霊を何とか祓えるかもしれないのか


「あまり聞いたこと無いけど、千里眼で悪霊の本体を探したりフェンリルの手掛かりになるかもしれないわね」



「千里眼はどんな場所でも見れるのか?」



どんな場所でも覗けるなら非常に羨ましい能力だ



「妖狐族はその人の探してる物や人を本人の心情を覗いて見ると聞いてるわ」


「なんだそれ?」

宿を出ようと、扉を開く




ゴーーーン  ゴーーーーン  ゴーーーーン




何処からか寺の鐘の音が響く


「そんな!!夕刻にもなってないのに!!!」


「え!?どうしたアリス!なんかあったのか!! 」


鐘の音を聞くと突然アリスが焦ったように宿の外へ飛び出す


アリスの後を追いかけて宿の外に出る。


なんだ…これ…あれは…ミラージュ!!!


数多の黒い犬のような獣が空気の渦のようなものから生み出されている。



通りの人々は騒然としている。

旅人達は抜刀し商人や装備の無い街人は走りまわり、建物に逃げ込んでいる。


アリスも双剣のナタを構えて生み出された獣に斬りかかる


真っ二つになる獣は黒い霧となり消える


「ありえない!!日が高いのに!直接人里に出るなんて!」


大きな大剣を振り回す熊の獣族が獣に斬りかかるがアリスと違い避けられ苦戦しているように見える


熊の獣族の背後から別のミラージュが…危ない!!!



ヒュッ スパッ


「グゥオオオオーー!」


鎖鎌のようなものが、襲い掛かるミラージュを斬りつけ断末魔と共に霧になり消える


ヒューマン?


ヒューマンと思われる男の周囲に複数の鎖鎌がフワフワと浮きながら鞭のように獣を斬り伏せていく



ギン!!熊の獣族は鎖鎌を大剣で弾き 飛びながら回避する。


助けたわけじゃないのか?


さも気にする様子もなく、鎖鎌男と熊の獣族はミラージュに向かい戦闘を続けている


別のヒューマンはナイフを投げ避けるミラージュに追尾し眉間に刺さる。


吠えながら消えるミラージュ


街中は修羅場の戦闘地帯と化していた。


あまりの数に何人か負傷し、噛みつかれ倒れている者もいる


周囲のミラージュを排除するアリスだが他人を助ける様子はない


「おい!これ前に襲ってきた化け物だよな!こいつら頻繁に襲ってくるのか!?」


「ありえないわ、通常夜に多くて4〜5体で現れて少数の人を襲うわ。日中こんな人が多いところで見たことない」


「数体が人里に侵入しても、集団で排除できる。前も多かったけど…この数は異常よ」


鐘の音はミラージュが侵入した時の警戒警報のようなものか


村中のどこまでミラージュが居るのか知らないが見たところ数十…もしかしたら百体は出現している


「はぁ…はぁ…お助け〜」


先ほど別れた質屋の店主が逃げ惑い、こちらに気づいたのか走ってくる


「タカヤ様!!助けて!助けてください!」


俺??俺にどうしろと


「貴族のタカヤ様なら……助けて…助けてください…どうか御慈悲を!!」


聞いていた村人が叫ぶ

「貴族!!貴族が居るのか!」


「あんた!確か昨日の」


「なんだって!貴族!」


おいおいおい


何故か周囲の人々が俺に視線を移す


「この方は伯爵!シンドー家のタカヤ様!!!皆助かるぞ!」


なんか勝手に大声で宣言しだす店主


「タカヤ様!お助けください!主人が…主人が…助けて…」


「何とかしてくれ!」



まてまてまてまて!!!


「下手に貴族を語るから…貴族の力は常人のヒューマンより遥かに強いし領土が襲われてるなら助けて貰えると思われても仕方ないわ」


側で耳打ちしてくるアリス


待てや!!世界最弱だとか言われたとこだぞ!無茶言うな!


