第47話 ラストバトル



「ぐっ………」


どうなってる……さっきまで調子のいい事言って俺達にエデンの橋渡しを頼んでいたのに……


初めて見るわけじゃないが、やはりキツい……


「扉が開いた瞬間血のニオイが漂ってきたんだけど…まさかね…」


「この感じだと、死後数分ってところかしら…」


アリスもマックスも俺よりは冷静だな…

いつ自分がそうなっても、おかしくない覚悟が見える。


そうだ、ここは戦場だ!気をしっかり持て!!


マックスのライトが辺りを照らし、何か水槽のようなものが俺達の周囲を埋め尽くしていた。


「正体不明の兵器や罠……生物兵器の化け物って可能性もあるわ………これって!?」


ライトが水槽の中を照らし出す。


「なんで…私が……」


水槽に浮かぶ……それを…俺は見たことがある。


『ホムンクルスの培養カプセルだよ……それにしても、この数は…』


周囲に広がる大量のカプセルの中には…沢山のアリスが…いや…少し違う…金髪で狼だけの特徴じゃなく虎や鹿など様々な動物の特徴がある。


中にはアリシアのように人間にしか見えない個体も存在する。


「遅かったね…兄さん…いや、今はタカヤ・シンドーだったね」


どこからか声が響き渡る。


「その声は…神藤優真か!!趣味わりーんだよ!美少女フィギュアでも飾ってるほうが、まだマシだ!」


ヒュッ


風を切るような音と気配を感じる!


「生態反応確認!速いですわ!」


「タカヤ!危ない!!」


ギン!!


甲高い金属音が俺のすぐ側で鳴り響きアリスが俺を護るように剣を構えていた。


「やはり君たちには闇討ちなんて小細工は通用しないみたいだ」


パチンッ!


指を鳴らす音が聞こえ、一斉に天井と地面のライトが白い光を放つ。


とんでもなく広い空間に埋め尽くされる水槽…

その奥に階段と扉があり…そこに奴等は居た。


「神藤優真!!」


白衣を纏った…悪霊の記憶で見た…間違いない!あれが…あのクソ弟だ!それに横に居る…剣を構えた時代錯誤なコスプレ野郎は!


「ユーマ・シンドー!?」


驚いたように呟くアリス、だが少し違う……狼の耳と尻尾があり…まるで人狼族のようなユーマが立っていた。


「おまえ!ユーマ・シンドーか!おまえも、この世界に連れて来られたのか!!」


返事が無く……なんの反応もない…ただ項垂(うなだ)れて立ち尽くしている。


「無駄だよ、彼はホムンクルスに精神体を移す際に人格と記憶を改変させてもらった…僕のボディーガードとして存在している…」


くそ!外道が!!


「アースガルズは僕にアカシック・レコードの管理を任せたが…用が済めば僕の命も危ない身を守る為だよ」


ズガガガガガガガ!!!


マックスのサブマシンガンが火を吹き奴等に攻撃を加えるが!!!


ユーマ・シンドーが掌を向け、光の壁を作り出し防がれてしまう!!


「エデンに居るシャドウにホムンクルスの肉体を与えると、ある種のPK…超能力(サイキック)を使えると判明してね……まだ研究段階だけど嬉しい誤算だったよ」



神藤優真はアースガルズの人間じゃないのか!?


「貴方たちアースガルズは地球を捨てエデンへの移住が目的なんじゃないのかしら?」


マックスの言う通りだ……なぜ同士討ちなんか…


「ブライト……僕たちの父は本気でエデンへの移住と共存を考えていたよ……」


「だけど……僕の目的は違う…」


目的……?


「僕の目的は……」




「アリシア・ヴォールクの完全蘇生だ」




死んだ人間を蘇らせる…だと…


「アリシアのクローンや…様々な人工精神体を造ったが……駄目だった……アリシアじゃないんだよ…」


「兄さんの!!!!兄さんのせいで!!!アリシアも!父さんも全て兄さんが居なければ!!」


冷静に話していた優真が突然髪の毛を掻きむしるように取り乱した。


「全部!!全部!!すべて!兄さんさえ居なければ!!この地球も荒廃しなかったーーーー!!」


咆哮のように叫ぶ優真は、もはや正気を失ってるようにしか見えなかった…


「誰かのせいにばっかしてんじゃねーーよ!あいつは最後まで、おまえの事を想ってたんだ!」



「たかだか人工精神体の貴様に何がわかる!!アリシアの精神体を解放させる為だけに造ったのに…ことごとくアリシアの奪還を邪魔しやがって……その姿すら忌々しい!」


憎悪に満ちた瞳をギラつかせながらユーマ・シンドーに命令をくだす。


「やれ……アリシアの転生体を捕らえろ……タカヤ・シンドーは殺してもいい…」


ユーマの前に燃え盛る炎が凝縮され……球体に圧縮される。


「発火のサイか!!」


「ちょっとマズイ空気よね……ベストに数回分の防御フィールド機能はついてるけど……」


あの火球の威力は知っている…とてもじゃないが俺達の貧弱な装備で耐えれそうにない……


クソ……勝利の剣があれば…悪霊のサイが使えれば…


銃弾を乱射しながら、物陰から物陰へ飛び込み少しでも命中させないように動き回る。


「ハアァァァーーーー!!!」


一瞬でユーマの前にまで飛び込み剣を振るうアリス…だがユーマの身のこなしも半端じゃない、消えたようにしか見えない程のスピードで高い天井の上から……


「タカヤ!!駄目…くるわ…ワタシの側に来て!二人で防御フィールドを張るわ!」


マックスが叫んでいるが、無理だろう…


どんどん巨大になる火球……ありゃアリスや悪霊レベルの破壊力あるぞ……チャチなレーザー銃どころじゃない……


ドン!!


