第28話 救出




「どこだよ!アリス!」



俺達はウラヌス帝国、南50km地点の上空に居た。




あの守銭奴巫女に5000万マルクスも請求されたが、背に腹は代えられない!


俺の腹は痛まないからいいけど。


だいたいの場所は分かるが森ばかりで何も見えない。



「吾輩は人狼族のように鼻が効かんからな」


「私も遠すぎると意識を読めませんの」




あの優男!ただじゃ済まさねー!!


俺だってアリスの寝込みを襲うなんて下劣な真似はしてないというのに!!


この付近であることは間違いないのだが


「少し手荒だが……」


悪霊が森に手をかざすと、周辺の木々が抜け宙に舞い粉々に弾け飛んだ。


『デタラメな力だよな、それ』


「感知が出来ないのでな」



禿げ上がった地上にウラヌスの中世ヨーロッパな建物とは違う異質な金属の建物がある。



「そこだな」



悪霊が急降下で建物の側に降り立つ。


『替わってくれ、あいつは俺が何とかする』


『いいのか?ユーマ・シンドーを八つ裂きにしてもいいんだが』



『だから替われって言ってんだよ!アリスの手前、俺が殺人事件起こせねーんだよ』



バンッ!!



扉を勢いよく開ける、この男は……間違いない!ユーマ・シンドー!!



「来るのは分かっていたが、あまりにも早いな……森を根こそぎ排除するとは…」



「テメー!!アリスはどうした!」



「アリス…アリシアの事か?彼女なら、意識を取り戻し部屋に居る」



起きたのかアリス!それにアリシアって


「今すぐ俺達の元に帰せ」



「断る!!」



何だとこの野郎!



「どんな手を使ったのか知らないがアリシアに限界以上のサイを使えるようにしたのは貴様だろう」



は?



「貴様のような悪漢の為にアリシアの命は削らせない、復讐心につけ込む悪魔め」



「命?それにアリシアってのは何だ」



「それなりの期間、共に居たというのに…名前すら興味が無いのだな」



どーしよう……こいつアホだぞ……思い込み激しい系の…




「アリシア・ヴォールク!元ヴォルフガング王国の貴族だ、貴様にとってはどーでもいい事だろうがな」



アリスが貴族……そういや、マール王国での振る舞いも様になっていたし……

だが俺にとってアリスはアリスだ。



カシャッ



ユーマは帯刀していた剣を投げ捨て、覚悟を決めたように言う。



「貴様とやり合って勝てるとは思えん…僕の命はくれてやる…アリシアは開放しろ!!残された時間は自由にしてやってほしい」



命……時間…



「アリスの命って………時間ってなんだよ……」


「そんな!お姉様!!!」



おいおい…なに慌ててんだよソフィア…やめろよ…




「アリシアの……心は持って3年だ…紋章が薄い…サイを酷使するなら、いつ廃人になってもおかしくない」




嘘……だろ………




「限界以上のサイの酷使は心を消耗させる、普通そうなる前に昏睡するが、それを越えても力を使うと生きる屍となる」






フェンリルの呪い




俺のせいだ…





ちょっと疲れたからって治癒して貰ったり……アリスの力を当てにして………



「どうしたらいい……アリスを助けるには」



「まさか…知らなかったのか!?残念ながら薄くなった紋章は戻らないサイを使わせないで延命するしかない…」




嘘だ………




「タカヤよ…まずはアリスの身を確保するのが…」





突然黒い霧が立ち込めていく



これはミラージュ違う……この華が舞う霧は



「ハーーーハッハッハ!アリスとユーマ・シンドーのニオイを追って来たが、貴様も居るとはなタカヤ・シンドー」



この鼻につくキザったらしい声は




「死神キース・ローウェン!!」

「変態キース!!」




立ち込める霧は屋敷の周辺を包み込み俺以外は地面に突っ伏してしまう。



暗闇から現れる金髪の人狼族キース

クネクネと気色の悪い歩き方だ。



「やはり、貴様にだけは黒華園は通じないようだね」




「キ……キース様…」



「ほう…ソフィア…まだそんな下衆な男と一緒に居たのか」



「やめて…ください…キース様…それに…ユーマ様を」



「君には嘘がつけないからね、そうだよ、フェンリル様の使いからのメッセージでね。ユーマ・シンドーを連れて行く」



「タカヤ・シンドーが居ないならアリスも…と考えていたが素直に渡さないだろうね」




ソフィアを……マックスを……




【護れ】




剣の宝玉が光り、バリアがマックス、ソフィアをそれぞれ包み込む


バリアは黒い霧を押しのけキースの呪縛を解除する。



刹那



キースに飛び込むマックス。


「なに!!」


マックスの飛び蹴りを躱しマックスの頭に手をついて飛び越えるキース。



「それが聖剣の力かい!僕の美しい力を跳ね除けるなんてね」




「我輩の速攻を躱すとは、その能力だけではないということか」



トーントーンとステップを踏み構えるマックス



「人虎族マックス・ガントレットか…厄介だね、それにタカヤ・シンドーも控えてるとなると…」



ユーマの側に飛び、そのまま抱えるキース



「形勢が悪いので最低限の目的だけは果たさせてもらうよ、ユーマ…僕には劣るが悪くない美しさだ。本来ならヒューマンなど殺しておくんだが」



「な…に…をする…離せ」



「そうはいかないよ、フェンリル様の命は絶対、君だけでも連れ帰る」



ボト…コロコロ……



これは、いつかの閃光爆弾!!  



