第44話 過去への潜入



『午前7時30分、血圧、脈拍正常、おはようございます。神藤貴也様』


プシュー…


ここは……そうか…神藤貴也の寝室…



カプセルが開き、目が覚めた…


あれが悪霊の記憶……人生…



ブゥゥン…


『おはようございます、タカヤ様……その…大丈夫ですか?』


ソフィアのホログラムが心配そうに俺を覗き込んでくる。



「あぁ…ちょっと来るものがあったけど、大丈夫だ…」



ソフィアは心配してくれるが、アリスとアリシア…

俺と悪霊は別の人間だ。


「なあ、ソフィア…アースガルズがエデンに来たら…」


『恐らくは、Psyや近代兵器で先住民を駆逐し惑星そのものを乗っ取ると予測されますわ』


アリス達が無事では済まないってことだよな…


「よし!じゃあ俺の目的は決まったな」


『アカシック・レコードを破壊するのですね』


「いや…アースガルズをぶっ潰す」


俺には俺でやらなければいけない事がある。

アリスを…あの世界エデンを護らなければ、それに…あの弟は気に入らねー!


「確かに中身は別人のようね…」


「マックス…」


寝室の自動ドアが開きマックスが入ってきた。


「おはよう♡タカヤ!朝御飯よ♡」


『おはようございます!マックス様、私を通して呼んでくだされば』


「朝御飯に寝室まで呼びにいくなんて♡新妻みたいでトキメクじゃない♡」



悪霊の夢も最悪だったけど…寝覚めも最悪だった……



「服はソフィアに作って貰ったみたいね、それを着て昨日の会議室に来てちょうだい♡」


この服は………


……………………………



エインヘリアルの会議室に昨日のメンバーが既に朝食の準備を進めていた。


「こんな物しか用意できないけど

、これでもタカヤを歓迎したご馳走なのよ」


そりゃ、こんな世界だから仕方ないとはいえ、謎の肉とフランスパンらしき物と具の少ないスープ…



「いつもは完全栄養食の味気ないブロックなんだけど、奮発しちゃったわ♡私の愛を感じて食べてね♡」


こちらのマックスもオネェだけど、やっぱ良い奴っぽいよな。



キースが席に着き、なにやら発言する。


「食べながら聞いてほしい!タカヤ・シンドー、君はエインヘリアルに加入して何がしたいんだい?」


「俺は昨日、悪霊……いや神藤貴也の過去をソフィアに見せてもらってさ…それでアースガルズをぶっ潰してやりたいんだ」



「神藤貴也は最後まで、その決断ができなかった……神藤優真のことを割り切れなかったんだよ…本当に君は別の人格なんだね」



だよな……俺には幻の過去しかないが、悪霊の気持ちになると……



「ああ…俺はこの世界の人間じゃない!第一優先はアリスを救い、元の世界エデンに帰ることだ!」


「そうかい…それじゃ、君には一度エデンに帰ってもらうよ」


なんだと!?


「アカシック・レコードを奪還しないと無理じゃないのか?」


「天才の僕を見くびるんじゃないよ、非戦闘員の僕が今まで何もしなかったと思うのかい?既に一部の機能はハックしてあるよ」


「ただし、行けるのは潜在意識を内包している君だけだ君にはエデンでアリシアの精神体を、この世界に連れ戻してもらう」


「アリシアを…どうやって…」


「食事を終えたら、僕の部屋にきてくれないか?そこで説明するよ」


「わかった…だけど今聞きたい事がある」


「なんだい?」


「この服は何とかならなかったのか?」


ボディースーツというのか…全身タイツというのか……

ぴっちりした黒の服に派手な青白い筋が光っている。


「なんだよ!!こりゃ!ゲーミングタイツか!!」


マックス達は格好良い感じの迷彩服なのに!!

なに?シ◯ッカー的な物なのか!?


新人はこんな恥ずかしい格好で構成員しなきゃならないのか!?