「おい!アリス!お前なら何とか出来るんじゃないのか!」


ヒソヒソと話す


「神狼会の残党に見つかると面倒だから悪目立ちできないし、助ける義理はないじゃない」


アリスは追われてるのか…まあ追われてて当然なことしてるけど


このサイコさんに人助けなんて無理な話だ



「私は用があり、助けることができない…すまないが」


逃げよう…



「人でなし!」

「あんたら貴族はいつもそうだ!」

「人の心は無いのか!」

「鬼!悪魔!!不細工!!」



メチャクチャ言われとるが、無理なもんは無理だ


アリスの手を引いて宿の部屋まで逃げ込む




『俺なら排除してやれるが』


『絶対に代わらない、それにお前なら村ごと壊滅させるだろ』


『一体ずつ消すのは面倒だ』


この悪霊も大概サイコ野郎だしな…



「アリス…こいつら神殿ってのも襲い掛かるんじゃないのか?妖狐族も無事じゃ済まないとなると」


「それが心配なのよね、どれほどの数が居るか分からないけど…呪いを使えば一掃できるんだけど」


「その呪いって力を神狼会の残党が狙っている、もしくは何らかの犯人だと思われている。違うか?」


「……そんなとこね、ヒューマンを超えるサイの力を知られたくない」


「じゃあ、アリスがやったと思われなければ、いいんだな…」




……………



部屋にある布団のシーツを剥ぎ取る


「どうするの?それ」


顔だけ出しマントのようにシーツを被る


「この中に入ってアリスがサイで一掃すれば俺がやったことに出来るだろ」


「………わかった」


二人羽織のように背後から引っ付くアリス


おう…背中に…柔らかな幸せの感触が伝わってくる…我ながらナイスなアイディア



アリスが紋章を展開したのか、白いシーツが青白く発光する


「あはぁ♡さっさと終わらせるわ♡」


やっぱ、そのテンションになるんだ…


ヒュン


もの凄い勢いで窓から飛び出す


上空に…浮いてる!


地上20mくらいだろうか、


足がすくみそうになる高度で、村の中心地や外れの田畑に黒い獣と戦う人が見える



「き…聞け!!ミツエ村の民よ!私はタカヤ・シンドー!これより村の脅威を排除する!」


高らかに宣言しアピールする


「いけるか?アリス?」


ボソボソとアリスに声をかける

シーツの隙間から様子を伺うアリス


「余裕♡村ごと焼き尽くすわ〜♡」


「やめろ!!恨み買ったら俺が村人や帝国に殺られる!」


「もう〜!面倒ね!」


バレーボールくらいの火球が複数現れ、獣共に向かって凄い勢いで飛んでいく


即座に着火し数十体が消え失せる



「シンドー?貴族か!」

「タカヤ様!やはり救ってくださるのですね!」

「いいぞーー!タカヤ様!」

「なんて導力と発火!」

「タカヤ!!タカヤ!!タカヤ!!タカヤ!!」


何か目立ちすぎたような気が…声援

が大きくなる


火球が更に増えていく


ドドドドドーーードーー


空襲でも起きたかのように火球の連続攻撃


追尾するように正確にミラージュを焼き尽くしていく



「あーーーーはっはっは♡キモチイイ♡」


黒い霧が村中から溢れ出し蒸発するように消えていく


俺達の更に上空にある空間が曲がる


あれは…鳥?


歪む空間が鳥のような黒いものに変化する、数が…多い!


100や200ではない、上空が黒い鳥で覆い尽くされ


鳥のようなミラージュは羽根を羽ばたかせ矢のような飛び道具を地上に降り注がせる


「もう♡おイタが過ぎるわよ」


広範囲に光の壁が現れ矢を跳ね返す


火球の1つが大きくなる


どんどん膨らみ10mはある大型の火球になり

「はい♡イッちゃいなさい♡」


火球を鳥の群れに放ち


爆発した


もの凄い爆風が地上にまで届き、瓦屋根がところどころ飛び

人も吹き飛ばされるのが見える


爆風が収まると場はシーンと静まりかえる


もう戦う人もミラージュも見えない、全滅させたか



フワフワと元の温泉宿の2階の部屋に戻るアリス


シーツを脱ぐ


「あーん♡気持ちよかったわタカヤ♡」

背中に抱きついたまま浸っているアリス

はぁはぁ としたアリスの吐息が

首筋にかかる






ウオオオォォォォーーーーーーー!!!!





遅れて外から大歓声が響いてくる



アリスの体中にある紋章が消えていく


「神殿は無事みたいね…あの周囲にミラージュは居なかった」


「凄い力だな…呪いってより強くなる強化じゃないのか?」


「呪いよ…自制心が効かなくなる…その気になれば世界ごと消し炭にできる呪い」


「でも、村人も救えたし使い所次第で英雄になれるんじゃないのか?」


「無理ね…破壊衝動が大きくて快楽的に敵味方関係なく攻撃してしまう」


「いや、村守って、ミラージュだけ攻撃してたろ?」


「なぜか……タカヤの言う事は…聞くことが出来る…」


「よし!じゃあパンツを脱いで!!」


「脱ぐわけないでしょ…馬鹿なの?」


全然聞いてくれないじゃないか…



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る