第27話 ユーマ・シンドー



綺麗な人だ…




アリシア・ヴォールク…人狼族の元貴族…


こんな綺麗な獣族…いや人間は見たことがない。

サラサラの銀髪に可愛らしさを感じる寝顔。



起きたら…いったいどんな表情を見せるのだろう…


今頃帝国は大騒ぎになっているはずだ。



不浄な獣の血が混じる獣族の娘を見初めて、ウラヌスの伯爵という地位を捨てるなど、正気の沙汰ではない。





『勘違いするな、この女など使い捨てだ…だが…まだ利用価値がある』




ギリッ


思わず歯を噛み締めてしまう。



タカヤ・シンドー……あんな悪辣な男の側にアリシアを置いておけない!


あの人間離れした剣の太刀筋には一切の迷いが無かった…


試した等と言っていたが防げなければ首が落ちていただろう。




悪辣な…か…



「一族を裏切った僕も同じようなものかもな…」



ベッドで眠るアリシアの胸元をはだけさせる。



「あの化け物に…こんなになるまで使い倒されるなんて…」


紋章の色が薄い…一目見て実験体と同じ症状だと理解した。



大陸弾道サイ兵器グングニールの実験体



父の元で嫌と言うほど見てきた精神力を燃料に使われ廃人と化した者。


幸いな事に、この非公式の研究施設には回復装置がある。


帝国が認めず私費を使い長年かけて作り上げたものだ。



完全な廃人になる前なら意識を取り戻すことは可能だ。


紋章が消えてしまってたら意識を取り戻しても生きる屍になっていたところだ。



アリシアに首輪を装着し、装置のケーブルを繋いでいく。



「頼むから持ってくれよ…僕の力」



導力を注ぎ込み装置を起動した。




………………………





「ユーマとアリシアはまだ見つからんのか!!!」


エドガー・マクスウェルは激昂しながら城の渡り廊下を闊歩していた。


「妖狐族の神官に使者を向かわせてますが早くて3日はかかるかと…」


駄目だ!間に合わない!あの狡猾な英雄を3日も欺(あざむ)くなど不可能だ!!



どういうつもりだ!ユーマ・シンドー!!!

英雄の一行を拉致するなど、下手を打つと帝国の壊滅は免れない!



「全兵力を動員して城下街、近郊をしらみつぶしに探……せ……」



突然、目の前に三人の姿が現れる。


タカヤ・シンドー!!!英雄一行だと!?


全身に青白く光る筋!紋章なのか!?これは!!!これが神にも等しい力!!


スーっと紋章が消え、こちらを睨みつけてくる。



「アリスを何処にやった!!答えろ!!」



…………………………





ええ…キレてますよ………こっちはよ!!!



なかなかフザけたことやってくれんじゃねーか…ええ?おい!!



「まっ待ってくれ!!これは帝国の意思ではない!早急に調査中だ!ユーマ・シンドー個人の反逆と思われる」



こいつはたしか、皇帝の横に控えていた偉そうなオッサン



「社員の不始末は会社の責任って社会の常識しらないの♪」



「むぐっ!!」


できるだけ柔らかく言ったつもりだが絶望の顔で狼狽えるオッサン



「嘘は言ってないようですわ、妖狐族の神官に使いを出してるようですが三日はかかると」


「タカヤよ、ここで面倒を起こすより急いだほうがよいぞ」



あの幼女巫女か!



『ミツエ村の神殿だ行けるか?』


『問題ない』


「金はお前ら帝国にツケとくからな!」



再び悪霊に意識を委ねた。




…………………………




ここは……どこ……


見慣れない屋敷に見たこともない大きな置物がある。


たしか、キーテジ村で…


頭が重い…思考が回らない…


起きてみると身体も鉛のように重かった。



辺りを見渡してみると床に…



「タカヤ!!!」



すぐにベッドから降り彼を抱き起こす。



違う…



黒髪でうつ伏せに倒れていて見間違えたけど……誰…?



「う…く……気が付いたのかアリシア……」



目が覚めた男は私の…


「誰!?どうして、その名を!」


すぐに起き上がると椅子に腰掛ける男




「はじめまして、ユーマ・シンドーだ、帝国の伯爵…いや元伯爵だな」



シンドー!!タカヤと同じラストネーム!


どうして!?どういうこと!何日寝てたの!?



「混乱するのも仕方ない、君はサイを酷使させられて精神力が尽きて1週間以上眠っていたんだ」



「まずは食事を…」




「タカヤは何処!!」



「………奴か…奴なら帝国に居る」


「すぐにタカヤのところへ」




「駄目だ!!!あんな男のもとへ君を行かせない!!」


立ち上がり私の前に立ちはだかるユーマ



なんで!?


「僕は君を救いたい……あの男は君の紋章が消えるまで都合よく利用するつもりだ」


胸がはだけているのに気が付き体を確認する。


「心配するな、乱暴なことはしていない」


意味がわからない……何があったの…


「タカヤ・シンドーは君の治療を条件にウラヌスと手を組むことにした」





えっ…





「君を使い捨ての駒だと言い放ったんだ…タカヤは君を売り、皇帝ブライト・ウラヌスはイザとなれば君をグングニールの燃料に使うつもりだ」



「そんなデタラメを信じると思ってるの?」



「………タカヤ・シンドーとはどんな関係だ…」




関係……タカヤは…私の…



「大切な関係なら、治療を頼むにしろ君を軽んじ危険に晒すことはしないはずだ」


「あの男は英雄なんて立派なものじゃ……………」





パーーーーーン





「あんたにタカヤの何がわかるのよ!!!」



「…………獣族の力で打たれていたら痛いでは済まなかったな…」



力が入らない………導力も通らない……



「その首輪は獣族の力もサイの力も封印する、本来なら罪人に使う為に開発したんだが」



「君にサイは使わせない、これ以上サイを酷使するなら精神が壊れ抜け殻の廃人になってしまう」




廃人…だから?……私はフェンリルを!!



「僕は君に幸せになってほしい、その為なら君に嫌われようと…世界中を敵にしようと構わない!!!」



『俺はアリスに幸せになって欲しいと思ってる!!』



あ……タカヤと同じ…



「何が……目的なの………」



「目的?願望なら…そうだな、僕と一緒になって欲しい」


な!!






「言葉の通りだ、僕はアリシア…君に求婚している」







「初対面で何も知らないのに!ふざけないで!!」



「分かってるよ!!!僕だって!!どれほど馬鹿な事を言ってるか!!馬鹿なことをしたか!!」



突然の叫声に思わず怯んでしまう。




「……………食事を取ってくる、悪いが鍵はかけさせてもらう」




「君の様子を見るに……外に出たらタカヤ・シンドーの為にサイを酷使する…」


「その力をタカヤ・シンドーの為に使い!破滅するなんて僕は見たくない!!」



バタン



扉に鍵をかけてユーマは出ていってしまった。


窓や他の出入り口なんてなく、この厚い壁を壊す力も無い。







タカヤ…………私は……この力が無いと、一緒に居る資格なんて……


いえ…生きる資格なんか無い……




フェンリルへの復讐だけ出来ればいいと思っていた…



誰かの大切な人を奪い続けた私は……フェンリルと共に消えなければならない……



でも……なんで……タカヤの近くに居たいんだろう…


フェンリルは私の私怨でタカヤは関係ないのに…


私は何がしたいんだろう…………





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