31. 脱いだほうが効果は高まると
その時が来た。
場所は『史跡研究所』。
前回同様メイドに応接室まで案内されるノルンとクレア。
「邪魔するぞ。」
緊張の面持ちのノルン。
「お邪魔します。」
クレアも緊張の面持ちでノルンの横に立っていた。
「ようこそ。お待ちしていました。」
対象的にアースは晴れ晴れとしていた。
数日の間に考えは纏った。
先ずはノルンの術を全て取り払う。
次にノルンの身体を魔法で作り変えてしまう。
こうすれば体内に禍々しい魔力が残り続けることはない。
作り変えた身体は、次の特徴を持つ。
1. 作り変えた後に産まれた最初の子は女児で長寿となる。
2. 最初の子にその特徴は遺伝する。
これで、あの秘術と名乗る呪いと互換性を担保しつつ妙な石も不要になる。
石が不要になった言い訳も用意してある。
あと、心臓に施された長寿の術は元々数万年老いること無く生き続ける性能がある。
この点だけを見ればノルンの先祖は、ほぼ不老を実現できていたと考えて良いかもしれない。
ただ、この性能を阻害しているのが子宮にある女児を産む術だった。
この術が発動するすると、長寿の術の性能が極端に劣化し、発動後数百年程しか生きられない。
実に数十分の1以外まで劣化する。
代を重ねると耐性がつき寿命が多少長くなっていくようだが、千年程度が限界なようだ。
ノルンの母の寿命が500年程だったのに対し、ノルンが4,000年を生きてもなお健在なのは、女児を産む術が発動していないことに起因している。
すなわち、ノルンはまだ数万年生きると考えて間違いない。
この辺りを踏まえ、作り変えたノルンの身体には以下の特徴も付加する。
3. 子を産まなければ数万年生きる。
4. 子を産んだ時は、代を重ねると徐々に寿命が伸びるが最初の子を出産した後千年程度が限界。
これが、今回アースが考えた施術の全容だ。
秘術に使う石は後で探して無効化する。
「今日は頼むぞ。」
4,000年の人生で最も緊張しているノルン。
「はい、気を楽にしてください。時間はそれ程必要ありません。」
準備は整っている。
「そうなのか?」
ノルンは秘術の時と同じく一晩位の時間を覚悟していた。
「はい、そのために専用の器具を用意しました。」
嘘をついたアース。
用意したのは厚手のタオル二枚だけ。
「すまぬの。」
素直に感謝するノルン。
「では、早速始めます、寝室へどうぞ。」
少し申し訳ない気持ちのアース。
「ああ!」
とノルンが言うと、3人は寝室へ移動した。
「器具を持って来ます。横になってお待ちください。」
アースはタオルを取りに行った。
「承知した。」
ノルンがベッドに向かう。
「これが施術に使う器具です。」
アースがタオルを大袈裟に見せる。
「ただのタオルではないか?」
ノルンがツッコミを入れる。
「そう見える所が凄いのです!」
考えておいた嘘の説明を始めるアース。
「??」
意味がわからないノルン。
「恐怖感を与えないために少し厚手のタオルに見えるように作りました。」
いいや、ただのタオルだ。
「そこまで考えてくれたのか…」
ノルンは気遣いに感動した。
「あれ?なんで脱いでいるのですか?」
思わぬサービスショットに口が滑った。
「エッ!脱がんでもよかったか?」
そう、前回と同様に下着だけになっていたノルン。
慌てて服を着ようとする。
「あっ!いいえ、そのままで!」
本能で制止したアース。
「???」
何故止められたか分からないノルン。
「そのっ!脱がなくても大丈夫だと思いますが、脱いだほうが効果は高まると思うので。」
効果が高まる訳が無いが、今高まると思ったアース。
少なくともやる気は高まった。
間接的に効果も絶対高まると今思った。
「本当かぁ?」
明らかに嘘くさいが、身を委ねる覚悟はできているノルン。
「はい。…美しい…」
既に見惚れているアース。
4,000年を生きた身体だが老化の兆しがまるで見えない、実に美しい。
「んんんー」
覚悟はできている。
できているが、身の危険を感じずにはいられない。
体が強張るノルン。
「ハッ!!」
