第43話 神藤貴也 4
「アリシア、俺と…結婚してくれないか」
アカシック・レコードが稼働し3年
お互い26歳になり、アリシアはアカシック・レコードをアースガルズに委ね俺達エインヘリアルの拠点があるヴォルフガング連邦に亡命した。
俺は相変わらず犯罪者として追われていたが、思い切って胸の内を告げた。
「ちょっと!場所を考えてよ!」
キース、マックス、ホクサイ、エドワード、ソフィアがポカーンと口を開けて放心している。
アカシック・レコードの運用が上手くいき優真の手によって地球環境は少しずつだが再生に向かっていた。
だが核による汚染と資源戦争で世界人口はすでに10億人を切っており俺達の世代で完全に回復する見込みはなく
地球と人類の命運は次世代の人間に託されることになる。
アリシアとの子供が欲しい、次に託せる未来が欲しかった。
「まあ!素敵ですわ!」
「いいんじゃねーの?アリシア結婚なんて制度もう無いけどよ伴侶になる事を誓っても」
エドワード親子が茶化すようにアリシアに同意を求める。
「妬けるわね…貴也は私がアプローチしても、貴女が居るからなびかなかったのよ♡」
「マックス黙れ!」
ホクサイに突っ込まれるマックス
「いいんじゃないのかい?むしろ遅すぎるくらいだよ」
一瞬、シーンと静まり返った作戦会議室が賑やかになる。
「もう……貴也ったらロマンも何もないんだから…まあそんなとこも貴也らしいけど」
「いや…返事が欲しい」
少しだけ照れくさくなって、素っ気なく言ってしまう。
「わかってるでしょ…宜しくお願いします」
「うぉぉぉぉーーーーー!!!」
一斉に歓声が上がりマックスが抱き上げてくる。
「ちょっと!ソフィア!」
ソフィアに飛びつかれ倒れてしまうアリシア。
「おめでとうございます!これで婚約者なのですね!私、本でしか読んだことないですわ」
ソフィアはエインヘリアルに来てから、俺の趣味である本を読み漁っていたからか、そんな知識がある。
俺がジャンクだと廃棄しようとした同人誌という昔のカルチャージャンルに目がないようで、全てソフィアに持っていかれてしまった。
「キース様マックス様との三角関係から、最後には幼馴染のアリシア様を選ぶ貴也様♡」
「誰がいつ三角関係になった!」
これくらいの女子は色々と恋愛妄想するようだが、圧倒的に男が多いエインヘリアル……環境が悪かった…
「優真には報告しなくていいのかい?」
「そうだな、優真には色々と世話になったからな」
………………………
「そうか、おめでとう兄さん」
Psyによるホットライン、アカシック・レコードを管理する優真にはアースガルズにバレないように通信することができる。
「ああ、ありがとう優真、お前には本当に世話になった…俺達の事がバレたらお前にだって迷惑がかかるのに…」
「別に兄さんの為にアカシック・レコードを運用してるわけじゃないよ、アリシアの頼みだから」
そういや昔、優真はアリシアに恋心を抱いていたが今はもう未練などは無いのだろうか?
「無神経かもしれないが、お前はもうアリシアのことは…」
「僕はアリシアが幸せになって欲しいんだよ」
優真……
「そうだ兄さん、一度そっちに行っていいかな?通信で報告だけじゃ寂しいじゃないか」
優真がエインヘリアルにか…
「まあ優真なら構わないだろ、アリシアも祝ってもらえるなんて喜ぶよ」
…………………………
「優真をエインヘリアルに招待するなんて大丈夫なの?」
少し不安そうな顔のアリシア、表向きは廃墟と化した街で優真を待つ。
「優真なら問題ないだろ」
一応はアースガルズの人間だが、俺は優真を信用している。
この街の地下に元ロシアの大規模核シェルターがあり俺達エインヘリアルの拠点となっている。
「あれは…優真か?」
夕闇に浮かぶ1台の空輸車(トランスポーター)が俺達の上空で静止して降りてくる。
プシュー
ハッチが開き、見慣れた優真が降りてきた。
「よう優真!逢うのは久しぶり…」
「動くな!!」
バタバタと優真の後から特殊部隊が降りて、俺達に電磁銃(レールガン)を構え威嚇してきた。
「アースガルズの特殊部隊……どういうことだ!優真!」
「どうもこうも無いよ…世界政府への反逆罪…テロリスト神藤貴也!貴様を拘束する!」
なん……だと………
「何故なの!優真!!あなた、私達の地球再生に賛成してアカシック・レコードも運用してくれたのに!」
「確かに僕は地球再生に賛成だよ、アリシア」
「だけどさ……兄さんも自覚あるよね……兄さんの存在が、この惨状を招いたってさ」
そんな……馬鹿な……優真…
「貴也は、Psyによる崩壊を食い止めようとして!それにアースガルズはあなた達のファーザーを!」
「それも!これも!!全部兄さんが招いた結果じゃないか!!」
「それに僕達の父、ブライトは新たな新天地を創造しようとしている、僕はそれに協力するまでだ」
「ブライトが…父だと!?」
「そうだよ…僕達は遺伝子編集(ゲノムエディット)されているとはいえ元の遺伝子は十賢人の一人ブライトなんだよ」
「もっとも…十人の賢人もウラヌスのブライトとヴォルフガングのクラウザーしか生き残ってないけどね」
「ヴォルフガングの資源は僕達が貰い、残された時間でアリシア…君のアカシック・レコードで新たな理想郷(ユートピア)へと移住する」
「兄さんではアリシアを幸せにすることは出来ない…僕とアースガルズに来るんだ、アリシア」
なんだよ……それ………何なんだよ!!それは!!!
