第26話 ウラヌス帝国



ミシディア大陸を散策して3カ月が過ぎた。



「むん!!ハーーー!アリス!鳥は任せた!」


マックスの正拳突きで雲散霧消する獣のミラージュ


「はいはい」


紋章が光り火球の連射を空に向けて放つアリス



「最後の一匹は、いつもみたいに残しといてくれよ」


勝利の剣で自動戦闘する俺



「そこでフレッドはマイケルを抱きしめて…違う…もっとドラマチックな…ブツブツ」


小説を書くソフィア






なんかもう、戦闘も慣れたもんだ。


さてと…最後の一匹を…


『悪霊!やばかったら助けろよ!』


『俺は助けない一人でやれ』



「グルルル……」


剣を…構える…

カウンターだ!対空昇龍拳のノリだ!


「グオォォォーーーー!!」


うお!?速…!オラッ!!



ズバッ!!!



バラバラになる獣…



「ギリギリセーフ…」


「やったな!流石我輩の主!!」

「まあヒューマンなら上出来じゃないかしら」



初めて自力でミラージュを倒せた!!


人類にとっては小さな一匹だが俺にとっては大きな飛躍!!



このキーテジ村に来るのは三回目だ…

三回共村が襲われてるとか…



あれから…しらみつぶしにミシディア大陸を探したが、どこにもフェンリルの手掛かりなんてねーよ…



ミラージュの数と遭遇回数は増えるだけ…



「ソフィアまた読んでくれよ」


「何回やっても悪霊様の雑音は読めませんわ」



唯一なんか知ってそうな悪霊から情報も出せない。



「タカヤ様〜」


おお!あの太陽に反射して24カラットの輝きを放つ頭は…たしかトーマス神官!



最初に助けた時は涙を流して感謝されたっけな…



俺達に向かい礼を言う神官


「あっあの…ありがとうございました…でも…その」


なんか歯切れが悪いな?



「さっさと来いよ!ったく使えねーなー屋根壊れたじゃねーか、こっちは高い税金払ってんだ……と言っていますわ♪」





お黙り!!ハゲ!!!!





「い…いえ…私はそのような…」


「私は化け物じゃないですわ♪」


「ひっ……」


バツが悪そうにトーマスは逃げていってしまった……



「殆どの人がタカヤ様に尊敬や畏怖の念を抱いていますが一部…」


「さっさと魔王倒してくれよ、こいつの自作自演じゃないのか、早く付き合っちゃえよ、と思う者も出てきてますわ」



最後のはおまえの願望だろうが!




呆れたように言うアリス



「まあ、そんなものよ民衆なんて、帝国領なら何処に行っても格別の好待遇、それらに公費が使われているなら……」



『やってやったんだから成果を出せか…』



冗談じゃねーぞ!!!こっちは勝手にヒーローに仕立て上げられて大迷惑しとるのだ!!



しかし……タダ酒だからとオネーチャンの店を毎晩呑みあるいたのも……ほんのチョットだけ悪い気もする…



タカヤ教なる、訳のわからん新興宗教が俺の加護入り聖水とか

水素水より怪しい物売り出すし…




「目立ち過ぎるのも辛いのう、タカヤ」






「あ……れ…」


ふらつくアリス


つ「どうした?アリス?」


「頭が痛い…なん…なの」


ドサッ…

膝から崩れ落ち倒れるアリス……


アリス……おいアリス…おい…どーした?


