第22話 それぞれの変化


マックスが壊れて一週間が経った…



「俺だ、入るぞマックス」



既に災害があったリールーは復興が進められていたが足止めを食らっていた。


小さなテントの入り口を開け、マックスに飲み物を届ける。



どよ〜〜んとした陰気な空気が満ちている。


テントの隅で背を向け体育座りで落ち込むマックス。



「どうしたんだよ…マックス…俺に話してみろよ…これでも俺はお前に感謝してるんだから」



「ほっといてよ!!どうせワタシなんか!」


マックス…


「しっかりしろ!マックス・ガントレット!何があったか知らないが、お前は立ち直る!!俺は信じてるぞ!」


「他の娘にも同じ事言ってるんでしょ!!」


こんな調子である……



テントを出る。


何か思う事があるのだろう……

今はそっとしておくのが一番か…




「タカヤ・シンドー様!!お食事のご用意が出来ております!!」



なんか帝国の兵士らしき人に声を掛けられる。


「何度も言ってるが、人数分最低限でいい、後は必要な人に配ってくれ…」



「しかし、我々は英雄タカヤ様に最高の持て成しをしろと命令が…」



最初は驚いたよ、こんな災害地帯で大量のフルコース料理が運ばれてきたんだから…



「頭おかしーんじゃねーか!!親亡くしてる子供も居るんだろ!!それを横目で食いきれない飯、気持ちよく食えるか!」



「タカヤ様……了解しました!」


目を潤ませながら走り去る兵士。


どんな感覚してんだ?帝国ってのは?


「タカヤ……」


夕日に煌めく銀髪…アリス…



物資調達に行っていたアリスとソフィアに出くわす。




ソフィアとは、この一週間でかなり打ち解けたらしく仲良く手を繋いだり、じゃれ合う仲になっていた。




あのアリスが!!!





表情が柔らかくなり、ソフィアに微笑む姿も見かけるようになった。


笑うとホント可愛い…



「よう!アリス荷物持とうか」


手を引き避けられる……




嫌われてる!!!!




無言で去るアリス……


ニマニマと嫌らしく笑い…ついて行くソフィア……



もしかして!アリスとソフィアは百合のお花畑な関係に!!!



嫉妬心が俺に下衆な被害妄想をさせる。




意味がわからん……あの時のやつは何だったのだ!!



あの後…キスの先…行くとこまで行く事も考えたのだが





ーーーーーーーーーーーーー



シティホテル最上階のスイートルーム


ガラスに映る夜景 赤い絨毯

テーブルにはワインのボトルと飲み掛けのグラス…


微かに流れるムーディーなJAZZと花のような香り


キングサイズのベッドで白いシーツに包まれるアリス…



魅力的な白い肢体がシーツからはみ出している。


「アリス……どうだった?」



「ダメね……」


えっ!?


「自己中心的で雑…」


グサ!!


「反応を見てないし、何よりサイズがね…初めてでも酷すぎるわね……20点ってところかしら」


グサ!グサ!グサ!


「もう帰っていいわよ…さよなら」



パリーーーーーン



俺の心は粉々に砕け散ってしまった…………




ーーーーーーーーーーーーー



あーーーー!!!!!!死にてーーーーー!!!!!


考えただけで俺のショートソードは戦闘不能になってしまう……



嫌われたくねー………


やる、やらないよりアリスに嫌われたくない気持ちが強く、イジイジと手を出せずにいた。



「タカヤ・シンドー様!!!」


またか……


見知らぬヒューマンのオジサンに声を掛けられる。


「あの時……私は魔王に殺されかけて……それを偉大な力で救ってもらったのです……しかも娘の病まで……あなた様は本当に私の家族の…救世主…………うっ…ぐっ…」


オジサンは泣き崩れて平伏してくる。



重い!!!




周りの人々の視線が痛い…


一回、二回ならともかく、こう毎日誰かしらに感謝されたり囲まれて持ち上げられたり


いい加減面倒臭くなってくる。


何処に行っても注目の的になり、すがりつかれたり、自由に行動できない。



アリスと二人きりでデートなんて以ての外だ。



逃げるように、街の外れにある人気のない海岸まで行く。




……………………




『今日もやるのか?』


悪霊が呆れたように言うが無視して鞘から勝利の剣を出し、握り、振るう。


軽い剣の空気を切り裂く音が無機質に繰り返される。



ヒュッ ヒュッ ヒュン



『そんな事をしても、この世界の人間の身体能力を超えることは出来ないぞ』


『わかってるよ…でも、何も出来ない…何もしないのが嫌なんだよ』



ヒュッ ヒュッ 


『ちょっと操って剣振ってみてくれよ』


『構わないが…』


悪霊が俺の体を操る


ヒュパパパパパパ


目にも止まらない速さの剣速


5mほど跳び上がり空中で無数の斬撃が繰り出される





『もう、おまえが世界救ったらいいんじゃないか?』


『元々は俺が使う予定だった剣だが、駄目だ』



『いや、元々はおまえが英雄として転移する予定で俺は何らかの手違いで巻き込まれただけだろ?』



『俺は先を考えてロジックを組み、その結果おまえに剣を使わせるのが最適解だと判断した』



俺にどうしろって言うんだよ……



『その剣の使い方を教えてやる…自分でやれ』


『使い方?』





あの後、どれだけ力もうが叫ぼうが、あの立方体のバリアが展開することはなかった。





『その剣はおまえの【想い】に反応する本気で【護りたい】と願ってみろ』


うおおぉぉーーー剣よ俺を守ってくれ!!!