「行くわけないじゃない!!馬鹿言わないで!」
「そうかい…それなら……やれ」
2時の方向に四人!10時の方向に二人!!
咄嗟に懐に入れていた拳銃(デザートイーグル)で奴等より早く引き金を引き電磁銃(レールガン)を撃つ!
ガガガガガガン!!
Psyに頼った自動照準(オートエイム)には一瞬のタイムラグがある。
体捌きもホクサイに鍛えられた俺から見たらスローモーションに見える。
「アリシア!!逃げるぞ!!」
俺のPsyから奴等のPsyに幻覚を投影しアリシアを引き連れ路地に走る!
「くっ!なんだ!これは!」
エドワード特製のハック機能だ、今のうちに……
「無駄だよ!兄さん!既にエインヘリアルの拠点には殺戮のアーキタイプを付与したホムンクルスを送り込んだ!投降しろ!!」
マックス達が!!
拠点の入り口まで何kmある!?アリシアの体力じゃ全力疾走はできない!!
……………………
「はぁ…はぁ…貴也……私を置いて地下まで……はぁ…はぁ…」
どれくらい走っただろうか、まだ半分も距離を稼げていない…
「出来るわけないだろ!奴等に連れて行かれたら何をされるか…」
ビルの隙間でアリシアを休ませ…辺りを警戒する…
奴等のPsyでは俺達を探知できないはずだ…
だが…何かの気配がする……Psyの探知にはかからないが…俺の感が悪意と殺意を警告していた。
「シャアァァァーーーー!!」
闇夜から獣のような眼を輝かせながら尋常じゃない速さで飛び込んでくる人影!!
ドン!!
「ぐうふぅ……ガハ…!殺す……こんな苦しみを与えた…お前達人間を…」
撃った弾丸が命中したのは……ホムンクルス……
だが、店に居るような無機質なホムンクルスじゃなく
感情を剥き出しに怒りを放つ…血だらけになった人豹型ホムンクルス…
「銃声がしたぞ!!そっちだ!!」
「くそ!なんだ!この化け物は!」
「幻覚に惑わされるな!ムーブ!ムーブ!!」
マズい!かなり近くまで追手が迫っている!
「貴也……私が優真のところに行くから…逃げて…」
「ダメだ!」
出来るわけないだろ……そんなこと…
「兄さん、居るんだろ」
優真……
今、優真と奴等を撃ち殺すのは容易い………
今の俺なら…………
『ねえ…兄さん…僕もファーザーみたいな立派な研究者になれるかな?』
子供の頃の優真が脳裏によぎる…
出来ない…………俺には優真を殺せない……
ガシャ……
「アリシア!!待て!何処へ!」
考え込んでいる俺を振り払い駆け出していくアリシア…
まさか…優真のところへ…
すぐに追うが……
「優真!私は投降するわ、だから貴也を!」
「な…なんだよ!父さん……今更僕のところへ…」
マズい、優真が見ているのはアリシアじゃない!!神藤悟の幻覚!!
「違う……違う!違う!!僕は父さんを思って……全て兄さんが!!僕は!僕は!!アリシアを!」
ダメだすぐにPsyの幻覚を止め……
バシュ!