「あら♡お尻のラインがよくわかってセクシーよ♡」


「やかましい!!」


下っ端は変態(マックス)の供物に捧げられる運命だとしたら……



「ソフィアに頼んでいた、スーツだよ、それも含めて説明するさ」



………………



「ここが僕の部屋だよ」


ドアが開いたと同時に灯りが着く。


「なんだ…こりゃ…」


汚い……訳のわからない機械だのモニターだのが散乱している。


キースは美意識が高いと思っていたが、こんなところは研究者らしいと言えば、らしいけど…


それよりも、あれは……


「アリス!!!」


液体の入った水槽のような物に…アリスが居た。金髪のアリシアじゃなく人狼族で銀髪の…間違いなくアリス!


「なんで…アリスが…しかも…」


全裸だった…


慌てて水槽を体で覆い隠す。


「てめー!ふざけんじゃねーぞ!!俺だって最近見たとこなのに!!」


『ホムンクルスですわね、まだ何もプログラムされてませんわ』


「そうだよ、優真の技術は天才の僕にとって模倣するのは容易い、アカシック・レコードは簡単にはいかないけどね」



これが…悪霊の過去で見たホムンクルス…




「精神体をホムンクルスに移すんだよ…たしか…ここに…あった!」


キースがガサガサとゴミの山から何かを取り出す。


「これを着けて、そこの椅子にかけてくれないか」


これは…仮面…?


何処かで見たような…


「ダイブスーツとアンチアカシック・レコードを強化するヘッドセットだよ、これで過去のエデンでアリシアの転生体ごと、この世界に呼びに行ってほしい」



これ……あれだよな…アーカーシャで襲ってきたコスプレ仮面…


「過去って…そんなこと可能なのか?」


「量子論の世界では時間の存在は曖昧なものだよ、だけど矛盾(パラドックス)が起きるとエデンそのものが消し飛ぶ可能性がある」


なんとなく、見えてきた…


あのコスプレ仮面はユーマ・シンドーじゃなく俺か!


「わかったよ、俺にも心当たりはある、だけど向こうのアリスは、あの後普通に存在していたぞ」


「そこまで経験してるなら、成功したも同然だね。だけど過去を少しでも改変したらマズいし」


『私が、アリス様の記憶をスキャンして人格投影(ペルソナリティープロジェクション)を作りますわ』


「いいね!ソフィアも向こうに行けるから頼むよ」


つまり、俺が過去に見たコスプレ仮面と全く同じことしないとジ・エンドってことか、難易度高くね?


そんな事覚えて…………る!?


悪霊の影響なのか鮮明に記憶が残っている。


「うし!何とかなるだろ!ソフィア!サポート頼むぞ!」


仮面を被り椅子に腰掛ける。



「準備はいいかい?チャンスは一度きりだ、脳への負担がかかるから何度も行けるもんじゃない、長時間の潜入(ダイブ)も危険だ」


「任せとけよ!アリスに逢えるなら気合いの入り方が違うんだよ!」


ゴテゴテと配線やら管を着けられた椅子が光を帯び、装置が起動する。


『意識レベル4への潜入(ダイブ)準備できましたわ、アカシック・レコードのシグナル確認しました』


あれが人格投影のアリスなら本物のアリスの紋章は……まさか…


『潜入(ダイブ)します!』




………………………………




ここは…アーカーシャの上空か!?


自分の中にある導力を感じる。この世界のサイは問題なく使えるみたいだ。


『タカヤ様!あれが!』



アリスだ!確か、こうだったか?


掌をアリスに向ける。



『人格投影(ペルソナリティープロジェクション)を潜在意識にインストールしますわ』


緑の光がアリスを包み込む。


「なに!どうなってるの!!これ!タカ………」



『アリス様の精神体確保しました!人格投影(ペルソナリティープロジェクション)コピー開始インストールまで数十秒ほどかかります!』


『どうなってるの?これ?どこなの!?』


「アリス!黙って俺についてきてくれ!」


『誰!?』


「タカヤだよ!未来から来た」


『信じられないわね、タカヤならあそこに…』


『タカヤ様!高エネルギー反応確認!防いでください!』



そういや!そうだった!!


悪霊の放つ火球が目の前にまで迫っている!


【護れ!】


大振りになった勝利の剣が光を放ち防御フィールドを展開させる。


「やっべーな…これは…」


フィールドの外は火の海だ、悪霊のサイはまともに相手したくない。


『ソフィアの声が聞こえるけど…ソフィアは私をアリス様なんて呼ばないわ、あなたがフェンリルの幻影じゃないの?』


「信じてくれよ!アリス!」


『証拠は?』


火球を大量に作り出し、大地に向かって放つ!時間稼ぎだ!