無慈悲にも放たれる火球……避けるなんて不可能だ……どうすれば……もう……駄目…なのか…




バチバチッバチィッ!!!!




青白い光を纏い輝く銀髪……


アリスが光の壁を作り出し火球を受け止めていた。


「何やってんだ!!アリス!おまえの寿命が!」


「言ってる場合じゃないでしょ!」


全身に走る紋章が光を増し、ユーマの居る宙へと飛び込んでいく。


ギン!!!


ドゴォォォーーーン!!!


加速のついたアリスの剣撃を受けるユーマだが、力を受けきれずに二人共天井に穴をあけて飛び出してしまう。


「マックス!今だ!!神藤優真を!奴を撃て!」


俺も拳銃(デザートイーグル)の弾をリロードし、優真に向けて……


!!?


引き金が引けない!安全装置は解除しているはず……俺の中にある悪霊の無意識がブレーキをかけているのか!?


ズガガガガ……カチッカチッ…


「危ないね……旧式の銃を持つ君たちに僕が何の対策もしないと思ってるのか…」


防弾ガラス!?いつの間に…


「駄目よ!タカヤ!ワタシの弾が尽きたわ!アナタが何とかして!」


何とかしようにも!優真を攻撃できないんじゃ…くっそ!!優真に復讐を誓ったんじゃないのかよ!変なとこでお人好しだな!悪霊!!



ズガーーーーーン!!!!



瓦礫と共に再び戻って来るアリスとユーマが何か衝撃波のようなものをぶつけ合っている。


「はは♪やるじゃないユーマ♪貴方のサイって、これほどの力があったかしら♪」


テンション高めのアリスの額に血が流れている。


「ア……アリ…………僕は……君とは…」


ユーマの意識が!!


ユーマの力が弱くなったのか、衝撃波で吹き飛び防弾ガラスに叩きつけられ、粉々に砕けた破片とともに神藤優真の前に倒れる。


「ぐはっ!!ア…リシア…君とは…戦いたく……ない…」


「はぁ……はぁ……はぁ……」


アリスの紋章の光が弱々しくなっていく……


「駄目です!タカヤ様!アリス様にこれ以上負担をかけたら!魂が砕けてしまいます!」


ソフィア……


「お互いに紋章が限界のようだ……アリシアの精神体にこれ以上の負荷は危険だ……ユーマ・シンドー!先にタカヤ・シンドーを仕留め…………えっ……」



高らかに腕をあげ命令する神藤優真だったが……その腹に…ユーマの剣が貫通していた…


「恥をしれ……気様が僕の名を語るなど……許さない…」


「な……ぜ…だ………僕は……ただ、アリシアを救おうと…」


ドサッ……


血に塗れながら、俺のほうに向き直るユーマ……


「タカヤ・シンドー……僕に残された時間は少ない……アリシアが君に惚れているのも分かっている」


「ユーマ…話が分かるなら、もう戦う必要なんてねーだろ!このままアカシック・レコードでエデンに帰れば…」


「だが!分かっていても!!僕は、この気持ちを!!アリシア・ヴォールクを想う気持ちを捨てきれない!!」


「自分勝手だよ…わかってるよ……一族を裏切り、道理が通らないのもわかってる……恥をしれ?偉そうに…でも僕は!僕は!!!」


面倒くせーーーーーー!!!!


一直線に俺に目掛けて剣を振るうユーマ!


紙一重で躱し、腹に蹴りを放つ!


「ぐっ…どうした…あの剣撃のような鋭さがないぞ」


いくら鍛えた体でも、ただの人間とお前らとは違うっつーーの!


吹き飛んだユーマに向けて銃弾を乱射する!


撃てる!?


ギンギンギンギン!


漫画のように銃弾を剣で弾き飛ばすユーマ…


「醜い嫉妬だと認めるよ…だが…僕には…こうするしか…」


「タカヤ……はぁはぁ…私が……」


立つのも辛そうなアリスの光が再び輝きだす。


「やめてください!アリス様!それ以上は」


「アカシック・レコードのキーが壊れたら困るのはワタシ達エインヘリアルなのよ!」


ユーマを背後から羽交い締めにするマックス!


「このレバーを離せば、ワタシの持つありったけの手榴弾に誘爆するわ♡いくら強化されたホムンクルスでも気持ちよくなっちゃうわね♡」


嘘だろ……マックス…自爆するつもり…


「近寄らないで!フェイを殺された時から覚悟は出来てたのよ…アナタには地球を…残された人々を救わなければならないわ♡」



「マックス・ガントレット!離せ!」


暴れるユーマは人間離れした怪力のはずだが、マックスの太い腕はユーマを緩めることがない。


「やめろ!キースおまえからも何か言えよ!マックスが…」


『僕たちエインヘリアルは死せる戦士達なんだよ……どれほどの想いでアースガルズと戦ってきたか…マックスの戦士としての誇りを尊重してほしい…』


「そんなとこね…戦士じゃなく戦乙女(ワルキューレ)って呼んで欲しいけどね♡」


ザクッ


マックスの横腹に剣が刺される…


「しつこいわね!嫉妬もわかるけど引き際が肝心だわ!ワタシだってタカヤを諦めたのよ!アリスの幸せも考えなさいよ!」


「くっ…アリシア……僕は君を愛して…」


「じゃあね♡タカヤ!短い付き合いだったけどアナタもイイ男だったわ♡チャオ♡」



ドン!!!!!!



激しい爆風に吹き飛ばされ……地面に突っ伏していた……



マックス達が居た……そこは…粉々に砕けたカプセルと…焼け焦げた地面と火薬の臭いしか残ってなかった……




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