28. 下着で占ってもダメです!

 喫茶店での話から数日後、ノルンとクレアは待合せの屋敷を訪れた。


 看板には『史跡研究所』と書かれている。



 クレアがドアノッカーで到着を告げると、玄関の扉が開きメイドが中へ通す。



「お見えになりました。」


 メイドが玄関に最も近い扉の前に立ち、向こう側にいる占い師に声を掛ける。



「どうぞ中へ」


 返事をする占い師、メイドが扉を開けるとそこは応接室、占い師は下座の前で立ち、手で上座へ座るように二人を案内する。



「邪魔するぞ。」


「お邪魔します。」


 ノルンとクレアは案内されるまま上座に腰を下ろす。



「今お茶を淹れます。スリマ、お願いします。」


 占い師がメイドに指示する。

 メイドの名はスリマという。



「気遣いは無用。」


「お構いなく。」


 二人は少し緊張している様子。



「大丈夫ですよ、リラックスしてお話しするためのお茶です、毒なんか入れませんよ。」


 冗談のつもりの占い師。



「返って怪しいわ!」


 ノルンはこの占い師が自分の目的の鍵を握る人物だと考えているが信用はまだできていない。



「気をつけましょう。」


 小声でノルンに注意するクレア。



 3人の前にに温かい紅茶が置かれる。


「改めまして、私はアースです。」


「また名が変わっておらぬか?ノルンじゃ。」


「初めまして、クレアと申します。ノルン様の子孫です。」



「どうぞ、冷めないうちに。」


 二人に紅茶を勧めつつアースもカップを手にとる。


「うん」


「有難う御座います。」



「では、先ずはお話ししましょうか?」


 早くノルンの歪んだ魔力の正体を調べたいアース。


 こう言ってはいるが、本音では話す時間は最小限にしたいと考えている。



「儂はサッサと占ってもらいたいがの。」


 ノルンも話している時間は勿体ないと思っているようだ。



「いいのですか?」


 クレアは初対面のこの男をまだ信用していない。


 ノルンに少し待つように促す。



「じゃあ、脱ぎましょうか?全部。」


 クレアに邪魔されそうな気がして焦ったアース。


 咄嗟に言った言葉がマズかった。



「「はぁ?」」


 ノルンとクレアが同時に驚く。



「お主の占いは全裸が基本かぁ!」


 ノルンが当たり前の抗議。



「そうですよ。」


 開き直ったアース。



「無いです!そんな占い!絶対無いです!」


 クレアも当たり前の抗議。



「下着姿で何とかならんかのぉ!」


 下着姿ならOKを出したノルン。



「下着で占ってもダメです!」


 当然クレアにとっては下着姿でもあり得ない。



「仕方ないなぁ。」


 これ以上クレアに邪魔されたくないアース。


 下着姿で妥協する。



「何とかなるんか!」


 全裸に拘っていたのに下着姿で妥協したアースを再び怪しく感じたノルン。



「胸と子宮を診るのです何もない方がイイに決まっているでしょう、でも今回は下着姿でもいいです。」


 開き直ったら、相手がどう思うかなんて気にしなくなったアース。



「下着が大丈夫であれば、服を着ておっても問題なかろう。」


 ノルンは自身にとってこの男が貴重な存在であることは間違いないと考えているが、そのような変態だとも思っていた。



「だからぁ、胸と子宮に伸びている根を詳しく診るのです、直接肌に触れて…」


 焦れたアース。



「キャーーー!ダメですわ!この方はダメですわ!変態占い師ですわ!てか占い師でもありませんわ!気持ちが悪いですわ。」


 クレアは、錯乱気味。



「酷いなぁ。クレアちゃん。」


 楽しくなってきたアース。


 怪しい笑顔でクレアちゃんを見た。



「ヒィィィ。帰りますよ!ノルン様、気持ちが悪くなって参りました、タダの変態でしたわ!全部脱げだなんて!」


 パニック状態のクレア。



「…良かろう。」


 承諾したノルン。



「へっ!」


 信じられないクレア。



「おっ!」


 全裸OK?と思ったアース。



「先ずは話そうぞ。」


 先ずは話すことを承諾したノルン。



「はっ!」


 動かなくなったクレア。



「そっか。」


 残念そうなアース。






「我ら一族は、代々不老不死の研究を続けてきた。」


 ノルンが話し出す。



「ほう。」


 アースが相槌。



「その研究の成果が儂じゃ。」


「ほうほう。」



「我らの長寿は秘術によるモンなんじゃよ。」


「秘術?」



「そうじゃ、初産の女児が17歳になった時に執り行う儀式でのう。この時に秘術を施すわけなんじゃ。」


「初産の17歳女子…」



「秘術は煙を炊いた部屋で、3つの石を丹田の辺りに置いて朝まで仰向けでいるだけなんじゃが、秘術を施した者は皆長く生き、初産は女児に恵まれるんじゃよ。」


(3つの石、丹田、秘術…石に魔力を…魔石??)

 魔石の存在はアースにとっては厄介だ。

 今後の方針にも関わる。



「代を重ねてその術を施すと、その度に更に長寿になってな。」


「代を重ねる…」



「ただ、今までの寿命の伸び方に比べて儂だけ飛び抜けて長寿でのぉ。」


「飛び抜けて長寿…」



「年齢に応じて耳も成長して尖ってゆくのは謎だがな。」


「耳が大きくなって尖る…」



「残っている文献によれば、当初の秘術では石は一つで男女や年齢を問わず試したそうじゃ。」


「ほぅ、石が一つ…」



「すると、初産の女児にしか効果が現れんかったと書かれておった。」


「なるほど、それが心臓の根かな?」



「その後は、誰でも長寿になる術を目指したが、難航した、ある時、別の研究者が初産の子が女児になる術を完成させ、石が2つになった。」


「あぁ、それが子宮の根、と言う所かな?」



「その後は、生存率を上げて代が途絶えないように石が3つになったそうじゃ。」


「あぁ、胸の根だな、母乳でも細工したのか?手の込んだことを…」



「儂もこの術を受けたんじゃが、その時には妊娠しておってのぉ。」


「妊娠していた…へ?」



「無事に産まれてくれたが、男児じゃった。」


「いやいやいやいや、怖い怖い怖い怖い!一歩間違えれば死産でしょ!無事だったの奇跡っしょ!」



「そうか?長寿ではなかったが、人並みの天寿を全うしたぞ。」


「えええ…」



「ただ、一族が皆人生を賭けて培って来た研究を儂が途絶えさせた。」


「………」



(これは、もう…呪いと呼ぶべきでは?)


 アースは、長い年月を経て歪めた魔力の塊を人の体内に埋め込んだこの禍々しい秘術を『呪い』と表現した。


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