35. 何度も言いましたが

 イズンの執務室で神官服のような物を纏う若い男がイズンと話している。

 



「どう言うことですの?早く見つけなさい!」


 イズンが怒りをあらわにしている。


「それが、見つからないのです。」


(姉上、怯えている感じは全くないな。あと、誰だこの男?何が見つからないの?)




「フレイが病原菌をばら撒いていると言ったのは、あなたですよ。」


「そうです、史跡研究所から感染者は出ていません。絶対にフレイ殿下が特効薬を用意した上で病原菌をばら撒いたのです。」


(ほう。そう考えたか。)



「その特効薬が見つからなければ、お話になりません。証拠が必要ですわ。」


「フレイ殿下に薬の在処について尋問したいのですが。」


(薬なんてありませーん。)



「医療組合のあなたが王族に尋問を?」


「できませんか?」


(医療組合の人なんだ。正式名称は医療従事者組合だったか?)



「無理ですわ!」


「国王陛下には無理を通したではないですか。お陰でフレイ殿下を軟禁できたのです。」


(お前達が黒幕か!)



「あれは娘として父上にお願いしたのです。娘の我が儘を通した形ですわ。」


「また我が儘を通せばよろしいのでは?」


(この男、イズンの弱みでも握っているのか?)



「史跡研究所の捜索にあなたが同行する許可だって父上にお願いしたのです。」


「………」


(国王陛下、娘に弱すぎないか?)



「流石にもう無理です。シグル。」


「………」


(そりゃ無理だろ!……シグル?あっ、この男の名前か。)



「んもぉう……仕方のないお方ですわ。そんな目で見ないでください。」


「ありがとうございます。」


(えええー。キスしやがった!)



「………」


「隣へ行きますか?」


(隣?)



 執務室の隣にある部屋へ移動する二人。


(執務室の隣にベッドルーム作ってんじゃねーよ!)




 数日後。



「医療従事者組合、王都支部長のシグルです。」


 フレイが軟禁されている自室にシグルが訪れた。


(無理が通ったよ!)




 王都では感染症の第二波が来ていた。


 ここでは、そんな事お構い無しでフレイを取り調べている。


「フレイ殿下はこの病の特効薬をお持ちのはずです。それを医療従事者組合に分けて頂きたいのです。」


「シグル殿、私は特効薬など持っていません。」


「嘘を申されていませんか?」


「いいえ。」


「では、なぜ史跡研究所から感染者が出ないのですか?」


「何度も言いましたが、栄養価の高い食事と除菌の徹底です。」


「それは私達もやっていますが同じようにはなりません。」


「何度も言いましたが、除菌が足りていないと考えています。」


「そんなことはない!」


「………」


「あと、食事と除菌だけであれば、なぜ今は感染者を史跡研究所で受け入れていないのですか?」


「何度も言いましたが、所員だけでは、除菌がなおざりになります。」


「所員が特効薬の隠し場所を知らないからではありませんか?」


「いいえ。言い掛かりは止めてください。」


 これを何度も繰り返した。




 不毛な取り調べにうんざりしたフレイ。

 シグルの思考を魔法で読んでみた。


(あー、そういうことか!)


 魔法で色々な情報を集めていたが、医療従事者組合側の考え方は知らなかった。


(メンツを潰したってことか!)


 いつの世もメンツは厄介なものだ。


(一介の研究者がやりすぎたか。………いやしかし、緊急事態にやりすぎとか……)


(食事と除菌で治したと主張したから、医者でもない者が医療行為をしたと、難癖を付けることも無理がある訳か。)


 医療従事者組合がどうやっても治められない感染症を、一介の研究者が治して見せたことでシグルはメンツを潰されたと考えた。


(相談してくれれば協力したのに………プライドが許さないか。)


 この国の王位継承権は男女を問わず平等。

 兄二人が他界した場合、フレイの姉イズンが継承権第一位となる。


 しかし、イズンは王の任に就いてもフレイがいたのでは好き勝手ができないと思い、フレイが邪魔だと考えた。


(言ってもらえれば辺境の地でハーレム&スロライフを満喫したのに。……それに俺がいなくても好き勝手はできないと思うよ。)


 そんなイズンとシグルが出会い、フレイを亡き者にしようと画策した。


(他にもやりようがあっだろうに。)


(あーーー面倒くさい………もういい。)


 アースは生後数日の頃に考えたことを思い出した。


(いずれは解決する必要があったんだ。)


 アースの心は決まった。





 その日の日没後、フレイは計画を実行した。


「ん、ん、あー、あー、王都の皆様今晩は。」


 魔法で特大の幻影を王城の上空に展開。

 なるべく神々しく見えるようにデコレーションしてライトアップ。

 フレイ本体は透明化。

 大音量で王都の民衆に語りかけた。


「ご存知かと思いますが、私はこの国の第3王子で史跡研究所所長のアースです。」


 先ずは自己紹介。


「史跡研究所では、古代魔法の研究も行っています。これから、その古代魔法で王都にはびこる菌を死滅させます。」


 マジックショーを思わせる説明。


「しかし、この魔法は使った者の命を贄とします。」


 そう、ここが大事。


「ですので、私の姿が消えたら魔法は成功したことになります。」


 フレイは近い将来起こる問題を解決することにした。

 第3王子だけが老いることがない状況だ。


「皆さんが幸せに暮らせることを心から祈っています。」


 フレイは魔法で王都全体を除染した。


「それでは、さようなら。」


 フレイは、空に飛び立つように幻影を消し、魔法ではるか遠くの森に転移した。





「あーーースッキリした!」




 とある辺境の地にある深い森。


 ここが再スタートの地となる。


「ハーレム作れなかった!……残念!」

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