何も起きない……


『自分を守ると考えても無理だな…おまえは自分を軽く考えているところがある』


そんなこと言われてもどうしろと?


『何か大切なものを護るイメージだ、何かないのか?』




大切な物??聖典…




そうだ、ここは昔に通った学校だ。


イメージする…


あのムカツク体育教師の田中が………


『神藤!!なんだ!!そんな物を持ち込んで!没収だ!』



俺の……チョーさんから頂いた…この…聖典を!!おまえなんかに!!!!




【護りたい】





剣の宝玉が、微かに光り立方体が俺の周りを包んだが、すぐに消えてしまった。



『そうだ、その人間らしい【想い】の強さで出力が変わる』



なるほど、それじゃ聖典を身に着けていたら俺は安全なんじゃないか?


『でも、こんなのでフェンリルを倒せるのか?それにフェンリルは何処にいる?また現れたら…俺じゃ…』



『フェンリルは、物体じゃなく概念が物質化したものだ、具体的な居場所はない』



『アリスを狙って出現するだろうが、おまえと剣が側にあるなら迂闊には手を出さないだろう、一撃でも攻撃できればフェンリルは消滅する』



そんなもんなのか?



『なあ…アリシアって誰なんだ…金髪の…おまえの彼女か?アリスに似すぎてるしフェンリルも…』



『見たのか!?………だが、どうせ伝えられない、この世界のアリシアは詳しくは知らない…アリスに聞いたらどうだ』



聞けるような雰囲気じゃねーんだよ…



『アリスが機嫌直したら聞いてみる』



ヒュッ ヒュッ



再び剣を振るう



『なあ…おまえ…変わったよな』



悪霊は変わった、最初はこの世界を消滅させる悪の化身だったのに…



『おまえと行動して色々と考察してな、もう世界を消すこともアリスを消すこともしない…意味がない』


『それに…そんなことをしても…』



こいつは色々と考えてるが、他人に話すなんてことをしない伝えられないってのもあるが。



『話は変わるがそろそろ、この街から出て移動しないのか?』



『居心地悪いし出たいのは山々なんだけどマックスがな…置いていく訳にもいかないし、マックスが居ないと実質身動き取れない』



『なら俺が連れて行ってやる空間転移も俺なら可能だ』



『おまえ、ずいぶんと協力的になったよな』


『利害の一致だ、俺もフェンリルをお前に倒して貰わなければいけない』



どーしても俺じゃないとダメなのか…どうしたら……俺は強くなれるんだろう…



…………………………



拠点にしている大型テントに戻り、兵士が残していった食事を摂る。


アリスは相変わらず膝にソフィアを乗せてラブラブだし


マックスは白目を剥き機械的に飯を口に運ぶだけ


たまにアリスと目があっても、俯いて目を逸らされる…



気まずい………



ソフィアだけがニヤニヤと上機嫌そうだ…



俺は気まずいながらも、悪霊との顛末を話した。



………



「とんでもない話ね…瞬身で世界中何処でも…なんて…しかもこのテントごとでも行けるとか…」


いつものアリスだ。




「街、丸ごとの人々を四肢欠損から不治の病まで完全に治すとか、もうサイじゃなく神の力よ、その悪霊は何者なの?それにフェンリルのところまで行けないの?」





「フェンリルのところは無理みたいだ、よくわからん事を言ってたけど、たぶん悪霊は本当の転移者で俺はたまたま巻き込まれた…だけだと思う」



こいつの事は俺もよく分からない。


「神の国のね…まあ、とりあえず行くとしたら、まずはマール王国かしら、ソフィアを送り届けないと」


マックスも何とかしたい…

聖典も…


でもまずはソフィアだな…いつまでも未成年者を保護しとくわけにはいかない。


「わかった、悪霊できるか?」

『問題無い』


「あそこに行くなら物資はテントに詰め込んだほうがいいわね」



「私、お姉様と離れたくないですわ」


「私もよ…ソフィア…でも仕方ないじゃない…」


この百合ごっこも見納めか




…………………



翌日の朝




【替わってくれ】



悪霊と意識が入れ替わる。



「もう、用意はいいのか…」


嬉しそうに悪霊を観察するソフィア



「随分と雰囲気が変わりますのね?涼しげな目元になると………これは…これで…」


「はあ…キース様と…」


いつもの発作か……



「大丈夫…行けるわ!」


少し緊張しているアリス、瞬身は初めてでワクワクしている。


「……………」


白目のマックス…



『行ってくれ』



ほんの一秒…二秒意識が飛ぶ



「着いた…!?」


『マール王国だな』


テントを出る



「なんだ!あれは!」

「突然現れたぞ!」


ザワザワザワザワ



照りつける太陽、ピラミッド、スフィンクス


広がる砂漠の街の……ド真ん中の噴水広場に出現させやがった…



クソ悪霊!






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