これだけ長寿だと大怪我もあっただろう。
しかし、何故か傷跡は見当たらない。
こう思った所で急に正気に戻った。
「アッアースよ…?」
心配そうなノルン。
「済みません、美しい身体なので、魅入ってしまいました。」
本心が漏れたアース。
「そっそうか…」
何故か照れたノルン。
「あのっ、ノルンさん程長寿だと大きな怪我とかされたと思うのですが、傷跡が殆ど見当たらないのは何故でしょう?」
アースは先程の疑問を聞いてみる。
「あぁ、この世で唯一の試作品じゃ、大切にしていることもあるが、大怪我でも二百年もすれば大体は傷跡すら消える。」
こともなげに答えるノルン。
「エエエ?」
信じられないアース。
「誰しも同じと思うぞ、先に寿命が来ておるだけじゃて。」
ノルンは本気でそう思っている。
「アハハハ、なるほど、あっ、あと一つ施術の前に調べておきたいことがあります。」
アースにはやらなければならない芝居があった。
「何じゃ?」
急に改まったアースにノルンも真剣な表情で返す。
「秘術の石に関することです。」
アースの猿芝居が始まる。
「あっ!」
ノルンの中にある術が元に戻ってもあの石がないと子孫に受け継げない。
「姿勢はそのままで。」
アースは嘘がバレないように前回より入念に調べるフリをした。
「すっ…済まぬ。…ハァ!」
石を失ったことに後ろめたさを感じているノルン、妖しげに詫びた。
「ふぅ、良かった。」
わざとらしい演技のアース。
「どうじゃった?」
わざとらしさを感じてはいたが、ノルンは真剣に聞いた。
「安心してください、今後、その秘術は必要ありません。」
芝居掛かっているアース。
「なんと!」
驚くノルン。
「ノルンさんが秘術を2,000年以上体内に留めて置いたお陰で、術が定着して石が無くても最初の子に継承されるようになっています。」
これが、アースが用意した言い訳。
「そうなのか!」
嘘くさいと感じていたが、ノルンは既にアースを信じることにしていた。
ただの変態にしては手が込んでいる。
「はい、ノルンさんのご先祖は最初からこのように設計されていたのでしょう。」
これも詳しく説明を求められた時に用意しておいた言い訳。
「ほう。」
ノルンは同じように嘘くさいと感じつつ続けるように促す。
「このまま代を重ねて寿命が2,000年を超えたときに石が必要なくなるようにお考えだったようです。」
これも嘘である。
猿芝居終了。
ノルンは嘘だとしても自身のことを気遣ってのことだと思えた。
それに、石が不要になることは本当だろうと感じてもいた。
勿論、アースの施した術が成功すれば、の話だが。
「では、うつ伏せになってください。施術を始めます。」
アースは嘘がバレているような気がしてならない。
早く終わらせたくなってきた。
「………」
ノルンは施術の本番を迎えたことで緊張がピークに達した。
「はい、終了です。」
うつ伏せのノルンの胸と腰にタオルを置いてその上に手を当てて5秒ほどで魔法は終了。
本当は手を当てる必要もない。
やっている振りだ。
アースの魔法は大袈裟なアクションも詠唱も不要、頭の中でイメージし、フッとなったらボンで発動する。
「これで…戻ったのか?」
ノルンは呆気ない程簡単に終わり途方に暮れているが、身体の変化は確実にあった。
「前にも言いましたが、運が良ければ、です。」
前回言った嘘の整合性を取るためまた嘘を重ねたアース。
「知っておる。」
ノルン身体で成功を感じている。
「ノルンさんが女の子を授かって、その子が百年以上亡くなることが無ければ一先ず成功と考えて良いと思います。」
アースは説明を続ける。
「………」
ノルンは感動が込み上げ涙が止まらない。
「先ずは妊娠することですね。」
アースは涙して震えているノルンに一生懸命声を掛けたが言葉選びはイマイチ…
「…今、今試さぬか!アースよ!儂と!なぁ!」
ノルンの感情が爆発、いや暴発した。
「ノルン様!!」
クレアが入る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます