第23話 マール王国


この野郎やりやがった……


俺達の前に群がる人々……


「あれは!?」

「あの…お姿は…」

「きゃーーーーーー!!!!」



驚嘆する、兎耳の獣族


女の子の狂った様な黄色い声援が響き渡る……



英雄だとか何だとか、目立つにも程があるのに、こんな公衆の面前でワープしやがった!!



『おまえ、ふざけんなよ』


『細かな指定はなかったが?』



察しろよ!!



「きゃーーーーーーーーー!!!!」


押し寄せる女の子の大群。



「仕方ないな…順番だよ……この英雄タカヤ・シンドー逃げも隠れもしな………………ひべ!!!!」



ラビットパンチで2m程吹き飛ばされる……



「ソフィア様ーーー♡」


「フレッドとマイケルは、これからどうなりますか♡もう本が擦り切れる程読んで続きが気になって…」



『ここは帝国領じゃないのだろう?おまえのスケッチが届いてない可能性が高い』


シクシク…すんません……はい…モテると思って…



「あんちゃん達ソフィア様の何なんだい?」



人鳥族の男に声を掛けられる。



「有名人なのか……!?」


「有名もなにも、この国の聖王女ソフィア・マール様だよ!知らなかったの!?しかも売れっ子作家の」



はあ!?



行列ができサインをするソフィアの側に行く。





「おい!ソフィア!!おまえ王女様だったのか!しかも作家!?」



「ええ…だから、あまり来たくなかったのですわ、少しお借りしてもいいですか?」





「はい♡ソフィア様のサインが頂けるなら」


ソフィアはファンの本を俺に渡す。


パラ…




『読めないな…』


『どれ………マイケルはフレッドの薄く繊細な肌を感じながら、吐息を漏らす……』




パタン……



本を閉じる………




「ソフィア様ーーー!!!」


衛兵が駆けつけて俺達を囲む


「貴様ら!!何者だ!」


サインを止め宣言するソフィア



「落ち着いてください!彼は異界の英雄タカヤ・シンドー様 丁重な持て成しを!」





……………………






マール王国 謁見の間



「そなたがウラヌス帝国の英雄タカヤ・シンドーか……」




国王エドワード・マール



マックスから聞いていた勇者……


1代にして王国を築き上げた傑物…




40代後半くらいだろうか…


ソフィアと同じ赤茶色の髪と渋い美形な容姿、鋭い眼光 細身だが服の上からでも分かる鍛えられた肉体




流石の貫禄を感じる…




「違います…俺達はウラヌス帝国に行った事はありません!帝国が勝手に」




「そうか…ブライトのやりそうな事だ……セバス!!人払いを!」


「わかりましたマール王」


隣の爺さんが頭を垂れる




騎士団長らしき男が慌てて口を挟む


「しかし、陛下!!外部の眼が」



「我が娘を送り届けた英雄が信じられないだと…」



凄い威圧感……まるで我が子を護る飢えた獣だ!!



「はっ!陛下!仰せのままに」



謁見の間は俺達4人と玉座に居る王と側近の爺さんだけになった。



「さてと……」


玉座から立ち上がり階段を降りてくる……



人払いまでして…どんな密談が………






「ソフィアちゃーーーん!!!パパ寂しかったよ〜〜!もう帰ってくるなら伝書でも寄こしてよー!」





ソフィアを抱きしめながら、キャラ崩壊する国王………



「わりーな、俺の娘が迷惑かけちまって」



「お父様!髭が痛いですわ」



「………」



…………



砕けるにも程がある王に経緯を説明する。



「なるほどね〜面倒くさいこった」



「陛下、あのソフィア王女が拐われたとか心配しなかったのですか?」



「普通に喋ってくれ…疲れる、ソフィアは取材に出てたんだよ」



「でも…こんな小さな女の子を一人で行かせるなんて、それに取材って?」



アリスの言うとおりだ、過保護なのか放任なのか分からん。




「まあ、こいつの能力があれば危ないのに近寄らねーだろ、いつまでもガキじゃねーんだ一人で何とかする事も学ばねーと」



近寄ってるんだよ!!!キースっていう変態に!




