3. 負けた気がした
フレイの鳴き声に反応して産婆の補佐Bが来た。
オムツを手で確認して即座に悟った。
「オムツを替えましょう、フレイ様。」
(あれ?担当者変更?……この人は、凄い美女。)
この世界での王族は、直接育児を行わない。
王妃も胸の張りが気になった頃に授乳する程度だが、これでも手を掛けている方だ。
この保育部屋でフレイのお世話を担う者は10数名。
兄姉の時は20名以上だったことを考えるとフレイに対する期待がどの程度なのかを知ることができる。
「直ぐに泣き止みましたね。とてもいい子です。」
(!!オムツを嫌な顔もしないで替えくれて、笑顔で褒めた!女神か?)
嫌な顔をしないで汚物を手早く処理して、お尻を丁寧に拭き上げ、笑顔で褒める。
フレイは惚れてしまいそうな位、感動していた。
「はい、綺麗になりました。」
(いいえ、あなた程ではありません。)
つい口に出して言いそうになったフレイ。
(オムツを替える手早さ、それに相反する丁寧さと優しさで磨き上げたお尻。それは、一刻も早く不快感を取払うための思いやり!愛情!)
「では、お食事です、フレイ様。」
(デター!こちらの造形も美術品レベル!)
産婆の補佐Bは乳母Bでもあった。
「はい、どうぞ。」
(頂戴いたします。)
小さい身体を駆使して全身で柔らかさを堪能。
「沢山召し上がれ。」
(はい!ご馳走になります。)
無心で吸い、無心で飲んだ。
「ん~。お上手!きっとフレイ様は元気に育ちますよ。」
(赤ちゃんのままでいいです。!!)
と、考えた後、気付いたことがあったフレイ。
「お腹は満たされました?」
(不老って赤ん坊のままってこと?……ダメ、眠い。)
もし、成長と老化がある程度同じなら赤ん坊のままの姿で不老不死と言うこともあるのでは?
と疑った。
「おやすみなさい。フレイ様。」
(…zzz)
嫌な疑問を抱えたまま眠りに落ちたフレイ。
赤ん坊のまま不老不死なのでは問題は二ヶ月もすれば解決した。
乳児期の成長は早い。
明らかにそして劇的に成長し、一旦は安堵していた。
案内人との連絡手段を用意しておくべきだったと後悔する。
聞きたいことが山程ある。
心の中で呼びかけても返えってこない。
不老であることが約束されているため、成長が止まった後は老いることはない。
一旦は安堵したが、同じような問題が二十年を待たずに再びやって来る。
(第三王子だけ何故か老けないって絶対に怪しいよなぁ!)
考え込むフレイ。
(この問題はその時まで先送りにしよう。)
更に、この国の第三王子と言う肩書は、数万、数十万年後にどれ程の価値があるのかを考えてしまった。
(最初の数十年だけのステータスか…)
途方もない未来を考える乳児。
(小さな王国でも立ち上げよう。)
大きな志しを抱く乳児。
まだこの世のことも知らない。
(『不老不死の王が統べる国家』と言う触れ込みの国。)
怪しい国だ。
(『だが、その不老不死にはカラクリがあるっ!』って感じに偽装しよう。)
怪しい宗教国家を目論む乳児。
(いや、『不老不死の長が統べる村』位で良くない?)
先にこちらを考えるべきでは?
(この問題はその時まで先送りにしよう。)
これも先送りした。
その後も自身の成長に驚かされるフレイ。
5ヶ月頃には寝返り、8ヶ月頃にはハイハイができたと思えば、その後一月もしない内に、つかまり立ちをしていた。
一歳を過ぎた頃には、時々手を着くが歩き回れるようになった。
部屋も保育の部屋からフレイ専用の部屋へ移動した。
言葉については少々戸惑った。
産まれた直後から話せた為、赤ちゃんを演じなければならないと考えていた。
だがある日、無意識に魔力でサポートして声を出していることに気付いた。
試しに魔力を使わずに話すと、自然に赤ちゃん特有の発声ができた。
最後の難関は排泄。
赤ちゃんは自力で排泄物の処理はできない。
当然だ。
だが、前世の記憶を持ったままの乳児にとっては、凄く不快で恥ずかしい。
(それにしても侍女は偉大だ、いや女神だ。)
流石は王家に仕える侍女、どんな時でも笑顔なのだ。
(オムツ替えは汚いし臭いだろう。)
それでも侍女達は笑顔なのだ。
オムツ替えの最中、我慢できずオシッコを侍女の顔にかけてしまっても、笑顔なのだ。
(クセに、いや
しかし、慣れた侍女に手でブロックされた時は、負けた気がしたフレイだった。
2歳を過ぎた頃、残念な知らせが来た。
離乳だ!
ある日、おねだりしても乳母は丁重に断るようになった。しかし、フレイは知っている。
乳母の胸はまだ張っていることを。
時々痛みに堪える仕草をしている。
(身体は正直だぞ姉ちゃん!楽にしてやってもいいんだぜ!)
フレイが下衆な妄想を展開していると、程なく妹が産まれた。
以後、乳母の顔を見ることは無くなった。
妹の乳母となっていた。
乳母と入れ替るように今度は姉が良く遊びに来るようになった。
部屋の入口でこちらの様子伺う幼女。
当初フレイは何者か見当も付いていなかった。
王家の三男であることは生まれる前に聞いていたが、姉がいるとは考えていなかった。
その幼女と侍女との会話で姉であることを知った。
3歳を過ぎた頃、終にオムツが取れ、文字の読み書きや王室の作法などの学習が始まった。
フレイは、ここがミッドガルド王国の王都イダヴェルと知った。
学習の休みの時間は姉と庭で遊ぶことが多くなっていた。
姉の名は『イズン』2歳年上の長女。
王家の子は上から、長男、次男、長女、三男、次女の5人。
この国の国王夫妻は子育てに全く関わらない。
父である国王の顔は見たこと無いし、母も顔を見たのは十回に満たない程。
用事がなければ一度も顔を合わせずに天寿を全うするかも知れない。
その影響か、兄妹も用が無ければ会わない。
それでもイズンだけは別で何故かは分からないがよく遊びに来てくれる。
イズンは優しくお淑やかで可憐。
少しおっとりした感じがまた良い。
街のことに詳しく、特に衣類やスイーツに関しては各店舗の品揃えまで把握していた。
この国の王家の子供達は、5歳を過ぎると少数の護衛を伴えばお忍びで街に出ても
お忍びであれば15歳で護衛も原則不要とのこと。
また、体術か剣術の実力が認められれば15歳を待たずにお忍びでの単独外出が認められる。
それだけ王も王都の民もこの街の安全に誇りを持っていた。
それでイズンは、街のことに詳しいと言う訳だ。
それでも犯罪が無くなることはない。
現代日本より少し危険な位を考えると丁度よい。
フレイも5歳が早く来てくれることを願うようになった。
(希望通りの世界であれば、自分が住む街は異世界ファンタジーのテンプレ、美しい中世ヨーロッパ風の建物が並ぶ街のはず!)
ワクワクが止まらない。
そして、終に訪れた5歳。
フレイの王都散策が始まった。
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