「アリス!!!」




……………………………






精神力切れらしい


テントのベッドで眠るアリス…


もう一週間も起きない………

起きてくれよ…頼むよ…



フェンリルの呪い

今まで、あんな馬鹿みたいな力を使ってきて無事だったのが奇跡だったのか……




「普通なら精神力切れは一晩もすれば回復するのですが…タカヤ様の時も長かったですわ…」



気を使うように言うソフィア



水は何とか飲めるようだが、こんな状態が続いたら……



「サイの研究が進んでいるのは、やはりウラヌス帝国…一度帝国の医師や神官に診せてみるのはどうだ」



マックスの言うとおりだ…だが…



『胡散臭すぎるな…素直に歓迎されればいいが』


そこだ、しかもアリスは元敵国の人狼族



「帝国に行くぞ」



『大丈夫なのか?』


『知らねーよ、だけどアリスが衰弱していくのは見てられない、いざとなったら瞬身で逃げればいい』


「そうだな!我輩もこのまま何もしないのは歯痒い」


「何か悪意を向けられたら私がお知らせしますわ♪」



行こう神聖ウラヌス帝国へ




…………………………




神聖ウラヌス帝国 会議室



「英雄の足取りはどうなってる」



苛立ちを隠せない様子で公爵エドガー・マクスウェルは発言する。



「どうも瞬身でミシディア大陸を渡り歩いているようで、何処に現れるか予測もできないようでして…」



会議室の末席に座るユーマ・シンドーは眉をひそめた。



瞬身だと…馬鹿な……あんなもので何百km何千kmも転移できるもんじゃない…



「リールーを破壊した魔王から治癒で民を救い、最近では神と崇める者も出ているようで」




街を丸ごと治癒なんて…それも馬鹿げてる、常人のヒューマンなら擦り傷1つ治癒するだけで意識を失うものだ。



「英雄一行……各地でミラージュを討伐しているが真の目的が分からない…」

頭を抱えるエドガー





異界の英雄 タカヤ・シンドー

大導力師 アリシア・ヴォールク

拳聖 マックス・ガントレット

聖王女 ソフィア・マール






神にも匹敵する力を持つ英雄


元ヴォルフガング王国侯爵令嬢 人狼族始まって以来の天才戦士


獣族最強の身体能力を持つ人虎族 族長の子息


民の信頼が厚く人心を掌握する妖兎族変異体であり聖女と名高いマール王国の王女




錚々(そうそう)たる連中じゃないか

 

もし…タカヤ・シンドーが打倒帝国などと声を上げてしまえばクーデターは必至…


世界情勢がひっくり返ってしまう……


時代の変革者……ハハッ…伝説の通りじゃないか!



「リールーに出現した魔王の情報はまだなのか!」


怒りすら感じる強い口調でエドガーは言い放つ。



「諜報が捜索していますが、いかんとも…」



「ホッホッホ嘘から出たまことじゃの〜」


苛立つエドガーとは対象的に皇帝ブライト・ウラヌスは白髭を触りながら余裕の笑みを浮かべている。



「アリシア・ヴォールク…たしかリチャード・ヴォールクの息女だったか?ホッホッホ」




「人狼族の貴族、王族は被爆地の中心に居たので全滅したかと思われてましたが……諜報部によるとそのように伝わっております」



だが、元伯爵の子息キース・ローウェンも生きていたじゃないか…



アリシア・ヴォールク……人狼族にして英雄ほどではないにしろ、規格外のサイを操ると聞く



そんな奴が野心や復讐心も抱かずに潜んでいたなんて……考えられるのか?



もし帝国への復讐の為に英雄に加担していたとしたら…



「何とか英雄とコンタクトが取れないものか…」

考え込むエドガーだが妙案は浮かばなかった。




ドンッドンッ!!



厚い会議室のドアがノックされ、エドガーが立ち上がり

八つ当たりでもするかのように扉を開け騎士団長に叫ぶ。



「重大な会議だと伝えただろ!!!緊急事態でもない限り報告はいらん!!!」



「しっ…しかし、城下街の中央広場に英雄が現れたとの情報が!」




「なんだと!?」




………………………………




俺達は今、ウラヌス帝国謁見の間の前に居る。



驚いたよ…転移してテントから出たら街の人々が土下座で平伏してきたんだから。



そのまま帝国の兵士が駆けつけ連れられてきてしまった。




「失礼ながらマール王国 王女ソフィア様は別室で待機して頂きたい」


偉そうな鎧のオッサンに指図される。



「それは無理ですわ♪悪意が無いなら問題ありませんわよね?」




「ソフィア様も王族…一国の重大な謁見、察して頂きたい…」




腹の探り合いをしたいって事か…たしかにソフィアの共感能は厄介だ。



「大丈夫!ソフィア任しとけ!俺がアリスを何とかする」



「ですが…いえ…信じていますタカヤ様」



謁見の間に入ると、玉座に腰掛ける皇帝と偉そうなオッサンがズラッと並んでいる。



採用面接よりハードルたけーよ、ちきしょーーー


だがアリスの為だ頑張れ!俺!!



