第9話 マックス

西の貿易都市ミズガルへ街道を歩けば3日ほどで到着する予定だったが森林を歩いていた。



「おい!あの人狼族と一緒に歩くの…」

「ああ…タカヤ様だ」

「なんでもヴォルフガング王国をやったのもタカヤ様らしいぞ」




ヒソヒソ



嫌でも聞こえる


ダメだ…面が割れている…

しかも噂は恐いことに尾ひれもシッカリついていた…


村の周辺を抜けるのに足取りを追われる可能性が高く


北の森林ルートからミズガルを目指すことになった。




「装備万端とはいえ遭難してた時を思い出して嫌なんだよな〜」


「私は慣れてるから大丈夫だけどタカヤ1人だと危ないのかもね」



連続殺人犯に貴族を語る詐欺師の逃亡ルート


お天道様の下で堂々と歩きたい…



夕刻まで歩くと森の様子も変わってきていた。

樫の木というのか?植物は詳しくないが太い木々が多くなる






「今日はこの辺りで休みましょうか」


先頭を軽い足取りで進んでいたアリスが提案する。


「ああ…アリスは、なんてこと無いんだろうけどクタクタだよ」



野営の準備をする。

荷物を降ろし焚き火の枝を集める。


完全に日が落ちるまで2時間ってところか


獣族は夜目がきくらしいがヒューマンの俺じゃ光源なしでミラージュが湧くとアウトだ。





「アリスはフェンリルを追ってこんな旅を続けて、どのくらい経つんだ?」


枝を重ねながら聞く



「7年になるかしら…」


7年!?かなり若く見えるがアリスは何歳なんだろうか


「アリスは何歳なんだ?」


あえてのドストレート直球勝負


「女性に聞くことなの?デリカシーの無さがタカヤらしいと言えばらしいけど」


「失礼……質問を変えよう。今日のパンツの色は?」


「答えるわけないでしょ!年は20歳よ」


本命の変化球は決まらなかった…


しかし女子高生の年齢ならどうしようという悩みは解決した。




「13歳から、こんな旅をしてるのか やけに土地勘があるというか詳しいわけだ」



「この東のコーシャ大陸はくまなく探したわ。神殿の資金が無くなった時は最悪、神官を脅そうと思っていたわね」



『おい悪霊聞いてるか?反省しろ』


『その女の苦労話もフェンリルも興味が無いと言いたいところだが、フェンリルには興味が出てきたところだ』


フェンリル…アリスの遺恨の元凶らしいが…悪霊にも関係があるのだろうか。



「シッ!!」


鼻に人差し指を当てて沈黙を即すアリス小さな声で


「ニオイがする…悪意を感じるわ…」



ボトボトと何かが落ちてくる。


「閃光爆弾!!しまっ」

叫ぶアリス



ピカッ!!!!



キーーーーーーーーン………



何も見えない!聞こえない!この世界にもこんな武器があるのか…




時間にして1分程だろうか…視界と感覚が戻ってくる


木々がザワザワと騒ぎ気配が遠ざかる…


「やられた…」


バックパックとアリスの鞄が消えていた。


「人猿族ね…殺してくるわ!!」


跳躍し、とてつもないスピードで気配の方に消えるアリス



ポツンと1人取り残される



おいおいおい、置いてかないでー!!



『この場所に留まるのは不味いんじゃないか?賊の仲間が居る場合、襲撃されたらお前では何も出来ない』



『だけどアリスが…この場所を離れたら合流できなくなる』



『人狼族とやらは鼻がきくのだろう?一時身を隠す場所を探すか街道に出ることを勧めるが』



街道に近いルートを通っているはずだ、街道でアリスを待つことにする。


………………30分後




迷子になった……





はーーーん!!遭難THEアゲイン!!



ガサガサ


何かの気配がする…獣族の賊か!?


木の陰に隠れる誤魔化せるものだろうか…


覗き見る…虎の毛皮を着た人…!?

人虎族!!


質屋の店主が言っていた山賊か!!



どうか!気が付きませんように…心臓がバクバクと鼓動を早める



「居るのは分かっている…何が狙いだ!!」


吠えるような大声


バレてまーーーす!!



木から身を出す


「いや、あの…怪しい者じゃないんです!連れとはぐれて迷子に」


愛想笑いを浮かべて姿を表す。


…………………


えっ!?何?この間!


人虎族と思わしき男は微動だにせずに、こちらを見ていた。

見ているだけで威圧され足がすくむ




スキャン開始…ピッピッピ


虎縞の耳と尻尾の壮年

身長推定190〜200cm 体重推定130〜150kg

逆立った金色の短髪に威圧感のある蒼眼

顔にまであるフェイスペイントのような縞模様

肩から腰に虎の革

筋骨隆々の野生 肉食系男子



ピーーーー解析完了、勝利不可、逃走不可、死亡確定



イヤーーーーーー!!!!