カッ!!キーーーーーーーン………



見えない!!聞こえない!


暗闇からの発光で視力が戻るのに少し時間がかかり


見えた頃にはユーマとキースは消えていた。




『追うか』


『いや…いい……それよりもアリスを』


「キース様…」


ソフィアは悲しげな顔で俯いていた。





屋敷に入ると、この世界には似つかわしくない機械のような物があちこちに置かれていた。




ドンドン



壁を叩く音がする。アリス!!


「むん!!」



鍵の掛かった鉄の扉をマックスが力づくで開ける。



「タカヤ!!!!」



扉が開くとアリスが抱きついてきた……


意識が戻り、抱きつかれるなんて普段の俺なら有頂天になっていただろうが


そんな気分になれない…



「来てくれると思ってた」



「……………」



「タカヤ?」



『悪霊…このまま安全な場所に瞬身してくれ……』





……………………………





「ほう、どうやら無事アリスは見つかったようじゃの」


転移先は先程来たミツエ村の神殿だった。


座布団に座る妖狐族の少女は驚きもしないで、迎えてくれた。



「ええ、挨拶もそこそこに失礼しましたわ。私、マール王国のソフィア・マールと申します。」


「マックス・ガントレットだ」



「英雄一行か、噂は聞いているぞ、妾はリン・カグラ、ソフィア王女よ、そなたが共感能の…」



マックス達はリンと話しているが、俺とアリスは上の空だった。



アリスは何か不安そうな顔で俺を見ている。



「アリス…ユーマに何をされた」


「求婚されたわね」


はあぁぁぁーーーーー!!!?


「勿論、応じてない身体のほうも首輪で力を封じられた以外は異常ないわね」


「この首輪をその剣で切ってくれない?どうしても外れなくて…」





「駄目だ!!!!」




俺の叫び声に一同が振り返る。



「どうして…これがあるとフェンリルどころかミラージュも」



「駄目なもんは駄目だ!おまえ……自分がどうなるのか…分かってんのか……」



「廃人になるって話なら聞いたわ…それでも…私はフェンリルを」



「フェンリルなんてどーでもいい!!!なんで、自分の身を平気で投げ出すんだよ!!!」



フェンリルも……この世界の平和も…元の世界すら俺にはどうでもよかった……ただアリス…おまえを……



「………私は…どうしても…フェンリルを許すことができない……」



小さく呟くとアリスは黙ってしまい沈黙が続いた。




『アリスの事をもっと知ったほうがいいんじゃないのか?』



『アリスの辛さは見ているだけで解る…本人が話したくないなら無理に、ほじくり返したくない』



あと三年なんて……そんなの…



「いえ…タカヤ様……あなたは、お姉様を知らなければならないですわ」



ソフィア…



「アリスの心を開いた、おまえは何か知ってるんだろうが…俺は今のアリスを……」



「お姉様の心を開いたのは、私ではありませわ、開いたのはタカヤ様…あなたですわ…私は恐くて潜れません」



俺が!?



「私一人の共感能ではお姉様の心を見せることはできませんが…」


「妖狐族リン様の力を借りれば私の読み取る心をタカヤ様に伝えることができますわ」



げっ!と面倒臭そうに答えるリン



「あれか…三妖族に伝わる超感応……妖狐族、妖兎族、妖狸族が揃う時に発揮する…」



「流石ですわね二種族でも、ある程度は出来ますわ♪」



「だが妾はタダでは動かんぞ!!」



ソフィアは手を出して指輪を外して見せた。



「希少なアレキサンドライトの指輪ですわ。売れば少なくとも一億マルクスはしますので…これで」



待て待て待て!!!



「そんな高価なもん出すな!!それにアリスの意思はどうなる!誰だって知られたくない事くらいある」



「これはイザと言う時にお父様が使えと渡してくれた物…お父様ならきっと、今が使う時だと言いますわ♪」



「私は…かまわない、いえ…タカヤに見てほしい…私の覚悟を理解して欲しい」


ギュッと唇を噛むアリス。



「タカヤよ…我輩は知るべき時に知り自覚し伝なければ後悔すると思うぞ、一足遅かったでは……」



フッ…と笑いながら遠くを見つめるマックスの言葉は、とてつもない説得力を帯びていた。


マックスも過去に色々とあったんだろう…



『無知とは罪なものだ、知らなかったでは済まない』



「一日で一億五千万マルクスか…クックックッ悪くない…だが断片的に見たその女の心は恐ろしいものだったぞ、そなたに耐えられるのか?」



アリスの心を覗くなんて…そんなの



「本当にいいのか…アリス…」



「あなただから知って欲しい…私は一人でもフェンリルを追う…」




分かったよ……


フェンリルの呪い…それを知れば…まだアリスを救う手もあるかもしれない!!




「では、タカヤ・シンドーとアリスよ背中合わせで、妾の前に立つがよい」


言われるがままリンの前に立ち背中合わせでアリスの手を握る。


リンとソフィアは俺達を囲むように手を繋ぐ。



「行きますわ!!」


「心が壊れても妾は責任が持てんぞ!!」



四人を包むように虹色の魔法陣のような物が展開する。



アリス……俺は…どんなアリスを見ても絶対に救ってみせる!!



絶対に……





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