29. 右ストレート

「ヨシッ、そろそろ診てもらえるかな?」


 覚悟を決めたノルン。



「では、隣の部屋へ。」


 隣の部屋は寝室になっている。


 この屋敷はアースが魔法を研究するために用意した施設で、時間が必要な研究のために寝室の用意がある。


 そんな訳でアースはここを選んだ。



「寝室…ですか?」


 クレアの不信感は拭えない。


 アースがノルンに変態行為をするために寝室を選んだようにしか見えていない。



「ここは古代魔法を研究するための施設なので、仮眠を取るための寝室はありますが、医療用のベッドはありません。」


 クレアを誂って遊んでいるアースだが、本心ではクレアにも信じて欲しい。


 懸命に説明する。



「古代魔法の研究ですか?」


 占いのために古代魔法が必要あるのかを必死に考えているクレア。



「はい、私は古代魔法の研究をしている者なのです。」


 アースが占い師ではないことを明かした。



「やはり!変態偽占い師!」


 とクレア



「最初からそう言えば良かったではないか?」


 クレアをスルーしてノルンが入る。



「古代魔法研究で人を誘うのは、怪い宗教の勧誘手口です。」


 とアースは平然と言う。



「お主のは人さらいの手口じゃろう。」


 自分を棚に上げるのもいい加減にしろとばかりにノルンが言う。



「えっ!そうでしたか?」


 気付いていないアース。



「ハァ~。」


 呆れるノルン。



「ノルンさんに何か不思議な力を感じたので声をかけたのですが…」


 ぼやかした答えで誤魔化すアース。



「で、下着は着けていて良いのだな。」


 ノルンが服を脱ぎ始めた。



「仕方がありません。」


 アースはまだ全裸がいい。


 不満そうにメイドに温かいおしぼりを幾つか頼む。



「見ないでください。」


 クレアがベッドにあった毛布でノルンを隠す。


 服を脱いでいるノルンを見られていることが気に障ったらしい。



「ゴメンナサイ。」


 直ぐに診るのだから構わないような気がして少し納得できないアースだが、服を脱ぐ音だけの方が何かいいと思え堪能する。



「変なことをしたら殴りますよ。」


 気配が伝わったのか、クレアが警告する。



「しませんよクレアちゃん。」


 不気味な笑顔でクレアを見るアース。



「ヒッ!」


 咄嗟に手が出てしまった。


 グーで。


 ノルンを隠していた毛布が落ちた。



「ブギッ!」


 殴り掛かってきたクレアではなくノルンを凝視してしまったアース。


 クレアの渾身の右ストレートが顎にクリーンヒット。一分程気絶した。



「警告したはずです!」


 とクレアは言ったが、アースには聞こえていなかった。







「で、では、始めます。診るだけですので気楽に。」


 ぎこちない喋りのアース、顎に濡れたガーゼが貼り付けてある。


 気絶している間にメイドが手当を施していた。


 メイドは何も言わない。


 自業自得とばかりにジト目でアースを見ている。


 全てを見られていたようだ。



「頼んだ。」


 ベッドに仰向けで横たわるノルン、アースに気を使ってか、腹の脇に手を置いている。


 何故か拳が軽く握られている。



「あっ、診ると言っても触診もしますよ。」


 とアース



「あぁ、良い!」


 何故か拳が強めに握られている。



「必要なら下着の中に手を入れることも…」


 とアース



「承知しておる、サッサとやれ!」


 何故か拳が震えるほど強く握られている。



「やっぱり帰りましょうよ、ノルンさまぁ。」


 クレアがおしぼりで右手を揉んでいる。


 アースを殴った時の怪我を案じてメイドが手渡したみたいだ。


 実に気の利くメイドである。



「先ずは、丹田から」


 アースはへその少し下に右の掌をそっと置き探るように手を動かす。



「んっ!」


 とノルン



「次は心臓。」


 アースは左右の胸の間に右の掌をそっと置く。


 心臓の位置とそこにある根のような物の正体を探る。



「はぁ!」



「次は胸。」


 アースは胸の膨らみを左右の掌で包み込む。


 乳房の内部にある根のような物が果たす役割を探るように両手を動かす。



「あっ!」



「最後、子宮です。うつ伏せになってください。」


 アースは丹田の裏辺りに右の掌をそっと置き探るように手を動かした後、左右から腰を掴むように手を置き再び探り始める。


「ハゥ!」



「済みません、もう一度仰向けになってください。」


 アースは丹田を避けて子宮を診るため、へそより大分下へ手を延ばす。


 アースの手は下着の中へ入り親指以外が隠れた辺りで止まり、そこから身体の上に向かって探るような動きをした。



「あぁ。」



「はい、終了です。起きてください。」


 メイドが用意したおしぼりを受け取るアース。



「クレア、顔が真っ赤じゃぞ。」


 ノルンがクレアを見て微笑んだ。



「えっ」


 クレアは何故か顔を真っ赤にし、放心状態で立っていた。



「で、アースよ、何か解ったことは?」


 メイドから温かいおしぼりを受け取りながらアースに聞く。



「はい、まず、心臓に施された術ですが、やはり初産の女児を長寿にする術です。」


 アースが話し出す。



「うん」


 ノルンが相槌。



「次に、子宮に施された術は2つあります。」


「ほぅ。」



「一つは術を施した後に妊娠した子を女児にする術です。この術は妊娠した時に発動する術のようです。既に妊娠していたノルンさんは発動していません。」


「で。」




「もう一つは出産後、1つ目の術を止める術です。これは出産した時に発動するので、ノルンさんも男児を出産した時に発動済みです。」


「なるほど。」



「あと、胸の術ですが、これは母乳の免疫力を強化する術ですね、授乳中の感染症を減らして子供の生存率を上げて代を重ねる確率も上げようと考えたのではないでしょうか?」


「………」



「最後は丹田の術ですが、これにも2つの役目があります。1つ目は術にエネルギーを供給すること、2つ目は情報を保存することです。」


「情報を保存?」



「はい、妊娠するとこの場所に妊娠した印が刻まれ、その印を元に第一の術が発動するような仕掛だと思われます。同じように出産の印が刻まれると第二の術が発動するのではないでしょうか。」


 と締めくくるアース。



「なるほど、良く解った…して、アースよ、概ね占う前の予測と違わぬ結果に感じるが触診の意味は有ったかね?」


 ノルンが感じた疑問を問う。



「…えっと、確信に変わった?」


 とアース。



「「コラッ」」


 ノルンとクレアが同時に叱る。



「ハハハハハハハハハハ」


 ノルンは嬉しそうに笑っていた。

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