ドドドドドド!!!


悪霊の導力で全て防いでくれるはず……


「証拠なら……アリスのヘソの左側にホクロがある!」


『なんで知ってんのよ!!』


そりゃ……あっ…そうか…まだ…


『アリス様、私はこの世界のソフィア・マールじゃありません、あなた方が神の国と言う世界から来ました』


地上の悪霊がアリス、ソフィア、マックスと合流する。


『インストール完了しました、ほぼオリジナルと遜色ないと思われますわ』


『あれは…私!』



確かここから……


勝利の剣をかなり弱く振り斬撃を出してみる。



ゴオォオオォ!



メチャクチャデカいのが出た…



バチバチ!バチィィ!


悪霊の防御壁を貫通しフィールドで受け止めている俺… 


『なにするのよ!やっぱり貴方フェンリルの!』


「だから違う!同じようにしなきゃ、この世界エデンが消滅しちゃうんだよ!」


同じように斬撃を繰り出す。



これを防がれて、数発斬撃を出してきたっけ


バチィィ!!


フィールドを消し飛ばす。


「あと数発斬撃を放ったら、あそこに居る俺が同じ攻撃を仕掛けてくる」


ザン!ザン!ザン!


弾速はかなり抑えたつもりだ。

避けてくれるはず…


『あなたがタカヤなら……私に最初くれた物がわかるはずよ』


アリスにプレゼント?そんなことした覚えがないぞ!


『アリス様の精神体が拒否するなら……地球に連れ帰ることはできませんわ』


なんだ!そりゃ!!!聞いてねーぞ!


思い出せ……金か!?いやそれは…あげたと言うより返した形だし…


「僕の初体験を捧げました!」


『してないでしょ!!!』


「真面目に言うと……ボールペンだろ?透明の棒で字が書ける」


『ふざけた事言ってるのを考えたら……あなた…本当にタカヤなの!?』


事実なんだけどな…


『避けてください!タカヤ様!』


げっ!もう斬撃撃ってくるの!!?


フィールド展開!!


急ごしらえのフィールドだが、元のパワーがあるのか、ギリギリで止めて壊れた。


「あっぶねー…信じてくれたなら、そのまま俺に意識を委ねてくれ!フェンリルの本体が居る世界に飛ぶ!」


『本当に同じ攻撃を…わかった』


『インドラネットにアクセスします』


次の攻撃が迫ってきた!早くしてくれ!!


『戻りますわ』




……………………………




「うお!!」


飛び起きるように椅子から立ち上がる。


「キース!アリスは連れてきた!どれくらい俺は寝てたんだ!?」


「お寝坊さんだね4時間は寝ていたよ」


「あの後すぐにアリシアの転生体を確認してね、ホムンクルスに移したところだよ」


シュゴーーー


アリスが浮かぶ水槽から液体が抜かれていたところだった。



「ホムンクルスと同期させるよ」


水槽が開くとアリスがゆっくりと眼を開く。


「タカヤ……ここは…どこなの…」


アリス!!本当にアリスがこの世界に来たのか!!


「成功したね、やはり僕は天才…美しすぎる僕のコードが生み出した奇跡…」


「キース!!あなた!なんで!?」


アリスの目の前に…なにか……


あれは!!発火のサイ!?


どんどん膨らむ火球をキースに向けて……


「やめろ!!アリス!それはお前の知るキースじゃない!!耳と尻尾が無いだろ!」


「なに!?どういう…」


アリスの前から火球が消える。


危うく…大火事になるところだ…


「自然発火現象(パイロキネシス)……どうなってるんだい!!それは!E=mc²……何も無いところからエネルギーなんて…ブツブツ…」


危うく死ぬところだったのに、キースは何やら悩みだした。


「ここが神の国、地球だ」


「これが!神の……え!…いや!!」


アリスは腕で体を隠し座り込んでしまった。


「とりあえず、服を貰えるかしら」


キースが居なけりゃ、そのままでいいんだが…


放心しているキースから白衣を奪い取りアリスに被せてやる。



その胸元には……



薄くなった紋章が浮かんでいた……





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