34. 白々しい

 アースは、研究所の所員全員にも気付かれないように除染をして免疫まで与えた。




 アースとエルルは門を出た直後に、魔法で門に結界を張り、群衆の乱入を阻止。


 アースとエルルの周りにも結界を張り二人で群衆をかき分け重症者と親子の感染者を探す。


 見つけ次第研究所の敷地内に運び除染。


 これを三日三晩、不眠不休で繰り返したが、重症者は増えるばかりだった。


(いっそ王都全域に魔法を発動するか?)


 アースなら簡単だし魔法をかけられた本人達に対しても気付かれないようにできる。

 しかし、それでは収束の仕方が余りにも不自然だ。


(それにしても重症者が多い。しかも亡くなるまでが早い。)





 こんな状態のまま2週間が経過した。


 所員には交代で休息を取ってもらっている。


(本業どまるでまるで違う業務だからねぇ。)



 アースはこの2週間、不眠不休で魔法を使い続けたが、魔力が枯渇する感覚は全くない。


(魔力が枯渇する気がしない、どうなっているの?治癒魔法を応用すれば眠気もどうにかできるんだ、魔法は便利だね。)



 集まる群衆も冷静さを取り戻し、自主的に列を作るようになった。


 おかげで、アースがエルルを守りながら重症者を探す必要もなくなった。


 エルル達は列の中から重症者や急に倒れ込む人達を見つけ出し施設内に移送すればよい。


(整列するだけで随分変わるもんだなぁ。)


 アースは門の近くに設置したテントの中で一人ひとり処置を施しているふりをしつつ魔法で除染した。


 群衆のパニックで、敷地から出られなくなっていた除染済みの人たちも、ようやく家に帰ることができるようになった。


(広い敷地で本当によかった。)



 炊き出しも徹夜で列に並ぶ人たちの分にまで手を回せるようになった。


(帰るように伝えたけどダメだったなぁ。)


 順番が後回しになることを嫌ったようだ。



 街全体が冷静さを取り戻しつつある一方で、重症者が減る様子はない。





 そんなある日、王宮から迎えの馬車がきた。


(噂が王宮に伝わったか?)






 王宮に到着すると、自室で着替えるように案内されたアース。


(緊急事態ではない。)


 執事に案内されるがままに到着した場所は『謁見の間』。


(これから会うのは父上か?)


 王家の者が感染したのであればその者のところへ直行すればよい。

 

 謁見の間の扉が開く。

 ここからはアースではなく第3王子のフレイとなる。


 国王の前で膝まづこうとしたフレイ。


「よい!」


 静止する国王。


「恐れ入ります。」


「お前の此度の働きは聞いた。」


「ありがとうございます。」


「どう見ておるか聞かせてくれるか?」


「はい、この度の流行り病は毒性が強く感染力も高いようです。」


「うむ。」


「ですので、体内に入り込んだ菌を死滅させ、綺麗な空気の中で休むことで治ると思っております。」


「で、お前はどう対処している?」


「栄養価の高い食事を与えて体内の菌と戦える体力を作ってもらい、実験棟で休んでもらいます。」


 魔法を使っているとは答えられないフレイ。


「ほう。」


「研究所の実験棟に入る前は、必ず純度の高いアルコールで手を洗います。」


「………」


「あと、実験棟の空気を定期的に入れ替えることも大切です。」


「で、その結果は?」


「はい、感染者の殆どが良い方向に向かっております。」


「……して、研究者のお前がなぜそれ程に詳しい?」


「遠征で得た知識にございます。」


「……王都の全医師が似たようなことを行っても治せなかったが、それはどう思うておる?」


(魔法で除染した時と同じ精度は出ないわな。)


「なぜ、呼び出すまで王宮に顔を出さなかった?」


(無理、食事の時間すら惜しい状態だったのに。)


「医療組合の者に手ほどきしておればお前だけが苦労することも無かってであろう。」


「………」


「王宮に来ていれば、お前の兄二人が逝く前に何とかなったのではないか?」


「兄様達が……逝かれたのですか?」


「……白々しい。」


「………」


「民衆はお前を『聖人』と崇めておる。」


「私をでございますか?アースではなく。」


「第3王子フレイをだ!」


(どういうことだ?)


「お前の姉イズンは、お前に殺されると怯えておる。」


「お待ちを!」


「もう良い、言い訳は他の者が聞く。連れてゆけ!……口惜しいぞフレイ。」



 フレイは自室に軟禁された。



 取り調べはフレイの自室で行われたが、酷いものだった。


 フレイが菌をばら撒いて兄弟を殺害し、王位の継承を目論んだ。


 当然、治療するための薬も用意して、フレイだけが治せるようにした。


 この線で自白を促すことが取り調べの目的で、アースには発言する機会を与えない。


(どうしよう、このままだと民衆の支持がなくなった時点で投獄されて極刑だろうな。)


 不毛な取り調べが続き、アースは取調官の問には『黙秘』と答えながら、魔法で外部から情報を集め始めた。


(兄上が他界したのは事実だったか、残念だ。民衆にはまだ伏せているのか。)


「………と言うことではありませんかな!殿下!」


 取調官の強い言葉が飛んできた。


「黙秘します。」


「ぬぬぬ……」


(姉上は大丈夫か?怯えているらしいけど。)


 魔法で姉のイズンの様子を探る。


(思いの外、元気そうで良かった。怯えているらしいから、マークだけしておこう。)


 何か変化があった時にフレイにも分かるよう魔法でマークする。


(外の様子はどうかな……)


 どうやらピークは過ぎて新たな感染者は減りつつあると噂している。


(このまま沈静化すればいいけど、増えたり減ったりを繰り返すらしいから油断できないよね。……そうだ、研究所はどうだ?)


 研究所の様子を探る。


(時々患者が訪れるけど、スリマが断っているみたいだね、申し訳無さそうにしている、ごめんねスリマと患者さん。)


 こんな調子で数日が過ぎたある日、イズンのマーカーが反応した。


 様子をうかがう。




「どう言うことですの?早く見つけなさい!」


 イズンが怒りをあらわにしている。


「それが、見つからないのですよ。」


(姉上、怯えている感じは全くないな。あと、誰だこの男?何が見つからないの?)

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