6章 フロンティア

36. ログハウス

 ミッドガルド王国の東海岸から10数キロメートル沖に浮かぶ大きな島。


 島は日本の本州を二回り程小さくし、北東から南西に細長い、傾き加減も本州に似ている。


 植生は島全体が熱帯雨林で、鳥や猿がうるさい。


「これでよし。」


 王都を出た直後にこの島へ転移したアース。


 島の東の中央には小さいビーチが点在している。

 そのビーチの一つを拠点に決めた。

 拠点の砂浜から内陸へ約二百メートルも進むと鬱蒼とした森が広がっている。


 この森の中に住まいを建てることにした。


 月灯りしかないこの世界では星の瞬きが際立って美しい。


 こんな暗がりの中、明かりもつけずに木材を魔法で加工しているアース。


「全ての木材をこの島で調達したログハウス、完成!」


 誰に説明しているのか、周りに人影はない。


「森に囲まれているので外からは見えません!」


 海から小屋は見えにくいが、小屋から海はよく見える。


「上下水道も完備!」


 魔法を使えば水を出したり排泄物を処理したりは自在だが、来客を想定して整備した。


「よし、ここではアースを名乗ろう。」


 アースは名乗る相手がこの島にどれ程暮らしているのか心配になり、魔法で人の気配を探すし始めた。


「暗いなぁ。」


 魔法で補正を試みると以外と簡単にできた。


「南側の平野部に住んでいるだけか。」


 大きな島だが人が住めそうな平野は南側だけにしかない。


「おおよそ二千人くらいかな。」


 ミッドガルド王国ではこの島を自国の領地とも他国とも思っていないし、調査に訪れた記録もない。

 人が住んでいるとも考えていないだろう。


「それにしては文明レベルは王国と大差ないな。」


 魔法で細かく暮らし振りを眺める。


「インフラも整っている。」


 規模は大きくはないが必要十分。


「古いけどメンテナンスが行き届いている。」


 かなり昔から定住している様子が伺える。


「どれも独自色が強いから王国と交易していないと思って問題なさそうだな。」


 服装や建築様式は文化によって異るが、技術の進歩は他国の影響を受けて似たような造形になるものだ。


 しかし、ここの技術は王国とはまるで違う形で発展をしている。


「この島には発明家がいるのか?……まあ、どこにでもいるだろうなぁ。……電気とか発明されたら悲しいかも……」


 人の観察に飽きたアース。




「島全体は?」


 魔法で島の様子をうかがう。


「あーいるいる、獣が結構いるなあ。熊、イノシシ、鹿、狼、森の中は危険だなぁ。だからこの辺りが空いていた訳か。」


 この辺りはビーチが美しいが二百メートル足らずで森になり、起伏も激しいので、人が住むには厳しいと言える。


「なるほど、獣対策が必要と。」


 アースは小屋の周りに結界を張り柵を設けて、獣が入れないようにした。


「柵はいらないけど、人が見てもおかしくないようにね。」


 人目につかない場所だが人の目を気にするアース。


「さてと、今日はこれくらいにして寝よう。」


 ログハウスで就寝。





 翌日。


「今日は強力な魔法を試してみよう。」


 王都では人目を気にして試すことができなかった事の一つ。


「最初は戦艦一隻を沈める程度の火力をイメージして……」


 上空に光る球体が出現した。


「とう!」


 空に向けて放つと、衝撃波で体が吹き飛び爆音が轟いた。


「イテテテ、あれ?耳が聞こえない。」


 魔法で身体を治して反省する。


「結界で身体を守ってから使わないと駄目だね。……王都で試さなくてよかった。」


 周りを見渡すとクレーターの中心にアースがいた、建てたばかりのログハウスも美しかったビーチも消し飛んでいた。


 更に、クレーター内に海水が流れ込みアースを飲み込もうとしていた。


「危な!」


 魔法で元に戻して今のはなかったことにする。


「上空に放っても反対側にこれだけの被害が出るのか、射撃のリコイルみたいなものかな?これを抑える方法も考えないと、危なくて使えない。」


 これを使うつもりがあるかは定かではない。


「他には……あっあれを試そう!」


 と言ったとほぼ同時にアースの体が宙に浮く。


「おっ、いいね!」


 空中を移動して感覚を覚える。


「じゃあ、上へ参りますか!」


 一気に上昇。


「耳がおかしな感じになってきた。」


 周りに結界を張り気圧が下がらないようにして更に上昇。


「少し寒くなってきた。」


 結界を調節して温度変化をなくして更に上昇。


「そうだ、宇宙線対策もしないとね。」


 結界に宇宙線を遮蔽する機能を追加して更に上昇。


「息苦しくなってきた。」


 魔法で空気の成分を常に大気中と同じにして更に上昇。


「この星の周りを高速で周回すれば加減次第で無重力にもなるんだよなぁ。」


 ふと、下を見るアース。


「おーー!この星も綺麗だなぁ。」


 もちろん地球と比べている。


 暫くこの星の美しさを堪能する。


「じゃあ、戻るとしますか。」


 無重力体験は別の機会にした。


「よし。」


 帰りはログハウスまで魔法で転移。


「次は予め結界を張って宇宙まで転移しよう。」




 こんなことを繰り返し2ヶ月か過ぎた頃、アースはこの星の周回軌道上に木造の実験棟を建設し、『キボンヌ(仮)』と名付けた。




 キボンヌ(仮)では主に魔法による重力の再現に取り組んだ。


 重力の再現は2週間程で成功。


 次にアースはキボンヌ(仮)にネズミのつがいと種を植えた植木鉢を持ち込み飼育と観察を始めた。


 それと同時に森の中に、大きさが体育館程のログハウスを建設した。


「うん、いい出来だ!」


 それから約1ヶ月、キボンヌ(仮)のネズミは繁殖し、植木鉢からは、芽が出て成長していた。


「ここまでは順調!……最終段階に入ろう、先ずは!……ウリャ!」


 キボンヌ(仮)から島の大きいログハウスをキボンヌ(仮)の近くに転移させる。


「おお!上手くできた!」


 転移無法を応用して、大きな物をA地点からB地点へ転送させる実験に成功したアース。


「ふっふっふ、これで大体の物はキボンヌに保管しておける。」


 良からぬことを企んでいそうなアース。


「あとは、ドッキングして、重力と結界を調節してと………」


 キボンヌ(仮)とログハウスをドッキングして改めて『キボンヌ』と命名した。


「ヨッシャー!」




 





「さて、次は……あれか……」


 今の環境であれば、転移魔法を比較的自由に使える。


「今のうちにやっておこう。」

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