王都で

27. アーク・リンドバルト・タッポーリ・4世

 16歳のフレイ。


 お気に入りの書店へ向っていた。


 数日前に偶然発見した古書店で、裏路地に店を構えている。


 気持ちの良い秋晴れの午後。


 道中、喫茶店の前を通るとコーヒーの香りが鼻をくすぐる。



(なんだ?この気配。)


 香りとは別に歪んだ魔力の気配がある。



(魔法を使う者がいるのか?まさか、魔物?)


 魔法も魔物も太古の昔に滅びている。



 生きとし生けるもの全ては魔力を持っているが、それらは極々微量で、ましてや禍々しさを感じるような物ではない。


 この世界へ転生して初めて感じる禍々しく歪んだ魔力。



(何処だ?)


 方角を探ると目の前の喫茶店の上から感じる。



(二階にあるのは?テラス席か!)


 早々に一階でコーヒーを購入し、二階テラス席へ移動する。



(あの女性か!)


 その気配は一人の女性の中から感じられた。



(この感じ…魔力なのか? かなり歪に練り上げられた…)


 嫌な予感がするフレイ。


 確認をせずにはいられない。


 接触を試みる。



「こんにちは、私は占い師のアーク・リンドバルト・タッポーリ・4世です。」


 露骨に怪しい偽名を名乗るフレイ。


 咄嗟に占い師っぽい名前を考えた結果がこれだった。



「アーク・リンガー?」


 露骨に怪しい偽名を名乗る男に警戒するノルン。



「アーク・リンドバード?タッポーリ4世です。」


 自身の名を少し忘れた偽占い師のフレイ。



「さっきと名が変わっておらぬか?」


 偽占い師と断定した。



「アークとお呼びください。」


 偽占い師と断定された、と感じたが勢いで押し切ってみる。



「まぁ良い、して、何用じゃ?」


 迅速かつ速やかに追い払う方向で処理しようとする。



「あなたは変わった運勢をお持ちだ!」


 この街であまり聞かない話し方に旅を前提とした身なり、更にこの歪んだ魔力。


 色々な意味で怪しいと感じた偽占い師。



「ほぅ」


 4,000年も生きていれば、変わった運勢で間違いないと言えるが、やはり胡散臭い。



「向学のため詳しく占わせて頂けませんか?お代は不要です。」


 場所を変えて詳しく調査する機会が欲しいフレイ。


 信用を得るため必死だ。


 無料の占いで釣る作戦に出るが、誘拐犯の手口に近寄っている。



「どのような運勢かな?簡単に申してみぃ?それ次第では詳しく見せてやらぬでも無いぞ。」


 占い師を装い、人をさらう犯罪組織の一味に目を付けられたと断定したノルン。


 先にこの場を立ち去りこの男の仲間に強引に連れ去られるのも面倒と考え、人目のあるこの場で軽く占わせ退散してもらう策を練る。



「………」


 この場ではあるが、了解を得られた。


 フレイはこの女性の体内から出る怪しい気配を解析し始めた。


 その気配は身体の中心、良く分からないが、へその少し下辺りに核がありそこから心臓、両胸、あとは核より下、おそらく子宮に根を張るように延びている。



 ノルンの今の姿勢ではへその辺りから下がよく分からない。



「乳ばかり見ておらぬか?」


 集中して胸の辺りを視姦し続けるこの男に単なる変質者の可能性が急浮上した。


 この国の第三王子の可能性は浮上しない。絶対に。



「はい、胸ともう少し下の方を詳しく診たいのですが…」


 全集中していたフレイ、ノルンの問に素直に答えた。



「はぁ?!そこまでじゃっ助平偽占い師!!二度と顔を見せるな!」


 早急に追い払うには格好の返事が帰ってきた。


 すかさず追い払いに掛かる。



「えっ!あっ!ちっ違うんです!」


 ノルンにとっては違わない。



「違わぬわ阿呆!!!ハッキリと白状しておったであろう。」


 確かに自白していた。



「えっと…たっ、丹田!そう丹田のあたりにあなたは何かをお持ちなんです!」


 咄嗟に丹田と言う単語が出ずに言い訳のお手本のような台詞になった。



「言い訳は無用。…ん??」


 言い訳のお手本に、こちらもお手本で返したが『丹田の何か』と言うワードがノルンを激しく動揺させ動きを奪った。


 それほど強い心当りがあった。



「丹田から、その、両方の胸とおそらく子宮に根のような物が伸びていて…お子さんに纏る何かを感じるんです。」


 感じたことを素直に伝えた。



「むぅ…」


 こちらもクリティカルヒット。



「それと根は心臓にも伸びています。それは…あなたの、そのぅ、命に…」



「命と言うより寿命ではないか?」


 感情を抑え過ぎて震えるような声が出た。



「はい、おそらくは…えっ!」


 答え終わる間もなく、いつの間に立ち上がったノルンに胸ぐらを掴まれていたフレイ。



「詳しく見れば何が解る?して、お主は何ができる!」


 大声で怒鳴っていた。


 当たり前だ。



「エエエエエエっと!ま、先ずは短命か長命かが解る…」



「長命じゃ!!4,000年程生きておる!!」


 人間種で4,000年はあり得ない。

 そう、怒鳴って当たり前なのだ。

 ノルンが4,000年探しても見つけることができずにいた『解決の糸口』。



「エエエエエエ!じゃあ、あとどれ位生きるのか?とか、胸と子宮に伸びている根は何なのか?とかもぉ」



「おそらく胸と子宮は女児を生むためじゃろう。」


 その解決の糸口が向こうからやって来たかもしれないのだから。



「なるほど…それにしては条件が…」



「あぁ!かなり厳しい条件じゃよ、儂はそれにしくじった。」


 店内が静まり返っていた。


 バツの悪さで冷静さを取り戻したノルン。


 フレイの胸ぐらを放す。



「なるほど、なるほど。」


 距離ができたらすぐさま観察を再開した。



「あまり、見るな!」


「アアッと、失礼!」



「詳しく見ればなにか解るのか?して、何ができるんじゃ?」


「解りません!」



「なにしに来たんじゃ!」


「でも、お話を聞かせてくれませんか?何かできることが有るかも知れません。」



「連れがおっても良いか?」


「はい、お待ちしています。」



「で、お主、名は何じゃったかの?」


「えっと、ルーク?…でしたっけ?」



「お主の名じゃろぅ」



 次に落ち合う場所と時間を申合せ、この場はお開きとなった。


 この日は、お気に入りの古書店に姿を現さなかったフレイだった。

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