「優……真………」
「アリシアーーーーーーーー!!!!!」
撃った……優真……が…アリシアを……
「なんで……なんで…父さんが…アリシアに…」
優真に近接戦闘をしかけ、首を取る。
「なん……で……」
すぐに落とし、アリシアへと駆け寄る。
「アリシア!!!アリシア!!」
腹部から大量の出血……これじゃ……まるで…あの時の…
「かはっ…」
吐血する。
「……だめ…ね…もう」
ダディーと同じ……
「喋るな!!!大丈夫だ!!すぐに治療を!」
そんな……俺の大切な人は……なぜ…こんな……
「私が…いなく…ても…ご飯はちゃんと食べて……ね…あなたは没頭したら…食べない…から」
「そんなこと言うな!!!すぐに連れて行く!!」
アリシアは!アリシアだけは何としてでも!
「最後に……ワガママ…聞いて…くれる…」
アリシア……俺の救いの女神……
「嫌だ!!!嫌だ!!!駄目だ!!逝くな!」
アリシアの血の気が………
「忘れて……くれたほうが、あなたの…為なんだけど……私の…こと…忘れて…ほしくないな…」
手を握りPsyを通して何かが……
握りしめた手と手が青白く光る…
「私は……本当に……本気で……あなた……を………愛して………」
繋がれた手が…解け…落ちる…
眼の光が…消える…
「嗚呼あああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
…………………………………
2年後……
あの後一年ほどの記憶が無い…
アリシアが託してくれたのは、アンチアカシック・レコードプログラムだった……
『貴也様……』
亡きソフィアの残留思念が悲しみを伝えるように呟く。
あの後……エインヘリアルは壊滅的な打撃を受けた……
ソフィアを殺されたエドワードも俺と同様に廃人のようになってしまっていた……
俺に残されたのは、ソフィアの形見である人格投影(ペルソナリティープロジェクション)とアリシアが残したアンチアカシック・レコードプログラム……
「どうしても…やるのね…」
エインヘリアルは荒廃したウラヌスの領土に拠点を移していた。
全てが灰色に見える、心配そうに声をかけるマックスからも諦めたような雰囲気が伝わってくる。
「ああ…エインヘリアルはお前に任せるよ…マックス…」
許せない……アースガルズもブライトも優真も……いや、決断できなかった俺自身を……
「そんな事をしてもアリシアは帰ってこないわよ…」
「もう…どうでもいい…」
もう何も未練はない……アリシアの居ない世界なんて興味もない。
最後にアリシアの意思……アカシック・レコードを屠る…
それだけ…できたら…俺は………
…………………………
「気がついたかね、神藤貴也…」
頭が……痛い……たしか…アカシック・レコードの前で…
「単独潜入なんて……それでいて、こちらの被害は尋常じゃない…流石は兄さんだ」
ブライト!!優真!!
「兄さんを見習ってね…原始的な帯電トラップだからPsyでは探知できなかったろ」
「優真!!貴様!アリシアを!アリシアの意思を!」
歯が砕け散りそうなほど力むが、身体の自由が効かない!!
「黙れ!兄さんが!!兄さんがアリシアを殺すように仕向けておいて!!」
「兄弟喧嘩はそこまでだ、接続するぞ」
なんだ!?この装置は…
「アカシック・レコード接続します、精神展開薬注入」
ぐっ……視界が…歪む…
「兄さん、気がついてないみたいだね…まあいい…さよならだ、兄さんの精神はここで死ぬ」
「まだ一度も成功していないが…君なら我々を新天地に導いてくれると信じてるよ、君の想いは強そうだからな」
これは…俺をモーフィングの実験体にするつもりか……
「今まで魔術師や賢者のアーキタイプの人工精神体を入れた被験者でも上手くいかなかった…道化師など大丈夫なのか?優真」
「大丈夫だよ…兄さんには彼を憎めないはずだ…」
アカシック・レコードのあれに気がつかれていたのか……
「無駄だ!アリシアが居ない今、因果律のコントロールはできない!」
「それはどうかな?兄さん」
「絶対に…お前らを許さない、たとえ悪魔になろうと…怨霊になろうと貴様等だけは……俺は戻って来る!必ずお前達を…殺してやる…」
頭の中が白く……
「まずは兄さんの中にある………」
もう音も聞こえない…
アリシア……俺は……お前の居る、あの世には行けないかもしれないな…
もし……あの世が…輪廻転生があるなら……次の人生は幸せに……なって……
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