「あの引き籠もって本ばっか読んでたソフィアが、好きな事の為に行きたいって言うんだよ応援してやるさ」



あっけらかんと答える王



「血は争えませんな、王には何度も脱走されて私共は、その度に苦労させられて……」



ハンカチを目に当てる爺さん



「時期、女王様だろ!!なんかあったら…」



「えっ!?そんなん誰が決めたんだ?俺の次なんか、やりたい奴やりゃーいいんじゃね?テキトーに」



なんか思っていた人物像とかけ離れすぎてるぞ!!!



「それに作家って…あの内容は…」



「あれな…俺も見たんだが…」



親として、けしからん内容だろ、あんな破廉恥で狂った……



「国を上げて出版したら爆発的に売れてな…」



はい???



「今では国家予算の10%をソフィア様の本で賄っております」


爺さんが答える





世の中腐ってやがる!!!





「【共感能】なんて能力のおかげで聖王女とか祭り上げられてよ…俺もホクサイに逢った時が運の尽き…変に祭り上げられて、今じゃこの様だ……出版なんかして、ソフィアには悪いと思ってるよ」



何か妙なシンパシーを感じる……




「ホクサイと言えば先程から無言の、その人虎族」



「マックスっていいます、王とは面識があると言ってたんですけど…」



「マックス!!マックスか!!!見違えたぞ!!あんな可愛らしい女の子みたいな小さな子が!」



「…………………」


やはり白目で反応がないマックス。



「マックスはどうしたんだ?」



「わかりません…何か精神的なショックだと思います」



「ソフィアに診て貰ったらどうなんだ?」


「誰もが通る道なので…診ないほうがいいと思いますわ」



「診る?」



「【共感能】で心の内面を治療する聖女とか言われてな、俺もよくわからんが、立ち直る者が多い」



あの心を読むやつか…



「ソフィア!!やってくれよ!!こんなマックス見てらんないよ!」



「あまり気が進みませんわ……でも…分かりました」



「今日の夜は英雄の歓迎パーティー開くからよ、明日でどうだ」



「歓迎とか、別に…」



「表面上はウラヌスの英雄だからな中立国家としては敵意が無いと示しておかないとな…面倒だと思うが頼むわ!!」





………………………




メチャクチャ場違いだ…


王宮で開かれた豪華絢爛(ごうかけんらん)な舞踏会



「ごきげんよう、ウラヌスのタカヤ・シンドー様ですわね」


「悪いが、次の戦いの事で頭がいっぱいなんだ…そっとしておいてくれ…」



なんかドレス姿のマダムとか、上流階級の連中ばかりで、作法とか知らねーし……



俺はクールでニヒルな英雄というキャラを作り社交から逃げていた。



それに比べてエドワード王の威厳のある態度……


面の皮が厚すぎるだろ!!別人じゃねーか!



アリスは……


白い肌と銀髪が映える黒のドレスに包まれ、華麗で上品な立ち居振る舞い……


…………綺麗だ…



思わず見惚れてしまう…




一通りの社交を済ませ、バルコニーの白い手摺りで夜の砂漠を眺めているアリス。



「よう!アリス」



軽く声をかけアリスに近づく。



「………タカヤ…」



目を逸らし、城に入ろうとするアリスの手を掴む…


あんな怪力とは思えない華奢で折れてしまいそうな腕。



「待てよ…なんで俺のこと避けるんだ、それに……あの時の…」



パーティーの酒で酔っているのか頬が赤い。


「別に避けてるわけじゃ…」



そのまま、俯いてしまって沈黙する。


「アリス…外に行かないか?ここ居心地悪くてさ」


「でも主賓が…」



「構うことねーよ、ソフィアが帰ってきて目立ってるし実質ソフィアのお披露目会じゃねーか」



ソフィアの周りはキャーキャーと喚くマダムで埋め尽くされている。



マックスは、あんな状態だし客室で休んでもらっている。



「でも…二人で行くと目立つ…」


「じゃあ、先に俺達が転移した噴水広場に行っててくれ、俺も後で行く」



「………わかった」


エントランスへ向かうアリスを目で追ってしまう。





こう…なんか、合コンで示し合わせて抜け出すみたいでドキドキするよな。

合コン行ったことねーけど



…………


少し時間を空けて俺も外に向かう


出る間際にソフィアが俺の方を見て、ほくそ笑んでるように見えた。

















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