27.聖女たんが来る!
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かつて世界を創造したのは2柱の神だった。
女神"スフェラ"は世界にヒト族を生みだした。ヒト族は5つの種族(人間、獣人、竜人、鳥人、魚人)に分かれ、世界に散らばった。
女神の弟にあたる神"ヴィリロス"は"スフェラ"に対抗心を抱いていた。"ヴィリロス"は世界に魔人族を生み出し、ヒト族と争わせ、ヒト族をこの世から断絶しようとする。ヒト族のうち、2つの種族(鳥人、魚人)は魔人族に取りこまれ、滅びた。
"スフェラ"はヒト族と魔人族の争いを止めようと、"ヴィリロス"に戦いを挑む。神々の争いは七日七晩に及び、互いに深手を負った。"ヴィリロス"は深き眠りにつき、"スフェラ"は体を細かく砕かれ、
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――これがこの世界に伝わる神話だ。
最近になって"ヴィリロス"が復活し、ヒト族の国は魔人族の脅威にさらされている。
魔人族を退けるためには女神"スフェラ"の復活が鍵となる。
そのために毎年、女神の復活を願ってお祈りが行われる。それが復活祭。
神殿に聖女を招き、お祈りを捧げるという行事だ。
(それにしても復活祭の間は、アイル様を塔の中に閉じこめるなんて……)
ちょっとひどくないだろうか? それほどまでに国王はアイルの姿を人前にさらしたくないのかな。
私は心が痛んだけど、当のアイルは慣れきっているようで穏やかな表情を浮かべている。
「外に出るのを禁じられているだけなら、塔の中でこうしてお茶を飲めばいいじゃないでしょうか?」
と、私が提案すると、コレットに微妙な顔をされてしまった。
「そっか、ルイーゼは知らないんだったね。復活祭の準備のために、私たちもお手伝いに行かないといけないのよ。聖女様を迎えるためにお掃除をしたり、飾りつけをしたり……。去年の復活祭の前なんて、もう戦場のような忙しさだったのよ」
「え……まさかそれって私も?」
「当たり前じゃない」
嘘……。
アイル様のおそばを離れるなんて、そんなの嫌。
でもきっと、私たちに拒否権なんてないんだよね……ううう。悲しい。
イグニスも複雑そうな表情で肩をすくめている。
「聖女様が来ている間は、俺もレオンも警備とかで忙しくなるだろうしなあ……ルイーゼちゃんとこうしてお話しできなくなるのは寂しいな」
「ええ!? お2人ともアイル様のおそばを離れるんですか? もしそれでアイル様の身に何かあったりしたら……」
「心配には及ばない。自分の身なら自分で守れる」
と、アイルは澄ました表情だ。イグニスも頷いて、
「まあ、護衛には代わりの兵が派遣されるでしょうし……。それにアイル様はお強いから、王宮の中にいれば危険なんてないさ。最近はフランツ様も大人しくされているみたいだし」
「それはそうでしょうけど……」
まあ、確かにイグニスの言う通りだ。
アイル様が過ごしている西の塔は王城の中でももっとも奥に位置している。それに騎士団が全兵力をかけて王城を警備するのなら、危険なことはおいそれとは起きないだろう。
それにしても、アイル様としばらく会えなくなるのはやっぱり寂しい。今のうちに尊い御姿を存分に見納めておかなくては! と、私は対面に視線をやった。
夜空のように美しい碧眼とばちっと目が合う。片側の猫耳がふるりと揺れて、視線はすぐに逸らされてしまった。しかも、アイル様、ちょっとだけ頬を染めて、眉をひそめている。
何で!? 私と目が合うのはそんなにご不快なのでしょうか。
考えていると悲しくなってきたので、方向転換。私は遠い目をして、来たる復活祭に思いを馳せることにした。
「それにしても、聖女様かあ……いったいどんな人なんだろう」
「とっても綺麗な人だったよ。去年、お会いした時、私は1度だけお茶をお出ししたのだけれど、綺麗すぎて近寄りがたいというか……高貴な雰囲気をまとっていらしていて、私とは住む世界がちがうんだなーって思った」
「エレノアちゃんはいかにもクール美人って感じだからね」
イグニスがさらっと言った名前に、私は反応した。
エレノアってあのエレノア!?
そっか、そうだよ! 何ですぐに気付かなかったのだろう。『フェアリーシーカー』の世界において、聖女様といったら彼女しかいない。
エレノア・グレイス。女神信仰の聖女を務めている少女。
『フェアリーシーカー』でも重要人物だ。
彼女は勇者パーティーの一員にして、ゲームのサブヒロインに当たる。
その姿を思い出して、私は頬がにやけそうになってしまった。
薄茶色の髪を長く伸ばして、清楚な雰囲気だ。服装は白系統でまとめられ、高貴かつ繊細。全体的には女性的でかわいらしいデザインなのに、きりりとした眼差しは、凛としている。
エレノアのキャラデザイン、ものすごく私好みなんだよなあ……。
イラスト投稿サイトにもエレノアの美麗イラストは多数投稿されていた。私もたくさんあさって、ブクマした。
ふう……あの時、画面を見ながら「かわいいなあ!」と興奮していたエレノアたんを直で見れるなんて。
そう思ったら、憂鬱だった復活祭が少しだけ楽しみになってきた。
早くお会いしたいなあ、エレノア・グレイスたん!!
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