38.明かされる真実
レオンはいつもの温厚な仮面を捨て去り、鋭い視線で私を射抜く。
1度目はこの目が怖かった。
2度目はこの目に気圧された。
そして、今は――
私は逆にやりこめてやるつもりで、レオンをじっと見据えた。
「昼間、あなたは言っていたよね。コレットが本性を表すのは、本来ならもっと先の話だったって。あなたは未来を知っているんでしょう?
もしかして、あなたが知っている未来ってこうじゃない? 今から3年後、勇者ユークと共にアイルが旅に出る。フェアリーを集めて、女神を復活させるためにね」
その言葉でレオンは大きく目を見張った。
「なぜお前がそれを知っている……!?」
「どうやらそうみたいね。あなたも私と同じ……」
「お前はまさか、俺と同じく……」
「転生者なんでしょう!?」
「やり直しをしているな!?」
お互いにドヤ顔で切り出して、そして、相手の発言を拾って、「は……!?」という顔になった。
気まずい沈黙が流れる。
「え? あれ? あなたの前世は日本人で、あなたも『フェアリーシーカー』のプレイヤーで……こっちの世界に生まれ変った転生者…………じゃないの?」
「……すまない。お前が何を言っているかわからない」
「え……?」
今度は私が目を白黒とさせる番だった。
「それじゃあ……あなたは何で未来を知っているの?」
レオンは無言で私を見つめる。酷薄な瞳で、無情な面差しで。でも、不思議と怖さは感じなかった。
だから、私も黙って、その顔を睨み返す。
真正面から睨み合うこと数秒。
観念したようにレオンは息を吐いた。
「俺のことを話す前にお前のことを話せ。お前はルイーゼ・キャディではないな? 俺の知っているルイーゼと大きく乖離(かいり)が見られる」
「私はルイーゼであって、ルイーゼではない。あることがきっかけで私は前世の記憶を思い出したの。今の私の性格は、前世の記憶を引きずっている」
「前世を思い出した……?」
レオンは訝しげに目を細める。それから納得したように頷いた。
「そのきっかけとは、剣闘大会でアイルをかばった時か」
「そう。なんでわかったの?」
「あの日からお前の様子はおかしくなった」
なるほど。あの時から私はすでにレオンに疑われていたってわけね。
「私の前世は、こことは別の世界。そこではこの世界のことはゲーム……って言ってもわかんないよね。物語のような形で知れ渡っていると言えばいいのかな」
「何だと!? その物語の結末はどうなっている!? 誰が生き残ったんだ!?」
いきなりレオンが話に喰いついてきて、私は面食らった。
「……わからない。私が持っている知識は不完全なの。勇者ユークが妖精を集めて……そして、あなたがアイルを殺すところまで。その先がどうなるのかは、私にもわからないの」
「そうか……その物語では、俺がアイルを殺すということになっているのか……」
「さ、私は正直に話したけど? 今度はあなたの番。やりなおしって何?」
レオンは私のことをじっと見据える。その瞳にも覚悟のようなものが宿っていた。
「俺がこうしてこの時を過ごすのは、これが最初ではない。俺は何度も時を遡り、人生をやり直している」
「は?」
私はその言葉に仰天した。
「ループしてるってこと!?」
「ループが何のことかはわからないが……望む未来を得るために、俺は何度も時を戻した」
嘘!?
よくアニメや漫画の話だと、ループものって聞くけど……。
レオンがそうだったの!?
というか、『フェアリーシーカー』ってそういうストーリーだったの!?
驚いた後で、私は冷静に戻った。いけない、肝心のことをまだ聞いていない。
レオンの目的についてだ。何度も人生をやり直しているということは、レオンには何か目的があるのだ。それを聞いておかないと。
「あなたの望む未来って……何?」
「……皆を死なせないことだ」
「その中に……アイル様は入っていないの……?」
その瞬間、レオンの瞳に激情が走った。
「そんなわけがないだろう!? だが、仕方ないんだ! 俺は何度もやり直した! だが、すべての世界で|アイルは死んだ(・・・・・・・)! あいつを死ぬ運命から変えることは、どうやってもできなかったんだ!」
私は愕然として立ちすくむ。
レオンが初めて感情らしきものを見せたことはもちろん、その言葉もショックだった。
どの世界でも、アイルは死ぬ……?
レオンがアイルを殺さなくても、アイルは死ぬ運命を辿るってこと……?
「だから、アイルを殺すの……?」
「俺は今までアイルを殺したことはない。だが、今回ばかりは……その方法をとるしかないと覚悟を決めている」
レオンの表情が歪んでいく。悲壮感を湛えながらも、そこには強い決意が宿っていた。
その顔を見て、私は理解した。
……ああ、そうか。レオンも本当はアイルを殺したくないんだ。
それがわかって、私は少しだけホッとしていた。
「全部を話して。あなたが知っていることを。どうしてアイルを殺すしかないと決めているのか。あなたの敵は誰?」
「邪神ヴィリロス……そして」
一拍おいてから、レオンはその名前をつぶやいた。
明確な敵意をこめて。
「――女神スフェラ」
その名前に私は目を瞬く。
嘘……ヴィリロスはともかく、女神スフェラまで敵なの?
いったいどういうこと!?
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