「そなたが異界の英雄タカヤ・シンドーか…」


「その通りだウラヌスの王よ」




クールでニヒルな英雄キャラで対応する。


今までの事から、とんでもない食わせ者のタヌキじじいだと思える。


この手のタイプは弱気になって相手のペースにハマるとダメだ!!



「それで…なんの要件だ、さっさと済ませたい」



「単刀直入に言うぞ、タカヤ・シンドーよウラヌスの貴族にならんか?勿論、相応の待遇で迎えよう」



なに言ってんだ!?このジジイは



「既にそなたの、名声は世界中に広まっておる。正式に我が国へと迎えたい」



「英雄ともなると民の期待には答えたくなるものではないかな?」




「断る!」




「ふむ、名誉欲は無いのか…しかしタカヤ・シンドーよ断った場合、我が国を敵に回す事になるぞ、都合の良い情報操作など容易い」



「降りかかる火の粉は払うだけだ」


勝利の剣を抜き王に向けて威嚇する。

騒然となる謁見の間



いきなり脅してきやがったよ!このジジイ



「だが…条件次第では考えてもいい」


「ほう…聞こうか」



「俺の条件は3つだ、聖典を寄越せ、そこの人虎族の背に乗る娘の治療をしろ、獣族にヒューマンと同等の人権を寄越せ」



聖典はいわずもがな、アリスの治療と、俺達の安全性が保証される条件だ!!


一国の法を変える…流石に簡単には



「よかろう!それで手を打とうではないか」



は?


「聖典とは、そなたが持ち込んだ本だな、本来なら国宝として保管したのだが…まあよい」



「獣族の件に関しては終戦後の反乱分子を自滅させる策だが、既に役目は終えておる」



「その娘、アリシア・ヴォールクは精神力の枯渇か、それも我が国のサイ研究の権威を紹介しよう」




アリシア?




「そんな事でそなたを帝国に迎え入れられるのなら安いものだ、ユーマ・シンドーよ前へ」



「ハ!」


俺と同じ黒髪と黒眼の男が10mくらい離れたところに立つ


「伯爵ユーマ・シンドーだサイ研究を……」




カキーーーーーーーン!!!!




音速の速さでユーマを斬りつけるが、素早く抜刀し防がれる。




『何やっとんじゃ!!悪霊!!!コラ!!』


『なんでもない……』


すぐに制御を解かれるが後の祭りだ……


既に騎士の方々は剣を構え戦闘態勢だ。


マックスも構えて警戒している。



どーーすんだよ!!もうテキトーにハッタリを



「はっ!試させて貰ったんだよ!!この程度を防げないようでは信用は出来ない!」



剣を鞘にしまう。


あーーーーーもう!胃が痛い!!



「お前達も剣を収めろ…敵意があるなら城ごと破壊する」



狼狽えながら、剣を収める騎士の方々。



「流石の腕前じゃの〜アリシアに対する思い入れがあるのか?」




「勘違いするな、この女など使い捨てだ…だが…まだ利用価値がある」



「タカヤ!それは…」



腕と目配せでマックスに合図する。



ここで世界中敵にしてでもアリスを救いたい!

なんて大昔のドラマみたいな事言えば弱みを握られてしまう!!



アリスが人質になる危険性もある。



「とてつもない剣撃だ……タカヤ・シンドー、アリシアは私が責任をもって診させていただく」




「貴族入りはこの娘の治療が終わってからと約束しよう」



「話は決まったようじゃな、ユーマよアリシアをしっかり治療してやるのだ、ホッホッホ」






…………………………



一晩明けても疲れは取れなかった…




『きっつーーー!あの空気無理だわ!!クールキャラ気取るのも無理あるだろ』



『わりと性格の悪さが滲み出ていてサマになっていたぞ』



昨日の件をソフィアに伝えながら宿で朝飯を食う。


アリスはユーマが診る為に治療施設に預かって貰っていた。




「いいのですか?帝国の貴族なんて」


「どうせ、お飾りだろ」



「後、少し言いにくいのですが窓の外に見える騎士から、とんでもない焦りが見えまして…その」



「なんだよ」



「アリスお姉様とユーマ・シンドー様が行方不明になったと…」




えっ!?





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