「そ、それは大変な思いをしたのだな……よかったら街道まで案内するが…」



ふえ?




「わ…わ…我輩はマックスという、我が里を離れ武者修行で森に住み着いていてな…この地には詳しいぞ!」

「マックス?」『マックス……』



……………






並んで歩く男の名はマックス30歳

人虎族で拳術家らしい

詐欺のことは伏せて身の上を話す。




「む、うむ…我輩が人を襲うわけないだろう…」


「マックスは人を殺さないのか!」


「ヒューマンが定めた法の事か?法がどうあれ我輩は、むやみな殺生は好かん」



まともだ!!まともな常識人が存在するのか!



「俺はてっきり、あんたが噂に聞いた山賊かと思ったよ」


「山賊か…確かに、この付近で何度も襲われた者がいるの〜賊なら我輩が返り討ちにしてやったがの、ガーーハッハッハ!!」



マックスはとても好意的で話しやすかった。


思えば、初対面でいきなり体寄こせだの、臭いから死ねだの 大金せびる幼女だの

異常者としか関わってなかったのだ。



このバイオレンスワールドはヒャッハーしか居ないのかと心配していたが、ちゃんと話ができる人間が居たのだ。



「た!!たすけてくれ!兄貴ーーー!」

上空から声が聞こえる


降りてくるなり凄い勢いで近づく人間


マックスの後ろに身を隠す

体毛が濃く猿のような…



俺のバックパックを持ってる!!!


「人虎族!?タカヤ!?」



猿男に遅れてアリスが現われる。


「むう…まだ残党が隠れておったか!!」


「あんたが親玉ね…」


あ…………色々と察してしまった

……


「待て!アリス誤解…」


アリスの横にある岩が浮き上がり、マックスに猛スピードで襲い掛かる


丸太のような腕を豪快に振り回し一瞬で岩石をバラバラに粉砕するマックス




視認できるギリギリの速さで飛び込みマックスにナタを振り下ろすアリス



白刃取り!?



俺が指を動かすのがやっとのような、短い時間で飛び込み振り下ろされたナタをいとも簡単に、掴み片方の武器を奪い取る。


「シッ!!」

掴んだナタを引き付け蹴りを放つマックス


躊躇いなく武器を離し身を翻し躱すアリス

そのまま距離を取る


「脆弱な人狼族にしては、やるではないか!今までの残党とは違うな…」



何かの武術なのか構えをとるマックス



腰を抜かすように地べたに這いつくばり逃げようと必死になる人猿族

「ひやぁぁ!助けて!!」



すべて、この猿のせいか


「待てよ!おい!」

声をかける


「助けてくれ!お願いします!荷は返しますどうか命だけは…」


失禁し泣きじゃくりながら命乞いする人猿族

完全に戦意喪失している。


よほど酷い追われ方をしたのだろう、大体想像つくが…




「おまえ、ふざけてんのか!?あっ!このタカヤ・シンドーの荷を狙うとは丸焼けで済むと思ってんのかコラ!!」


ハッタリである。


「ひっ!!たすけ…たすけ…」

だが効果はテキメンだ!

飛んできた木片が猿の傍らに突き刺さる


「死ぬ!死ぬ!おたすけーー!」


猿は荷を放り出し茂みの中に消えていった



アリスの周りの木々がメチャクチャに破壊され次々に石や木が飛んでくる。

先程のワイルドな迎撃と違い


最小限の動きで紙一重に躱すマックス


「サイか…獣族でここまで洗練されたサイは初めて見る、どれ我輩の奥義をもって応えようぞ」




「グオオオォォォーーーーーー!!!!」


夕刻の森に本物の虎のような雄叫びが響き渡る



「ハアアァァァーーーー!!!」


鬼のような気迫に血管が迸る腕の先から


ソフトボール大の火球が出現した。


「ウラぁ!!!」


火球を殴り飛ばし放つ、アリスの浮かせた木々を貫通しギリギリで避けるアリス


火球は岩に着弾し火炎瓶のように弾けて燃え盛った



「ガーーーハッハッハ!!我輩が編み出したサイと体術の融合技!紅蓮拳だ!驚いたか女!ガーーハッハッハ………は…は…は」



バタッ



マックスは倒れてしまった…


アリスの周りを浮いていた木や石が落ちる


「精神力を使い果たしたのね」 


落ち着いた様子で落ちているナタを拾うアリス


「サイの適性がない人虎族が発火を使えるのは驚愕に値するけど....」



「…そもそも、あれだけ時間をかけて、あの威力なら、その怪力で石でも投げたほうがいいと思うわ」



身動きしないマックス……



マックスはアホだった…



『よかったな、下には下がいるぞ』



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